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1982年からパ・リーグの審判員を務め、2018年に審判技術指導員を退職したあと、審判の権威向上を目指して講演や執筆活動を精力的に行っている山崎夏生さんという人がいる。その山崎さんが、野球・MLBの総合コラムサイト『full-Count』で、NPBでも2016年より本格的に導入されたビデオ判定によるリプレー検証「リクエスト制度」について持論を展開なされており、興味深く拝読させていただいた。
結論から申せば、山崎さんは「リクエスト制度」に対しては「否」──「なくなってほしい」とキッパリ断言する。おおよその理由は以下のとおりであった。
「リクエスト制度が導入され、今の審判のジャッジは“仮判定”のようなものになってしまいました。私もNPBという組織に属していましたので、導入が決まった同制度には最善を尽くさないといけないと思い、やっていました。でも、私は好きじゃない。人間のやるスポーツですから、人間の目で裁きたい」
(中略)機械で淡々とでは全然、野球が面白くない。監督が血相を変えて、ベンチから出てきて、審判とガンガンやりあっての退場劇。これもプロ野球の絵です。言い方は悪いですが、抗議もトラブルもプロ野球のひとつでした」
たかだか草野球歴17年程度でしかない素人が、審判界では「レジェンド」と呼ばれて久しい山崎さんと意見を異にするのはいささか心憚られるのだが、私は正直なところ、この「リクエスト制度」には、どちらかと言えば「賛成」だったりする。なぜなら、個人やチームの技能を競い合う“スポーツ”からは、抗議だとか乱闘だとかの曖昧さから発生する余計な要素と、それらのトラブルによって割かねばならない無駄な時間は極力排除してもらいたいから……にほかならない。人間の目よりも機械のほうがより高い精度でジャッジができるのなら、任せられる部分はソッチに任せてしまってもかまわないのではないか?
テニスでも「チャレンジ」なるビデオ判定が導入され、“誤審”によるトラブルは格段と減少した。1980年にビヨン・ボルグがウィンブルドン5連覇をかけジョン・マッケンローと4時間にもおよぶ死闘を繰り広げた名勝負も、当時にチャレンジ制度があったとすれば、マッケンローも徒(いたずら)に審判のジャッジに苛つくこともなく、もしかすると勝敗だって覆っていたかもしれない。
ただ、米国のMLBでは、ストライクやボールという判定さえ機械に委ねるべき……という流れも出てきていると聞く。が、私はそれに関しては山崎さんと同様、猛然と「反対」の意を示したい。
今日の主審はストライクゾーンが広い(or狭い)、高めが甘い、アウトローのあのコースはなかなかストライクを取ってくれない……そんなこんなを守備側と攻撃側、さらには裁く側と裁かれる側が三すくみ状態で水面下のかけ引きしながら、試合ごとの彩りを加えていく……これも野球の大きな醍醐味の一つなのだ。
他のスポーツと違って“必要な曖昧さ”ってヤツが間違いなく存在するのが野球──そういう意味で、野球とは……芸術的な側面をも併せ持つ希有なスポーツなのである。