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■病気を隠していた夫
シノブさん(45歳)が「うちの夫、ほんっとに腹が立つ」と怒っている。結婚して17年たつ夫に手術が必要な病気が見つかったのだが、夫はそのことを1年以上妻に隠していたのだという。
「大学病院で検査をして、結果を聞きにいかなければならない日に、夫がインフルエンザになったんですよ。それで代わりに聞いてきてほしいと言われて。病院に行ったら『もう限界ですね』と。私は何のことかわからない。『聞いてないんですか?』と言われ、初めて病気のことを知らされたんです。内臓に腫瘍状のものがあり、放っておくとガンになる可能性があるからって1年も前から手術を勧められていたんだそうです。そのこと、夫は私に黙っていたんですよ」
夫からすると、とにかく手術が怖い。妻に話して、やいやい言われるのもイヤだ。ガンになる「可能性」があるとわかっても、必ずしもなるわけではない。ただ、腫瘍状のものはだんだん大きくなっていて、夫は何度もスラックスを買い換えているのだそうだ。
「私に話したら手術しろと言われるから話さない。完全に子どもですよね。あのときインフルエンザにならなかったら、いまだに隠していたんですよ、きっと。うちは日頃からわりと会話があるほうだけど、どうして肝心なことは話さないのかしら……」
シノブさんは「どうしてこんなことになったんでしょうね」と苦笑した。
■子会社に行かされたことも言えなかった……
会社員にとっては厳しい時代である。タケオさん(48歳)はある日突然、グループ会社の子会社へ出向を命じられた。出向のみならず転属で、給料体系もそれまでとは雲泥の差である。派閥争いに巻き込まれた挙句の左遷で、会社人事の非情さに驚かされたという。
「妻には言えなかった。給料はそれまでより3割減、役職こそ部長とついているけど1人部署みたいなものです。一応、名前のある会社だったから、妻に言ったらどう言われるか怖かった」
それでも40代後半になって会社を辞めるわけにはいかない。数日後から、彼は唇を噛みしめながら、それまでとは違う方向の電車に乗った。次の給料日までには妻に本当のことを言わなければと思ったが、なかなかきっかけがつかめなかった。
「1週間ほどたったころかな。夜中に妻が突然、『あなた、女でもいるの?』と。近所の誰かが僕が前とは違う方向の電車に乗るところを見ていたらしいんです。それで妻に告げた。女でもいるなら、もっと気持ちも明るくなるのになと思いながら、もう限界だと思い、妻に本当のことを言いました」
妻は黙って聞いていたが、「給料はどうなるの?」と言った。夫の気持ちを慮ることなどない一言だった。
「覚悟はしていましたけど、僕はしょせんATMみたいなものなんですよね。『言えなかったのがつらかったでしょう』という言葉がもし返ってきたら、僕は一生、妻に尽くそうと思っていましたが」
タケオさんは今、週末はアルバイトをしている。妻に本当のことが言えないのは「傷口に塩を塗られたくないから」だそうだ。この言葉に頷く男性も多いかもしれない。