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本社の営業担当者が、製品の仕様や納期について、顧客の要求をそのまま工場に伝えてくることがあったとのことで、「工場の方が立場が弱いため、かなり無理をさせられた」と証言しています。営業部門の決定事項がプレッシャーとなり、データ改ざんにつながった可能性があるとして、さらに事情聴取が進められる方針とのことです。
この話を聞いて、程度の差はあれ、自分や身の回りの似たような経験を思い浮かべた人も意外に多いのではないでしょうか。
■問題が起こる会社と起こらない会社の違い
私がこれまでに見てきた会社にも、ここまでひどくはないものの同じような話はたくさんあります。その一方で、こうした問題は絶対に起こらないだろうと思える会社も少数ながらありました。
この違いを見ていて私が気づいたのは、前者のような会社では「営業主導」「顧客第一」やそれに類似した言葉が、必ず行動基準の一つに挙げられていることです。他にも言葉はありますが、どちらかといえば優先順位は低く、はっきり言ってしまえば「業績第一」です。もちろん資本主義の営利企業ですから、そのこと自体は悪いことではありません。
ただ、これを後者のような会社の場合で見ると、挙げられているのは「品質第一」「社会貢献」「社員の生活」など、どちらかといえば内向きの理念や価値観のようなものが多く、直接業績にかかわることよりは、もっと精神的な部分を表しているようでした。「従業員満足」はありますが「顧客第一」はあまり見かけません。もちろん業績はとことん追いかけますが、反面「変な仕事だからやめよう」「おかしな会社とは取引しない」といえる余裕が、会社全体に浸透しました。
■「顧客第一」主義の危うさ
ある会社の話ですが、「顧客第一」の名のもと、一人の営業担当者が顧客先から受けていた話が、暗に不正を要求するような内容だったことがあります。「ちょっと書類の内容を書き換えて」程度のことだったようですが、実は会社にとって大きな信用問題となるような話でした。しかしそのことを営業担当者は理解しておらず、ただ「顧客第一」の思いで、何とか要望をかなえようと動いていたところ、他の担当者やマネージャーが事前に見つけて事なきを得ました。
この会社では、それ以降「顧客第一」というフレーズを使うことをやめました。「顧客第一」の裏で、品質、社員、会社、社会、規則、法律といった重要なことが、二の次、三の次と安易に優先順位を下げられてしまう危険性を感じたからです。
■「営業主導」がいずれ招く“確実な危機”
またある会社では、営業部門の発言力がかなり強い「営業主導」で、納期などは顧客折衝の結果として、ほとんど営業部門が決めていました。神戸製鋼所の件とよく似ていますが、この時、実は営業部門はたいした顧客折衝はしておらず、納期などはほぼ顧客の言いなりにすぎなかったようです。
営業としては、その方が顧客にいい顔ができますし、一方で社内は圧力をかければ言うことを聞いてもらえるのでそうなったわけですが、結果として、製造現場は当然仕事に追われて残業続きになり、体調不良者や退職者は増えていきます。
無理な納期設定では、売上確保はできても製造原価は当然上がって利益率は下がります。職場環境への悪影響も大きくなりますが、営業部門にそこまでの発想はありません。工場などの製造現場で起こることは、あくまでその部署の責任範疇と見られるので、営業部門がそこで責任を問われることはありません。製造現場ばかりが負担を強いられる状況です。
この「営業主導」が問題となり、その後この会社では、製品の標準納期を決め、それを逸脱した案件の監視と、その際の利益確保の責任を営業部門に課したことで、製造現場への無理強いは徐々になくなっていきました。
「顧客第一」は、その他すべてを犠牲にして顧客を持ちあげるものでなく、いかにWin-Winの関係を築いていくかが本来の姿です。
「営業主導」は、本来顧客との折衝の中で、営業が主導権を握るという意味であり、社内でいばることではありません。
「顧客第一」「営業主導」という名での無理難題や不正が起こる会社は、これらの意味を取り違えています。そこで起こる問題の大きさをよく考え、本来の姿に戻さなければ、また同じことが起こってしまうでしょう。
本気で心を入れ替えなければ、会社はいつか確実に危機に陥ります。