patagonia(パタゴニア)」を象徴するアイテムのひとつ“シンチラ・コレクション”の永世定番ウエア「スナップT」に着目。ウールと同等の保温性と耐久性を備え、軽量ですばやく乾く。誰しも1度は目にしたことのあるフリースのパイオニアに迫りました。

スナップTは、そのデザインに限らず、そもそもすべてが革新的だった。

今年で誕生して37年目となる、パタゴニアの名品フリース「スナップT」を今一度掘り下げたい。節操なく類似品が出まわる昨今において、やはり本家本元を知っておきたいと思ったからだ。スナップボタン&プルオーバーのフリースをいち早く手がけたのは言うまでもなくパタゴニアなのだが、それもそのはず。無知は罪とはこのことで、まさかフリースを開発したのもパタゴニアだったとは。

フリースの開発秘話は後半に。プルオーバータイプのその1着は、テクニカルなレイヤーを実現することに加えて、バリエーション豊富に存在するビビッドな配色も魅力だ。しかもとにかくタフで、長く着られるのも愛されている要因のひとつなのだろう。発売年ごとに様々なカラーリングがリリースされ、モノによっては価値がどんどん増していたりするのも面白いところ。

また、パタゴニアと言えば環境配慮も群を抜いて早かった。94年からリサイクル・ポリエステルを100%使用していて、近年はフェアトレード・サーティファイドの縫製を採用するなど、自然環境や貧困に対する持続可能な取り組みに古くから目を向けたモノづくりをしている点もここに特筆しておきたい。

「スナップT」は最近タウンユースでよく見かけるアイテムとなっているが、当初はアルパインクライミングなどのアクティブなスポーツウエアとして1985年に誕生。〝シンチラ〞素材を使った機能的な生地や無駄を極限まで削った洗練された作りは、快適で気軽に外に出かけたくなる逸品だが、ブランドを象徴とするギアのひとつなのだ。〝シンチラ〞とは、同年にパタゴニアとモルデン・ミルズ社が共同開発したフリース素材のこと。

修理も受け付けているから、スタッフたちの私物もつねに現役!
パタゴニアで働く社員たちの持つスナップTをいくつか見せていただいたら、その現役っぷりに驚いた。中には97年にユーラシア大陸自転車横断17,000kmの旅に持っていかれたものや、父親が94年に購入したものを入社祝いで譲り受けたもの、2011年から毎シーズン着ているものも。なぜなら修理対応も行なっているから、長く愛でることができるのだ。

世に〝シンチラ〞が登場するまで(〜1980年初頭まで)は、山登りなどのアクティビティには吸水性や保温性、放熱性の高い天然ウールのウエアが重宝されてきた。しかし、羊毛は雨に濡れると重くなるデメリットがあり、洗濯するのも乾かすのも大変ということで、パタゴニアが開発に乗り出したのだ。ブランドのホームページには、編集者レイ
チェル・G・クラークの言葉でこう記されている。

「70年代初期、イヴォン・シュイナード(創業者)はカナダの布地販売店でアクリルのパイル生地を見つけました。この発見をきっかけに、マリンダ・シュイナードはロサンゼルスのファッション地区に出向いて似たような生地を探しました。彼女がそこで持ち帰ったのは、便座カバーに使われるポリエステル製の生地でした。そのひと巻きの生地はそれまでに収集された他のサンプルとともにしばらく眠っていましたが、ある日イヴォンによって再発見され、裁縫室に持っていかれました――その後パタゴニアはマサチューセッツに拠点をおく素材メーカー、モルデン・ミルズ(現在のポーラテック)社と提携して、軽量で丈夫なポリエステル製パイル素材を開発し、その生地から真の意味で最初のフリース・セーターを作りました」。

写真のピンクのフリース。子どもが首元を引っ張って外れてしまったボタンを、あえて違うカラーのボタンに取り換えているというから面白い。ボタンの取り付けくらいならパタゴニア各店舗で対応できるようで、流石のケアである。

