岩手県の久慈市と普代村で、小学生を対象にした1泊2日の体験学習「いわてマリンツアー2025 in 久慈」が開催されました。テーマは「ウニを救う」。全国でも有数のウニの産地として知られる岩手の海ですが、近年は温暖化や海藻の減少といった環境の変化により漁獲量が大きく落ち込んでいます。痩せたウニが増えて中身が詰まらず、漁業や食文化に直結する深刻な問題となっています。

今回のプログラムでは、小学5・6年生の子どもたちが岩手の海を舞台に学びました。大学の先生や漁業関係者から現状を聞くだけでなく、水族館で地元の海を再現した水槽を見学し、漁港では実際にウニを手に取って観察するなど、五感を通じた体験が盛り込まれています。さらに、殻を割って試食する場面もあり、普段食卓に並ぶ食材がどのように育つのかを実感できる内容でした。

2日間を通じて、子どもたちは「美味しいウニが食べられなくなるかもしれない」という現実を知り、環境問題が自分たちの生活に直結していることに気づいていきます。最後には、海を守るためにできることを話し合い、発表やデザイン制作を通じて学びを形にしました。小学生たちが真剣に取り組む姿は、大人にとっても大きな気づきを与えるものでした。

「美味しいウニが食べられなくなる?」岩手の海で進む深刻な変化

岩手県はリアス式海岸に代表される豊かな海を持ち、全国有数のウニの産地として知られています。しかし近年、そのウニが危機に直面しています。海水温の上昇や海流の変化によって海藻が減少し、海の中が岩ばかりの「磯焼け」と呼ばれる状態になることが増えているのです。ウニは本来海藻を食べて育ちますが、エサが不足すると痩せて中身が詰まらず、商品としての価値を失ってしまいます。

今回の学習に参加した子どもたちは、大学の専門家からこうした現状を聞き、普段口にする食材が実は環境の悪化によって影響を受けていることを知りました。「美味しいウニが食べられなくなるかもしれない」という事実に触れた子どもたちは真剣な表情で耳を傾け、海の変化が自分たちの生活に直結していることを強く意識するきっかけとなりました。

漁港で学ぶ“ウニを救う方法” 子どもたちが挑戦した観察と試食体験

午後には漁港へ移動し、ウニを守るための具体的な取り組みを学びました。地元の漁業関係者から紹介されたのは「畜養」という方法です。これは痩せたウニを海から引き上げ、人工的にエサを与えて健康な状態に育て直す仕組みで、自然のバランスを保ちながら資源を有効に活用する工夫といえます。

子どもたちは実際にウニを引き上げ、殻の中を観察する体験に挑戦しました。普段は水槽越しにしか見ることのない生き物に直接触れる体験に、驚きや歓声が上がりました。さらに自分たちの手で殻を割り、試食も行いました。初めて新鮮なウニを口にした子どもも多く、食卓に並ぶ食材がどのように生まれるのかを体感できる貴重な学びとなりました。

シュノーケリングで見た海の現実 ボランティア活動から学ぶ環境保全

2日目には、海を守るために地域で活動する人々の取り組みを学ぶ時間が設けられました。子どもたちが話を聞いたのは、震災をきっかけに誕生したボランティア団体の代表です。海底の清掃や、失われた藻場を再生する活動など、地道な努力で海の環境を回復させる方法が紹介されました。特に、海藻の種を守りながら育てる「スポアバック」という工夫は、子どもたちにとって新鮮で、環境を守るために人の力が大きな役割を果たせることを知る機会となりました。

また、シュノーケリングで実際に海へ潜り、魚や海藻の様子を自分の目で確かめる体験も行われました。水中での景色に触れながら、教わった知識が現実のものとして実感できた瞬間です。参加した子どもたちは、海の未来は遠い話ではなく、今まさに変わりつつあるものだと理解し、自分にもできることがあると感じ始めていました。

「自分にできること」を形に 子どもと保護者が語った岩手の海の未来

最終日の午後は、これまでの学びを整理して発信する時間が設けられました。子どもたちはグループごとに話し合い、「電気を無駄にしない」「海をきれいに保つために清掃をする」といった身近な取り組みから、「植樹をして二酸化炭素を減らす」「海藻を育てて藻場を守る」といった地域全体でできる工夫まで、幅広いアイデアを出し合いました。その内容は発表として共有され、自分たちの考えを仲間と分かち合う貴重な場となりました。

さらに、学んだことを広く伝えるために、ウニの商品パッケージのデザインやキャッチコピー作りにも挑戦しました。実際に販売される商品に使われる予定ということもあり、子どもたちは真剣に取り組み、多くの人に海の大切さを知ってもらいたいという思いを形にしました。

参加した子どもからは「ウニや海を守ることの大切さを知った」「普段はできない体験ばかりで、とても貴重だった」といった声が聞かれ、保護者からも「漁業の現場に触れたことで子どもが大きく成長した」「海の問題を親自身も考えるきっかけになった」との感想が寄せられました。学びを通じて生まれた意識の変化は、子どもだけでなく家族全体にも広がっていったようです。

小さな気づきが未来を変える 子どもたちが残したメッセージ

今回のプログラムでは、子どもたちが海の現状を学び、体験を通じて自分の生活と環境問題のつながりを考える機会が用意されていました。新鮮なウニを口にする喜びや、海の中を直接観察する驚きは、教科書だけでは得られない実感を伴った学びとなったはずです。

小学生が真剣に『海を守るために自分にできること』を語り合う姿は、大人にとっても大きな気づきを与えるものでした。豊かな海を次世代へ受け継ぐために、身近な生活の中で何ができるのか。子どもたちが示した小さな行動の積み重ねが、未来の海を変えていく大きな力になるのかもしれません。


プロジェクトと団体の紹介

イベントを主催した「一般社団法人 海と日本プロジェクトin岩手」は、子どもや若者を中心に海への関心を育み、地域に根ざした活動を行っています。これは日本財団が全国で推進する「海と日本プロジェクト」の一環で、豊かな海を次世代へ引き継ぐことを目的としています。

海と日本プロジェクトin岩手: https://iwate.uminohi.jp/
海と日本プロジェクト(全国): https://uminohi.jp/

情報提供元: ナイスコレクション
記事名:「 岩手のウニと海を守る 小学生たちが挑んだ1泊2日の学び