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後にバブルと呼ばれる好況の絶頂期に企画された第5世代のシビック。開発目標として「これからの小型車の基本形となるニュー・ベンチマークカー」の創出を掲げた開発チームは、自社の基幹モデルに目一杯の技術を投入する。具体的には、低燃費と走りの両立、若者のための“スペース・デザイン・コンセプト”、乗り心地とハンドリングの高次元のバランス、クラス最高レベルの空力性能の追求、安全性能の徹底追求などの実現を目指した。
もう1点、5代目では重要な指針を掲げた。従来はハッチバックの影に隠れていた4ドアセダンのイメージアップを図ろうとしたのである。パッケージングに関しては“2カップルズ・セダン”をテーマに、前後席2組のカップルが自在にコミュケーションできる空間を念頭に置く。スタイリングもスポーティかつスタイリッシュに仕立てることを計画した。
■“休日”のサブネームをつけて市場デビュー
創業者の本田宗一郎氏が逝去してから約1カ月後の1991年9月、5代目となるEG型系シビック、通称“スポーツシビック”が市場に放たれる。ボディ形式は3ドアハッチバックと4ドアセダンの2タイプで、セダンにはエスペラント語で“休日”を意味する「フェリオ(FERIO)」のサブネームが付けられた。
市場に放たれたフェリオのルックスは、ハッチバックモデルよりも随分と立派に見えた。ボディサイズはハッチバックに比べて325mm長く、25mm高く、ホイールベースが50mm長い(全長4395×全幅1695×全高1375mm/ホイールベース2620mm)。インテグラルノーズから傾斜を強めたフロントウィンドウをつたってルーフへと流れるユニフォルムハイデッキシルエットのデザインなども、存在感を高めるのにひと役かっていた。一方で内包するインテリアについては、FFの利点である足もとの広さを存分に活用するとともに、後席のスペースを従来よりも拡大して居住性をアップ。また、スポーツグレードのSiRは乗車定員を4名としたうえでフル4シーター・スポーツシートを装着する。セダンの特長であるトランクルームは、ハイデッキのデザインを活かしてVDA方式395lの大容量を確保。大きな開口部を実現するために、ヒンジにはダブルリンクを採用した。
基本骨格については、サイドフレームとリアフレームをストレート化し、同時にサイドシルの断面の大型化、フロアフレームとフロアトンネルを一体とする2重構造化などを実施した高剛性モノコックボディを導入する。また、フロントタイヤを70mm前に移動するなど、サイズ拡大と同時にロングホイールベース化を実現。そのうえでエンジンルーム内のパッケージを変更し、従来タイヤの前にあった約14kgのバッテリーを後方へ、つまりクルマの重心近くに移動して重量バランスの向上を図った。さらに、ラジエーターとコンデンサーを並列にレイアウトして高効率・小型化を図るなど、クルマの最前部と最後部の重量を軽くし、運動性能を一段と引き上げる。サスペンションはフロントにサブフレームを介してサイドフレームに取り付けたL字型ロアアームを組み込むダブルウィッシュボーン/コイルを、リアに前端コンペンセンターアーム/後端アッパー&ロアアームで支持するダブルウィッシュボーン/コイルをセット。また、新開発クッションユニットのHPV(ホンダプログレッシブバルブ)ダンパーを使用して乗り心地と操縦安定性の向上を実現した。
新設計の5点式マウントに載せられるエンジンは、超ハイバランスVTECのD15B型1493cc直列4気筒OHC16V・VTEC(130ps)、超低燃費VTECのD15B型1493cc直列4気筒OHC16V・VTEC-E(94ps)、超ハイパワーVTECのB16A型1595cc直列4気筒DOHC16V・VTEC(MT170ps/AT155ps)という3機種のVTECユニットのほか、D13B型1343cc直列4気筒OHC16V(85ps)、D15B型1493cc直列4気筒OHC16V(100ps)、ZC型1590cc直列4気筒OHC16V(105ps)、ZC型1590cc直列4気筒DOHC16V(130ps)をラインアップする。組み合わせるトランスミッションには、5速MTとロックアップ機構付4速AT(VTECおよびDOHC VTECは7ポジション4速AT、ZC+4WDは2WAY4速AT)を用意。駆動機構はFFとリアルタイム4WDのほか、オプションでイントラック(4WD+ABS)を設定していた。
