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乗り物にとって切っても切れない存在のひとつに「音」がある。エンジンやモーターなどの唸りはあるし、風切り音や波の音もある。「音鉄」のように趣味の対象になる一方、飛行機や新幹線などでは裁判に発展することもあり、同じ音でも人によって評価が分かれる難しい存在だ。
ただすべてのジャンルについて言えるのは、遅いほど静か、新しいほど静かという傾向があること。前者はエンジンやモーターの回転数、空気抵抗といった物理的な要因が大きく関係しているが、後者から分かるのは、乗り物の音をうるさいと考える人が多いということだ。
逆に言えば、古くて速い乗り物は音が大きいものが多い。その代表格が、世界唯一の超音速旅客機であり続けている英仏共同開発のコンコルドだろう。実はこのコンコルドも騒音問題で裁判沙汰になっている。
コンコルドは1976年に英国航空とエールフランス航空の手で営業運航が始まっている。当初は欧州とアジアや南米を結び、続いて北米にも飛び始めた。ところがこのとき運航したのはワシントンDC便だけだった。ニューヨークでは空港を管理する当局がノーを突き付けてきたのだ。
同じ米国のワシントンDCではOKが出ており、ニューヨークでも騒音実験にはパスしていたのだから、問題ないはずだった。なのに着陸できなかったのは、米国でも超音速旅客機の開発は行われていたものの、コンコルドに先を越されてしまったという感情が理由だったと言われている。
英国航空とエールフランスは空港管理当局を相手に裁判を起こし勝訴。1年後にコンコルドはニューヨークに飛び始めた。しかしそれ以前から、騒音の大きさに加えて燃費の悪さも課題になっていたコンコルドは、このブランクも影響して販売が伸び悩み、わずか16機の製造に留まった。
■新幹線より埼京線のほうがうるさかった理由
同じ頃、日本では新幹線の騒音が問題となりはじめた。中でも建設中だった東北・上越新幹線では、埼玉県南部で反対運動が激化。暫定的に1982年、大宮始発で開業した。打開策として当時の国鉄は、大宮以南の区間の最高速度を110km/hとするとともに、並行して在来線の建設と約束した。これが現在の埼京線で、3年後に新幹線の上野?大宮間とともに開通した。
ところが開業してみると、新幹線より埼京線のほうがうるさかった。最高速度は埼京線のほうが10km/h低い100km/hだったが、当初投入された通勤電車の最高速度もまた100km/h。つまり全開状態だった。一方の新幹線用車両は当初から200km/h以上の高速走行を想定した騒音対策が施されていたから、110km/hでもはるかに静かだったのである。
近年このようなニュースをあまり聞かなくなったのは、乗り物側の騒音対策が進んだことも大きいのではないかと考えている。
個人が買って乗るクルマやオートバイもまた、高度経済成長時代に台数が大幅に増加したこともあり、排出ガス規制とともに騒音規制が実施されるようになった。いずれの場合も、日本のメーカーが販売する車両はかなりの余裕を持ってこの騒音規制にパスするように作られている。
輸入車のほうが元気に聞こえたり、ノーマルよりも音の大きい社外品のマフラーが車検対応品として販売されていたりするのは、こうした理由によるものだ。ただし社外品のマフラーにはレース用もあり、これらは規制にパスしないので、装着して公道を走れば違反になる。
興味深いのは、クルマの騒音規制は日本独自なのに対し、オートバイのそれは数年前から欧州と共通の基準を取り入れたこと。国内での販売台数が少ないので世界基準に合わせたようだが、その結果多くのマシンで以前より音が活発になるという現象が起きている。
さらに最近のオートバイは、サウンドは控えめにしつつ鼓動感を出すのが上手になっていて、音が聞こえなくても満足できる。このあたりは電動化が進むクルマとは一線を画しているところ。操る実感を味わいたくてオートバイに興味を持つ人が増えているという噂、理解できる。
※本記事は2019年5月26日時点の情報です