フリースの始まりが便座カバーにあったという話しは驚きだが、かくしてウールの強みを再現しつつ、ウールの弱点もカバーするポリエステル素材でできたのがパタゴニアの名作フリース「レトロX」の原型となる。その後、「レトロX」の原型を改良して〝シンチラ〞を開発すると、いろいろなメーカーが類似の生地を作るようになり、業界でフリースと呼ばれるようになったらしい。

「スナップT」も同じ頃から普及しているからこそ、多くのフリースの元となるのは免れられないことなのだ。そんな〝シンチラ〞だが、なんとゴミになったペットボトルを原料に作られているというからパタゴニアには度々驚かされる。しかも、ポケットやトリム部分には、じつはブランドの定番ショーツ「バギーズ」の端切れ生地を使用しているのだ。

スナップボタンが壊れてしまっても、近くのパタゴニア直営店で修理可能!

今やパタゴニアのミッションは〝環境に配慮する〞というものから〝故郷である地球を救う〞となっている。どんな素材が使えるのか使えないのか、製品を製造する過程でカーボンニュートラルはどれだけ実現できているかを細かく計算しているから称賛に値する。

類似品が多く出まわっていても、それらはこういったマインドまでを継承できているのか。誕生秘話や、企業努力を垣間見ると、街でも着られるアウトドアウエアに余念がないボクたちが「スナップT」や〝シンチラ〞を応援しないでどうするんだと改めて気づかされた。

スナップTを長く愛用する業界人の1枚。

柄も豊富がゆえにコレクタブルなスナップTだけど、子どもの代まで受け継げるくらいタフで普遍的なのが1番の魅力。そんなワケで業界人たちが古くから所有している“息の長い1枚”を見せてもらいました。

街でも遊べる発色が◎。

金子敏治 CAL O LINE/デザイナー
アメリカ西海岸のカルチャーを背景としている人気ブランド、キャルオーラインを手がけるデザイナー。「サーフィンは元より、最近はサッカーやフットゴルフに熱中しています」。

左下のものと似ているようで違う90年代半ばに購入した、1990年秋発売のレッドバイオレット。「シンチラの肌触りがいいから、キャンプでは丸めて枕代わりにしています。発色がいいので、街着ではシックなミリタリーアウターのインナーに使って着ることが多いですね」。

カットソー感覚で所有。

アクタガワタカトシ
フリークリエイティブディレクター

GO OUTの連載「LBOT」でもお馴染みのエディター/クリエイティブディレクター。雑誌の企画や編集、スタイリング、さらにはブランドのディレクションまでマルチに活躍している。

スナップTには“フリース素材のスウェット”というイメージを持っていて、昔から何着も買っているとのこと。「特に気に入っているのが10年くらい前に手に入れた96年製の柄モノ。ヘビーウエイトより、ライトウエイトのモデルを用いて、冬のインナーにすることが多いです」。

山で思わずひと目惚れ。

山田昭一 people showroom/ディレクター
アウトドアギアやアパレルを主に扱う「ピープルショールーム」を運営。ブランドのPRやマーケティング、カタログ制作などを行う。休日はもっぱら釣りやキャンプに出向く外遊び派。

99年の学生時代に、山行中のハイカーが着ていたスナップTを見てイケてるなと思い、その影響を受けて購入したモノ。「日課にしている秋冬の銭湯サウナの行き帰りに着るとかなり優秀で、湯冷めしない保温力と、リラックスできる着心地、サイズ感も含め、完璧なんです!!」。

30年程前に買った現役。

斉藤淳史 OSHMAN’S/MDマネージャー
アウトドアやスポーツのアイテムを幅広く取り揃えるセレクトショップ、オッシュマンズのマーチャンダイザー。「今年は、昨年よりも多く子どもたちとスノーボードに行く予定」。

「当時はフリースが今ほど広まっていなかったので、軽くて暖かくてすぐ乾くことに感動しました」。プルオーバー&スナップボタンの形も他ブランドにはないモノだったとのこと。「袖口や裾がパイピングになっているから着ていてラク。スノーボードのレイヤーに重宝します」。

23年取扱い! ロフトマンのパタゴニア愛。

アパレルのセレクトショップでは日本初のディーラーとなり、早23年になる人気のセレクトショップ「ロフトマン」。取扱い当初のことや、スナップTとの出会いなど、代表の木村さんに話を聞いてきました。