■イメージキャラクターにJ.フォスターを起用
VTECエンジンを搭載するVTi、VTEC-Eエンジンを搭載するETi、DOHC VTECエンジンを搭載するSiRという3グレードをイメージリーダーに、D13Bエンジン仕様のEL、D15Bエンジン仕様のMX、そしてZCエンジン+4WD仕様のRTX/RTSiという計7グレード構成でスタートしたフェリオは、従来シビックの4ドアセダン・シリーズよりも高い人気を獲得し、販売台数を順調に伸ばしていく。人気の背景には、スポーツイメージを高めた内外装の演出や高性能な走り、ハッチバックの同グレードの1~10万円高に抑えた車両価格というクルマ自体の要素に加えて、広告展開での積極的なアピールがあった。
イメージキャラクターに起用されたのは、ハリウッド女優のジョディ・フォスターさん。当時は『羊たちの沈黙』(1991年公開)が日本でも大ヒットしており、クラリス・スターリング役で主演を務めたジョディさんの認知度は非常に高かった。その人気女優がフェリオのCMや雑誌広告などに颯爽とした姿とキュートな笑顔で登場したのだから、注目度が上がるのも当然。女性ユーザー比率も、従来のシビック・セダンより大きく上がった。ちなみにCMでは、挿入歌としてファイン・ヤング・カニバルズ(Fine Young Cannibals)の『She Drives Me Crazy』が使われ、これもまたヒット。また、1992年の映像では受賞した日本カー・オブ・ザ・イヤーのトロフィーを持ちながら、「Yes, Civic is Great Car」のセリフを発するという贅沢な演出も行われた。
■着実なリファインとモータースポーツへの参戦
シビック・フェリオの人気をさらに高めようと、本田技研工業は着実な改良とバリエーションの拡大を鋭意実施していく。まず1992年5月には、日本カー・オブ・ザ・イヤーの受賞を記念したVTiグレードをベースとする特別仕様車を発売。同年9月には、MLグレードとETiグレードのAT仕様を追加する。翌10月には、フェリオのシャシーを流用して専用の内外装を備えた「ドマーニ」が登場した。
1993年に入ると、まず2月に米国産「シビック・クーペ」を日本でリリース。5月には特別仕様車のML・Xを発売する。9月にはマイナーチェンジを行い、デュアルポンプ式4WDや助手席SRSエアバッグ、新冷媒エアコンの採用などを敢行。さらに、充実装備のEXiグレードを設定する。翌'94年の5月には、プリモ店設立10周年を記念したMXグレードをベースとする特別仕様車のMXリミテッドを市場に放った。
シビック・フェリオはそのスポーツイメージを高める目的で、モータースポーツの分野にも積極的に起用される。デビューは1993年シーズンの全日本ツーリングカー選手権(JTC)のクラス3。フェリオSiRをベースとするマシンがギャザズMAXFLIシビックとして参戦した。FFレイアウトの4ドアボディでエンジン排気量2l以下という新レギュレーションで争われることになった1994年シーズンの全日本ツーリングカー選手権(JTCC)からはクラス2での本格参戦が始まり、規定に則してエンジンをB18C型1797cc直列4気筒DOHCに換装したJACCSシビックなどがサーキットを駆け回る。1995年シーズンの途中からはH22A型をベースに排気量を1995ccとした直列4気筒DOHCエンジンが一部マシンに搭載されて戦闘力を高めたものの、勝利を獲得するまでには至らなかった。
■歴代5モデルのなかで最高のセダン比率を実現
RV(レクリエーショナルビークル)ブームというセダンモデルにとっては逆風が吹く最中ではあったが、シビック・フェリオは堅調な販売成績を記録し続ける。また、過去のシビック・シリーズのなかでもひと際セダン比率が高いモデルに発展した。
“2カップルズ・セダン”と称する人とクルマの新たなコミュニケーションのあり方を提案し、同時に環境問題における本田技研工業の新たな取り組みを具現化して、ホンダ・ブランドのコンパクトセダンとしての確固たる地位を築いたシビック・フェリオは、1995年9月になるとフルモデルチェンジを迎える。もちろん、6代目となる“ミラクルシビック”シリーズでもフェリオの名は残され、シビックのセダン=フェリオの図式がユーザーにいっそう浸透していったのである。