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TOYOTA GAZOO Racingの一員として2018年の第86回ル・マン24時間レースに出場したフェルナンド・アロンソは、中嶋一貴、セバスチャン・ブエミのF1経験ドライバーとトヨタTS050ハイブリッド8 号車をシェアし、見事に優勝を果たした。F1モナコGP、ル・マン24時間、インディ500の世界三大レースを制するトリプルクラウンの獲得を目指すアロンソはこれで、F1モナコGPとル・マン24時間を制した。残るはインディ500だけだ。
アロンソがトヨタ入りを決めた際、トヨタ自動車の豊田章男社長は「トヨタを選んでくれてありがとう」とコメントした。トヨタが大枚をはたいてアロンソを招き入れたようにも受け取れるが、そんなことはない。村田久武チーム代表はアロンソとのやりとりを打ち明けた。
■給料はいらない。勝ちたいんだ
「彼と初めて会ったのは昨年の年末か年明けの頃でした。どんな人だろうと気になってはいましたが、変化球を投げるのは面倒臭いから、直球を投げました。『なんでウチに来たいの?』と。そうしたら、『いま勝つことに飢えているんだ。レースで勝ちたいんだ』と言ってきました。『トヨタに行けば勝てるかもしれないから』と」
「トリプルクラウンをとりたいんだ」とアロンソはつけ加えた。村田チーム代表はアロンソのストレートな返答に好感を抱いたが、心配事もあった。それをやはり、直球で返した。
「ウチは超ビンボーだからそんなに給料払えないよ、と言ったら、『給料は要らない』と言ってきました。タダほど怖いものはないからお金は払うよと。ただし『他のドライバーと一緒だからね』と言うと、額も聞かずに『わかった』と言いました」
これが真相である。トヨタとしてはもちろん、アロンソのような人気も実力もあるドライバーに乗ってほしかったが、会社の看板としてアロンソの名前が欲しかったわけではない。むしろ、アロンソの方がなんとしてもトヨタに乗りたかったのだ。ル・マンで勝つために。
「アロンソの彼女を見て、『あ、こういう子を選ぶんだったら、もしかしたらアロンソはいいやつかもしれない』と思って、彼に決めました。ウチのチームはヨーロッパによくあるような縦社会ではなくてすごくフラットです。(F1で)タイトル獲っているからって関係なく、チーム一丸となってやっていく。チームワークをすごく大事にするチームだけど、『それでいい?』と聞いたら、『それでも全然かまわない』と言って、きてくれました」
F1チャンピオンだからといって特別扱いはしないということだ。
「まわりから『オマエはだまされている』と言われたこともありました。でも、ずっと彼を見ていますがすごくリラックスしているし、チームに溶け込んでいます。(F1のような)ストレスの多い世界で生きていると、自分を守るためにキャラクターを作る必要があるのかもしれません。でも、ウチに来るとその必要がないのか、彼が持っている基本的なキャラクターが出ているような気がします」
■僕ら変態なんで…
サーキットでトヨタのドライバーが過ごすモーターホームには、息抜き用にテレビゲーム機が置いてある。その扱いが上手で、アロンソの「意外な一面を見た」と言ったのは、7号車をマイク・コンウェイ、ホセ・マリア・ロペスとともにドライブする小林可夢偉だ。とくに(ドライビングシミュレーターの)「グランツーリスモ」と(サッカーゲームの)「ウイニングイレブン」がうまいと言ったら、ゲーム機名がわかってしまうか……。
「僕のチームメイトのロペスはゲームで世界大会に出るくらいのゲーマーなんです」と可夢偉は説明を始めた。
「そのゲーマーを秒殺KOですよ。この世界チャンピオン、ゲームやる時間あるんだと驚きました。ハンドルじゃないですよ。プレ○ステーションのあのコントローラーで、(僕ら)変態なんで、ABSなしとか、トラクションコントロールなしの設定でやるんですけど、恐ろしいくらい難しいです。僕は1コーナーでブレーキをフルロックさせて刺さりますから。これは無理だなと。それくらい難しいゲームを、『あれ? この人どこから来たの?』と言いたくなるくらいうまいんですよ」
言ってしまうとプレステ4だが、ル・マンの前哨戦に位置づけられるWEC開幕戦スパ・フランコルシャン6時間では、実際のレースで走った距離より、「プレステで走った距離の方が長かった」と可夢偉は証言した。ま、それだけチームメイト同士仲がいいということで……。
「本当に戦っています。去年まで乗っていたアンソニー・デイビッドソンがリザーブドライバーをやっているんですが、僕らが(コース)で走っている間になぜかタイムが更新されている(笑)」
で、それを見たアロンソが負けじとタイムを更新し、気づいたら本物のレースより長い距離を走っていたというわけだ。ドライバーの負けず嫌い魂、ここに極まれりという感じである。