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東京オリンピックを目前にして俄然注目を集めているのがクライミング。スポーツニュースでも大会の結果などをよく見かけるようになった。そんな大会においてコース設定を行うなど、元日本代表選手としてクライミングを支え続ける永田乃由季さん。実はGO OUT CAMPが開催されているふもとっぱらにある常設のボルダリングウォールは永田さんによる設計。他でも様々なイベントやジムのコース設定なども手がけられている。永田さんにクライミングとは?という初歩的質問から日本代表選手の話、そしてどんな人がクライミングをするのに向いているのか?などを聞いてみた。
クライミングっていうのは広い枠で登ることそのものを指して、ボルダリングはその中のジャンルの1つですね。なので本質的には登るという意味で同じものなんですが、一般的にロープをつけて壁を2-30m登るような競技をクライミングって呼ぶことが多いです。ボルダリングは元々、クライミングの2-30mある壁面の中の難しいパート、核心部って呼ぶんですけど、その部分だけを練習するために生まれたんです。で、そこを特化して練習してたらみんなが面白がりはじめて、どんどん別のカルチャーとして広がっていきました。なので、登山=アルパインクライミングがあって、その一部がクライミングであり、またその一部がボルダリングとも言えるかと思います。今、ボルダリングは動きがどんどんハードになっていて、2-3mくらい飛ぶような動きもあったりするんですが、それはロープで登るクライミングでは出てこない技術です。単純に難しさとかフィジカルの重要さとかで言えばボルダリングは独自のものになってきていますね。そうやってボルダリングが独自に進化したこともあって、ロープは一切やらない、自然の壁は登ったことがないっていうような人も出てきていますし。
自然の壁はまた違うんですよね。ジムの壁でやるようなホールドからホールドへ飛んでつかまってみたいなのはなくて、数mmの突起をつかんで、見えないようなところに足をひっかるなどの技術が必要になります。バランスも人口壁よりも繊細になりますし動物的な感覚も必要になります。あとは自然なので環境によって大きく変わります。例えば気温差でも大きく変わるんですが、夏場の岩は湿度がたかくてヌルヌルしてるので登りにくいとか、秋冬の乾燥した季節の岩だと登れるなんてことも多々あります。
今の選手たちは相当レベルが高いですね。昔とは比べ物になりません。今、日本代表の伊藤ふたば選手のコースセッティングとかやってるんですけど、もうあの子たちは神レベルです!! 僕が全盛期にやっててもまず敵わない(笑)。日本はクライミング競技において世界でもトップクラスなんです。国別ランキングでいうと1位で、2位の国との差もすごく大きい。だからオリンピックでのメダル獲得もすごく期待されています。昔はヨーロッパが強かったんですが、ここ5-6年は日本ですね。強くなった理由としては環境の変化が大きいと思います。国内でのコンペの数が増えて競争が増えたのと、日本人独特の真面目さも影響しています。なにより体型でも日本人はクライミングに向いているんです。体が大きいと受ける遠心力が強くなるんですよ。ホールドからホールドへ移る時に横移動だと、体が揺れちゃうじゃないですか。あれは体が大きければ大きいほど影響を受けやすくて、体が小さいと受ける影響も小さくて済む。棒を振り回すのに長いのをコントロールするより短い方がコントロールしやすいって言うとわかりやすいですかね。とにかくクライミング競技における日本はサッカーでいうところのスペインとかブラジルって感じですよ。もう異次元の強さ。そんなレベルの選手が戦うW杯とかオリンピックの中だと、もう選手たちのフィジカルやテクニックのレベルはほぼ同じだと思うんですね。みんなトレーニングで上げられるところまで上げきっているので。そうなると最後に大事なのが根性なんですよ(笑)、メンタルですね。そばから見ていてそれはすごく大切だと思いますね。
元日本代表だった仲間で代表選手のためのコース設定をするんですけど、僕らがこれ大丈夫かな?クリアできるかな?って思うようなコースでも一発でやっつけちゃう(笑)。ボルダリングって大体8手くらいでクリアできて、その内の3手くらいを難しく設定するんですが、そこも全部一発でやられちゃいます。コースを設定する時に限りなく日本代表に実力が近い試登員も用意して設定したコースの確認をしてもらってるんですね。難しすぎると選手が全員同じところで落ちたりして勝敗がつかないこともあるので。そこまでやってギリギリのラインで作るんですが、一撃でクリアされちゃいます(笑)。
