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8月29日早朝、北朝鮮によるミサイル発射に伴い、東日本地域ではJアラート(全国瞬時警報システム)による情報伝達が行われました。今後もその頻度は上がっていく可能性があります。
内閣官房の国民保護ポータルサイトでは、弾道ミサイルが飛来した際にとるべき行動を以下のように紹介しています。
しかし、このなかでも「地面に伏せて頭部を守る」については、「意味がないのでは?」とネットなどで話題になっていました。
本当にそうなのでしょうか? そこで、ア理科シリーズでおなじみ、『アリエナイ理科式世界征服マニュアル』の著者である亜留間次郎氏に、詳しい解説をお願いしました!
頑丈な建物や、物陰があるなら、もちろんそこに逃げ込むのが一番です。ただし、周囲に何もない場合、爆風や飛来物に対して、地面に伏せるという防御法はきわめて有効です。
まず、投影面積を最小化することで、被弾率が格段に減少します。そして、「多数の飛来物がランダムに放物線を描く場合、どの距離にいる人間も、低い位置であるほど交差する確率が下がる」ということが、長年の戦争と、統計によって証明されているのです。
ちょっと難しい話になりますが、兵器の運用においては「射爆理論」という、砲撃で相手を加害するための理論があります。その中では、ミサイルの破片が人を殺傷する期待値なども計算したりするのですが、統計学で言う「確率変数X」(被害者の暴露面積)が小さいほど、殺傷できる期待値E(R)は小さくなります。以下で、射爆理論で使用される数式の一部を紹介しておきましょう。詳しくは『改訂 軍事ORの理論《捜索理論、射爆理論、交戦理論》』(飯田耕司著、三恵社) をご覧ください。
重力と空気抵抗がある地球では、飛来物は地面すれすれを水平に遠くまで飛び続けることはできません。放物線を描いて、いずれは地面に落ちます。上の図は、爆発によってランダムに撒き散らされた破片の放物線のシミュレーションです。運動エネルギーはすべて同じで、角度が違うだけの設定となっています。この図の場合、都合よく伏せている人間に飛来物が当たる範囲は60-80の狭い領域に限定されているのがわかるでしょう。しかし、もしその人が立っていたりして高さがある場合は、安全領域のはずの距離でも命中してしまうのです。
放物線の起点よりも高い位置にいると飛来物に交差する確率が高くなり、起点とほぼ同じ高さなら、飛来物と交わる確率は小さくなります。つまり、投影面積が同じなら、高さが低いほど当たりにくいという結論が導き出せます。
ゆえに、遮蔽物のないところで爆風や飛来物から身を守るためには、「地面に伏せる」が最善の方法となるわけです。
さらに言えば、伏せるよりも低い位置、高さがマイナスになればもっと安全です。そう、塹壕を掘るのです。戦争において、あらゆる面で「地面」に勝る防具はありません。先ほどの図の60-80の範囲に該当したとしても、幅1m程度の穴に潜り込んでいたならば、飛来物が直撃する可能性はかなり下がります。
周囲に丈夫な建物がない場合、これからミサイルの爆風を遮蔽できる施設を建てるというのは金銭的にも時間的にも現実的ではないでしょう。それよりも、身長くらいの深さの竪穴を掘るほうが、すぐに準備ができるし効果的です。Jアラートが鳴ったら、その中に入ればOK。かなりの至近距離に着弾した場合でも、助かる可能性がアップします。
このとき、ヘルメットを被ることで頭部の防御力を高めます。軍人が鉄兜を被っているのも、匍匐前進と塹壕掘りが重要視されるのも、核兵器を含めた大半の兵器に対して、きわめて有効な防御方法だからです。
ただ、核爆発の直撃を避けられたとしても、放射線を浴びてしまう可能性はあります。そういった場合には、放射線防護剤や放射線障害軽減剤といった薬が必要になるかもしれません。これらについては『アリエナイ理科式世界征服マニュアル』に詳しく書いてありますので、ぜひ参考にしてください。
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もはや「弾道ミサイルの飛来は絶対にない」とは言いきれない状況です。塹壕を掘れない場合でも、たとえば通勤・通学路において逃げ込める場所をチェックしておくなど、できる範囲で対策を検討しておくに越したことはないでしょう。