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1年前の昨年8月末にモデルチェンジした本田技研工業(ホンダ)の軽乗用車「N-BOX」が相変わらず売れている。昨年9月から今年7月まで、軽自動車はもちろん、小型車や普通車などの登録車を含めても、11か月連続で販売台数トップを独走しているのだ。
N-BOXはモデルチェンジ直前でさえベストセラーの座にあり、改良の必要はあるのか?と口にする人もいた。世代交代が裏目に出て販売台数が低迷してしまった例もあるので、ホンダにとっては一種の賭けだったかもしれないが、多くのユーザーに正常進化が認められたようだ。
他メーカーもN-BOXのような背が高く箱型のワゴンは出している。ではその中でなぜN-BOXがトップをキープしているのか。個人的にはこのクルマが醸し出す、プレーンでニュートラルな立ち位置が関係していると思っている。
N-BOXは2世代続けてクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏がプロモーションを担当したことでも知られている。以前同氏に取材した際に聞いたところ、他車のようなタレントを起用したプロモーションは避け、ものづくりそのものにスポットを当てたというような答えが返ってきた。
■ターゲットユーザーを絞りすぎると売れない⁉
そういえばN-BOXの前に軽自動車のベストセラーの座にあった、ダイハツ工業「タント」やスズキ「ワゴンR」も、プレーンでニュートラルなクルマだった。逆に女性などにターゲットを絞った車種は、たしかに人目をひくけれど、販売台数でトップに立つことは稀である。
そんな実績が、軽自動車の開発現場にも波及してきたのか、今年発表された軽自動車の新型には、プレーンかつニュートラルな立ち位置の車種が多い。
以前のコラムで取り上げたスズキ「ジムニー」もそのひとつだろう。ジムニーはユーザーの性別や年齢層、職業などをリサーチして企画された商品ではない。生活あるいは仕事のうえで、道なき道を走破する必要があるユーザーに向けて送り出されたツールである。
ジムニーのひと月前に発表されたダイハツ「ミラトコット」は、別の面で似たようなキャラクターになった。ミラトコットは女性社員のチームによって開発されたというが、彼女たちが目指したのはエフォートレス、つまり肩ひじ張らないクルマだった。
女性社員たちが自分たちの理想を求めた結果が、いわゆる女性仕様車のような仕立てではなく、逆にユニセックスと呼びたくなるようなデザインになったことに、とくに世の男性陣は注目すべきだろう。
ところでこのミラトコットにはベーシックな仕様のほか、サイドシルを白で塗装したり、グリルやドアにクロームメッキのモールを入れたりした、アナザースタイルパッケージという仕様も用意されている。
スタンダードな仕様との違いが際立っているので開発者に聞いたところ、これらはベースモデルがシンプルすぎて不安に思った男性社員が追加したものだという。これまで世に送り出されてきた多くの「女性仕様車」も、多くは男性目線で企画された車種だったのかもしれない。
商用車ではあるが、N-BOXのプラットフォームやパワートレインを活用して生み出されたホンダ「N-VAN」にも似たような雰囲気を感じる。従来の軽商用車が積載能力を最重要視していたのに対し、N-VANでは趣味を仕事に生かす人が増えていることを反映して、ユーザーの快適性にも配慮した。そこに性別や年齢などの絞り込みはない。よって機能性を重視したスタイリングに仕上がっている。
軽自動車は外寸や排気量に制約があることから、プラットフォームやパワートレインの共通化が早くから進んでいた。その中で販売台数を稼ぐべく、とりわけスズキやダイハツはユーザー層を絞り込んで個性を明確にした車種を数多くデビューさせてきた。
その中にはスズキ「ハスラー」のようにヒットに結び付いた車種もあるけれど、一方で人知れず消え去った車種もあることを忘れてはいけない。Nシリーズとスポーツカーの「S660」だけで多くのユーザーから注目されているホンダのアプローチは、注目していいのではないかと思う。