そんな選手たちがオリンピックを機にもっと注目されて、経済的にもサポートをどんどん受けられれば、業界全体も潤ってくるので、より大きな盛り上がりが期待できます。僕が代表だった10年ちょっと前くらいだとクライミングの選手がメディアに露出するなんてこともほぼありませんでした。選手層も薄かったですし。それがどんどん露出することで世間からの認識もすごく高まってきていると思うので、東京オリンピックを機により大きなムーブメントになれば嬉しいですね。
僕がクライミングを始めたのは14歳の時、沖縄のコザに住んでた頃です。米軍基地が年に一回だけ一般開放されるんですよ。その時に8mほどのクライミングウォールがあって。それが初体験です。ロープをつけて一番上まで登るとボタンがあって押すと「ブー」って音が鳴るんですよ。その音とともに感じる達成感が気持ちよくてクセになりました。で、クライミングジムを探したら、家から5分のところに偶然、当時沖縄で唯一のジムがあったんですよ。そこで始めてから今日までずっとって感じですね。その頃、沖縄の若い子ってバスケかダンスをやるのが主流で、友達からもダンスやったらモテるよとかって誘われたんですが、生来ひねくれものなんで、人と同じことをやりたくなかったんですよね。だったら「俺はクライミングでモテてやるよ」(笑)って他はやらずにクライミングばかりやってました。そのあと、クライミングをもっとやりたくて高校を出て東京へ引っ越してきたんですよ。沖縄時代にジュニアオリンピックとかにも出てたんですが、そういう大会で色んな地方の同年代のクライマーと会うじゃないですか。沖縄では同年代がいなかったのでそれがすごく嬉しかったし、励みにもなったというのもあって東京でやろうと思いましたね。
ボルダリングを始めるのに運動神経や年齢は関係ないですよ。歳がいって筋肉が落ちたような方でも大丈夫です。トレーニングジムで筋肉つけるのと同じで、壁に登れば筋トレになりますからね。ボルダリングの方が景色が変わるし、動きが様々あるので、楽しみながら筋トレできるって感じでしょうか。あとジムに行くと同じコースにトライしてる同じくらいのレベルの人同士って話しやすかったりするので仲間もできやすいです。で、仲良くなったら外の岩場にみんなで行って、そのままキャンプしたりとかもよくしますしね。筋トレのような単純な動きが辛いとか運動が得意じゃないって人にこそトライして欲しいですね。
GO OUT CAMPでボルダリングを始めたのはもう7-8年前だと思うんですが、当時音楽が聴けるフェスでボルダリングをやってたのは少なくて珍しいトライだったと思います。しかも今も継続してますからね!! ふもとっぱらに常設させてもらっているボルダリングウォールは設計から施工までやりました。あの壁の高さ、傾斜ってビギナー向けで考えるとギリギリに設定してあってあれより高いと怖くなるんですよ。怖いことって楽しめないじゃないですか。だからその辺りは誰でも参加できるようにこだわって設計しました。あと野外イベントでもボルダリングウォールを見かけるんですが、ホールドが拳サイズくらいのがついてることが多くないですか? ふもとっぱらのは本気のジムや大会で使うような大きなものも付いてるんですよ。それって多分珍しいと思います。コースが複雑になるからというのもあるのですが、クライミングって壁をパッと見てホールドのカラフルさとかサイズの大小、壁自体の傾斜なんかで視覚的に面白そう!!って思えるのも大切なんですよ。見て面白そう、やって面白いっていうのが重要。そうやってビギナーの人たちが参加しやすいように作ってるんですが、おかげさまで子供から大人まで初めての方を中心に参加してくれてますね。もちろんシューズ持参で来るような常連さんも多いですよ。あと、GO OUT CAMPで初めてクライミングをやって、その後近所にジムに通うようになって上手くなった人とかもいますしね。
以前は金曜の夜に国内の錚々たる実力者を集めてコンペをやったりもしました。お客さんもかなり集まってくれてステージショーみたいに盛り上がってくれたから嬉しかったですね。ボルダリングをよく知らない人もいる中でのコンペって初めてだったのでどうなるかと思ったんですが、あれは大成功でした。来年の春くらいにぜひもう一回やりたいですね。今は子供がたくさん集まってきますが、ぜひ大人のお客さんにも来て欲しいんですよね。子供向けと思っちゃってる人もいると思うんですけど、実は壁の右から左に向かうにつれて大人向けの課題になるようセッティングしてたりもしてます。あとはモテるようにもセッティングしてるんですよ(笑)。登る時に動きが激しく映えるようにしているので、女子と一緒に来て、見てもらった時にカッコよく見えるようになってます!!!