木村 真 ロフトマン 代表取締役
関西屈指のセレクトショップ、ロフトマンに1996年入社。会社設立40周年のときにはパタゴニアと記念のビーチタオルを発売するなど、かねてよりブランドとの交流が深い。着用しているのは今季の新作。

「今は日本でもパタゴニア製品が手に入るショップって結構あると思いますが、かつて(2000年頃まで)は一部のスポーツショップでしか見ることができず、アパレルのセレクトショップに並んでいることなんてまずなかったんです」と話しをしてくれたのは、1976年創業の老舗。京都を拠点に関西に6店舗、そして東京代々木上原駅前に昨年オープンした1店舗を合わせて計7店舗を運営するセレクトショップ、ロフトマンの代表・木村真(きむらまこと)さん。業界でも指折りのパタゴニアツウとして知られる木村さんはその頃、どのようにパタゴニアを見ていたのか。

「高校生の頃、日本ではほとんど並行輸入品しか見ることができず、とにかく高価なイメージで……。大学生になったときに北海道までスノーボードに行ったとき、秀岳荘という今もあるアウトドアショップで黒のスナップTを買ったのが、ボクの最初のパタゴニアでした。そのあとはロフトマンに入って、ベンチュラに買い付けに行った際にピンクも購入。みんなが買い付けに行っているからか、XLとかしか並んでないんですよ、仕方なしに合わないけどそのサイズを買っていました」。

最初に手にしたスナップTを機に、木村さんのパタゴニア熱はどんどん強いものに。99年に単身、関西からプレゼンボードを持ってわざわざ鎌倉の日本支社まで〝取り扱いをさせてほしい〞と直談判しにいったというから脱帽。しかも見事セレクトショップでは初のアカウント開設を成したのだ。「〝山に行くからフリースを買おう〞という人が多
かったなか、〝フリースを買ったから山にでも行ってみようか〞というのを提案したかった」と木村さん。スナップTにおいてはスノーボードのインナー使い、車中泊時でも着心地がよく、街着としてもユニークに活用できることを、身をもって体感していたからこそできた発想なのだろう。

木村さんの裏に見える代々木上原店のドアに設えられたステンドグラスが気になって、なんなのかを聞くと、パタゴニア地区に息づくマプチェ族が使う植物を意味する柄をイメージして作っているのだそう。想像以上のパタゴニア愛だった。

今冬、スナップTでどんな外遊びをしようか。

スナップTの生い立ちや、業界人のスナップT愛を垣間見たら、やっぱり1着欲しくなってしまうのがこ のアイテムの恐ろしいところ。物欲、外遊び欲をそそられる今季の新モデルをまとめてご紹介します!!

森から着想を得て作られた柄か、 または馴染みのユニーク配色か。

M’s Lightweight Synchilla Snap-T Pullover 各¥16500

軽くて温かく、スウェットを着るようにさらりと羽織れて、洗ってもすぐ乾く、外遊び好きにはたまらなく頼りになる「スナップT」。今季もまた個性豊かなカラーリングの数々が発売している。まずは毎度登場するたび、そのユニークさでファンを魅了する柄モノ!

今季は『WanderingWoods』という名称で、デザイナーが自然のなかに身を置くことからインスピレーションを得た柄が登場。木々の天蓋に覆われること、落ち葉、蛇行する小川の横断、季節のサイクル(太陽や星)を、タペストリーやキルティングの連続したパターンで配置している。ソリッドカラーは写真のWavyBlue、CabinGold、Blackなどがラインナップ。数年後にどういうイメージになっているかを考えて色を選ぶのも「スナップT」の醍醐味だ。

本記事は、GO OUT vol.160からの転載記事です。

Photo/Shouta Kikuchi
Report &Text/Naoto Matsumura


(問)パタゴニア日本支社カスタマーサービス tel:0800-8887-447 www.patagonia.jp

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情報提供元: GO OUT
記事名:「 誕生秘話や愛用者たちの言葉から見えてくる。パタゴニアの名品フリース「スナップT」の魅力。