- 週間ランキング
また、パタゴニアと言えば環境配慮も群を抜いて早かった。94年からリサイクル・ポリエステルを100%使用していて、近年はフェアトレード・サーティファイドの縫製を採用するなど、自然環境や貧困に対する持続可能な取り組みに古くから目を向けたモノづくりをしている点もここに特筆しておきたい。
「スナップT」は最近タウンユースでよく見かけるアイテムとなっているが、当初はアルパインクライミングなどのアクティブなスポーツウエアとして1985年に誕生。〝シンチラ〞素材を使った機能的な生地や無駄を極限まで削った洗練された作りは、快適で気軽に外に出かけたくなる逸品だが、ブランドを象徴とするギアのひとつなのだ。〝シンチラ〞とは、同年にパタゴニアとモルデン・ミルズ社が共同開発したフリース素材のこと。
世に〝シンチラ〞が登場するまで(〜1980年初頭まで)は、山登りなどのアクティビティには吸水性や保温性、放熱性の高い天然ウールのウエアが重宝されてきた。しかし、羊毛は雨に濡れると重くなるデメリットがあり、洗濯するのも乾かすのも大変ということで、パタゴニアが開発に乗り出したのだ。ブランドのホームページには、編集者レイ
チェル・G・クラークの言葉でこう記されている。
「70年代初期、イヴォン・シュイナード(創業者)はカナダの布地販売店でアクリルのパイル生地を見つけました。この発見をきっかけに、マリンダ・シュイナードはロサンゼルスのファッション地区に出向いて似たような生地を探しました。彼女がそこで持ち帰ったのは、便座カバーに使われるポリエステル製の生地でした。そのひと巻きの生地はそれまでに収集された他のサンプルとともにしばらく眠っていましたが、ある日イヴォンによって再発見され、裁縫室に持っていかれました――その後パタゴニアはマサチューセッツに拠点をおく素材メーカー、モルデン・ミルズ(現在のポーラテック)社と提携して、軽量で丈夫なポリエステル製パイル素材を開発し、その生地から真の意味で最初のフリース・セーターを作りました」。
フリースの始まりが便座カバーにあったという話しは驚きだが、かくしてウールの強みを再現しつつ、ウールの弱点もカバーするポリエステル素材でできたのがパタゴニアの名作フリース「レトロX」の原型となる。その後、「レトロX」の原型を改良して〝シンチラ〞を開発すると、いろいろなメーカーが類似の生地を作るようになり、業界でフリースと呼ばれるようになったらしい。
「スナップT」も同じ頃から普及しているからこそ、多くのフリースの元となるのは免れられないことなのだ。そんな〝シンチラ〞だが、なんとゴミになったペットボトルを原料に作られているというからパタゴニアには度々驚かされる。しかも、ポケットやトリム部分には、じつはブランドの定番ショーツ「バギーズ」の端切れ生地を使用しているのだ。
今やパタゴニアのミッションは〝環境に配慮する〞というものから〝故郷である地球を救う〞となっている。どんな素材が使えるのか使えないのか、製品を製造する過程でカーボンニュートラルはどれだけ実現できているかを細かく計算しているから称賛に値する。
類似品が多く出まわっていても、それらはこういったマインドまでを継承できているのか。誕生秘話や、企業努力を垣間見ると、街でも着られるアウトドアウエアに余念がないボクたちが「スナップT」や〝シンチラ〞を応援しないでどうするんだと改めて気づかされた。
柄も豊富がゆえにコレクタブルなスナップTだけど、子どもの代まで受け継げるくらいタフで普遍的なのが1番の魅力。そんなワケで業界人たちが古くから所有している“息の長い1枚”を見せてもらいました。
左下のものと似ているようで違う90年代半ばに購入した、1990年秋発売のレッドバイオレット。「シンチラの肌触りがいいから、キャンプでは丸めて枕代わりにしています。発色がいいので、街着ではシックなミリタリーアウターのインナーに使って着ることが多いですね」。
スナップTには“フリース素材のスウェット”というイメージを持っていて、昔から何着も買っているとのこと。「特に気に入っているのが10年くらい前に手に入れた96年製の柄モノ。ヘビーウエイトより、ライトウエイトのモデルを用いて、冬のインナーにすることが多いです」。
99年の学生時代に、山行中のハイカーが着ていたスナップTを見てイケてるなと思い、その影響を受けて購入したモノ。「日課にしている秋冬の銭湯サウナの行き帰りに着るとかなり優秀で、湯冷めしない保温力と、リラックスできる着心地、サイズ感も含め、完璧なんです!!」。
