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■大竹しのぶが発した、介護する家族への「おまじない」
2018年9月、女優の大竹しのぶさんの母親、江すてるさんが亡くなりました。大竹さんは母親を自宅で看取るまでの4年間、仕事と介護を両立させていたようです。彼女は介護をするようになった自分の立場を「面白いなって思いますね」と表現していたといいます。
「面白いって思う」。
現在、在宅介護をしている人は、大竹さんのこの言葉を「おまじない」として、ときどき思い出すとよいかもしれません。自分を客観視することで、気持ちが軽くなることがあります。
■「自ら望んで」介護離職する人
近年、企業や団体で「介護と仕事の両立」をテーマにしたセミナーを実施するところが増えてきたように感じます。私は数年前に『ワーク介護バランス』という著書を上梓した経緯から、上記のセミナーの講師をお引き受けすることがあります。
ところで最近、ネット記事や出版物のなかには、介護離職をすると「絶対」後悔するという論調が目立ちます。
今や、「介護離職10万人時代」と言われ、介護離職者が増えることは、企業の損失であり、会社の損失でもあると、私も著書やセミナーで説いてきました。しかしながら、自分の意志に反して「どうしても離職をせざるを得なかった人」もいます。そのような人たちに、「介護離職は“絶対”に後悔する」との言葉はどう響くのでしょうか。
一方、「自ら進んで」介護離職を決断した人もいます。
40代で会社員の長谷川ミホさん(仮名)は、独身で実家暮らし。実家では、がんを患う父親を母親が献身的に介護してきました。父親が他界して数年後、今度は母親が室内で転倒し、介助が必要な状態になりました。
ミホさんは言います。
「父親が生きていた頃、その介護はほとんど母が担っていました。そのおかげで私は仕事に集中でき、趣味の山歩きにも行けました。これまで好き勝手に生活させてもらった分、これからは私が恩返しをしようと、自分から進んで介護に専念しようと決めたんです」
2年間という期間限定ではありましたが、私も「自ら進んで」介護離職をしました。私が介護をしたのは祖母でしたが、祖母が入院していた病院で床ずれ(長時間同じ姿勢でいることにより皮膚に損傷を受けた状態)や院内感染に見舞われ、「もはや自宅で看るしかない!」と覚悟を決めたのです。
■介護離職を決断する理由はやはり…
祖母は体に複数の管が入っていたこともあり、医療的な処置が必要でした。看護や介護の方法を学び、自宅で実践し、それを習慣化するには、仕事をリタイアし介護に専念する必要があると考えました。20代の頃です。その後は、仕事をしながら介護を続け、介護をした期間は約10年に及びました。介護を選択したことが自己満足だったのではないかと自答したことは何度もありますが、一定期間とはいえ、介護離職をした選択に後悔はしていません。
介護と仕事の両立に関するこんな調査があります。
親の介護を経験した40歳以上の男女2268人に、離職をして介護に専念することを選んだきっかけをたずねたところ、男女ともに「自分以外に親を介護する人がいない」最多で、男性26.0パーセント、女性21.3パーセントでした(2014年、明治安田生活福祉研究所とダイヤ高齢社会研究財団の調査より)。さらに介護に専念する選択をした女性のうち、「自分で親の介護をしたかった」と回答した人が20.6パーセントと、「自分以外に親を介護する人がいない」(21.3パーセント)との回答に匹敵する割合であったことです。
つまり、介護に専念することを選んだ女性の5人に1人は、「やむを得ず」ではなく、「自分自身が親の介護を『望んで』決断した」ことが伺えます。
■離職or両立? 「介護離職」肯定派は意外と多い
上記の調査で、さらに興味深い結果が見受けられました。
離職して介護に専念することを選んだ人のうち、「良かった」と肯定した人は、男性が28.4パーセント、女性が32.9パーセントで、さらに「まぁよかった」との回答を加えると男性は68.7パーセント、女性は74.2パーセントと、男女ともに約7割が「離職して介護に専念したことを後悔していない」と、自分の選択を肯定的に捉えていたことがわかったのです。
一方、介護をしながら働き続けることを選び、自分の選択を肯定した人は、男性が73.4パーセント、女性が78.3パーセントでした。
つまり、「自分の選択を肯定的に捉えていた人」の割合は、「離職して介護に専念した人」と、「介護をしながら働き続けた人」とでは、上記の調査においては大差がなかったとい結果に。どちらの選択をしたにせよ、それぞれが迷い、悩んで決断したことに変わりはない。そのことが、上記の結果に反映されているように感じました。
これからもますます増えるであろう介護離職者。企業においても、社会においても、彼らを支援する体制が構築されることを期待します。