「当時はフリースが今ほど広まっていなかったので、軽くて暖かくてすぐ乾くことに感動しました」。プルオーバー&スナップボタンの形も他ブランドにはないモノだったとのこと。「袖口や裾がパイピングになっているから着ていてラク。スノーボードのレイヤーに重宝します」。
アパレルのセレクトショップでは日本初のディーラーとなり、早23年になる人気のセレクトショップ「ロフトマン」。取扱い当初のことや、スナップTとの出会いなど、代表の木村さんに話を聞いてきました。
「今は日本でもパタゴニア製品が手に入るショップって結構あると思いますが、かつて(2000年頃まで)は一部のスポーツショップでしか見ることができず、アパレルのセレクトショップに並んでいることなんてまずなかったんです」と話しをしてくれたのは、1976年創業の老舗。京都を拠点に関西に6店舗、そして東京代々木上原駅前に昨年オープンした1店舗を合わせて計7店舗を運営するセレクトショップ、ロフトマンの代表・木村真(きむらまこと)さん。業界でも指折りのパタゴニアツウとして知られる木村さんはその頃、どのようにパタゴニアを見ていたのか。
「高校生の頃、日本ではほとんど並行輸入品しか見ることができず、とにかく高価なイメージで……。大学生になったときに北海道までスノーボードに行ったとき、秀岳荘という今もあるアウトドアショップで黒のスナップTを買ったのが、ボクの最初のパタゴニアでした。そのあとはロフトマンに入って、ベンチュラに買い付けに行った際にピンクも購入。みんなが買い付けに行っているからか、XLとかしか並んでないんですよ、仕方なしに合わないけどそのサイズを買っていました」。
最初に手にしたスナップTを機に、木村さんのパタゴニア熱はどんどん強いものに。99年に単身、関西からプレゼンボードを持ってわざわざ鎌倉の日本支社まで〝取り扱いをさせてほしい〞と直談判しにいったというから脱帽。しかも見事セレクトショップでは初のアカウント開設を成したのだ。「〝山に行くからフリースを買おう〞という人が多
かったなか、〝フリースを買ったから山にでも行ってみようか〞というのを提案したかった」と木村さん。スナップTにおいてはスノーボードのインナー使い、車中泊時でも着心地がよく、街着としてもユニークに活用できることを、身をもって体感していたからこそできた発想なのだろう。
木村さんの裏に見える代々木上原店のドアに設えられたステンドグラスが気になって、なんなのかを聞くと、パタゴニア地区に息づくマプチェ族が使う植物を意味する柄をイメージして作っているのだそう。想像以上のパタゴニア愛だった。
スナップTの生い立ちや、業界人のスナップT愛を垣間見たら、やっぱり1着欲しくなってしまうのがこ のアイテムの恐ろしいところ。物欲、外遊び欲をそそられる今季の新モデルをまとめてご紹介します!!
M’s Lightweight Synchilla Snap-T Pullover 各¥16500
軽くて温かく、スウェットを着るようにさらりと羽織れて、洗ってもすぐ乾く、外遊び好きにはたまらなく頼りになる「スナップT」。今季もまた個性豊かなカラーリングの数々が発売している。まずは毎度登場するたび、そのユニークさでファンを魅了する柄モノ!
今季は『WanderingWoods』という名称で、デザイナーが自然のなかに身を置くことからインスピレーションを得た柄が登場。木々の天蓋に覆われること、落ち葉、蛇行する小川の横断、季節のサイクル(太陽や星)を、タペストリーやキルティングの連続したパターンで配置している。ソリッドカラーは写真のWavyBlue、CabinGold、Blackなどがラインナップ。数年後にどういうイメージになっているかを考えて色を選ぶのも「スナップT」の醍醐味だ。
本記事は、GO OUT vol.160からの転載記事です。
Photo/Shouta Kikuchi
Report &Text/Naoto Matsumura
(問)パタゴニア日本支社カスタマーサービス tel:0800-8887-447 www.patagonia.jp
The post 誕生秘話や愛用者たちの言葉から見えてくる。パタゴニアの名品フリース「スナップT」の魅力。 first appeared on GO OUT.