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ここ数年、少しずつ世間に知られてきている行事の「初午」。スーパーやコンビニなどの店頭では、初午の日にいなり寿司を食べる「初午いなり」を提案しているところも。ところで、この初午という日がいつなのか、またどんな日なのかはご存知でしょうか。民俗情報工学研究家の井戸理恵子先生に教えてもらいました。
初午とは2月になって以降、初めて迎える午(うま)の日のこと。1年ごとに「子丑寅……」と干支が変わることはよく知られていますが、実はこの干支は日や時間にも同じくあてはまります。なぜ年始となる1月ではなく、2月になってからの「初めての午の日」なのかというと、これはもともと旧暦で行われていたため。新春(旧暦では1月はまだ「新春」ではない)になってから、というのが本来の初午だったためです。
この日は稲荷神社にお参りをするのが良いとされています。これは稲荷(いなり)の神様がもともと語呂合わせで「鋳物(いもの)がなる」ことから、「鋳物」=「鉄」の神様だったことに由来します。
鋤(すき)や鍬(くわ)は田を耕すために必要な道具。これらの道具には鉄が必要となります。そして、午は火の象徴(もともと「午」および干支は方角や時間を表し、動物ではない)。鉄から道具を作る際の鋳造には、火が欠かせません。
そんな"鉄"と"火"の関係性から、火を象徴する午の日に稲荷神社をお参りをするようになりました。
ちなみに、稲荷神社の「稲荷」は「稲の荷」と書きますね。本来、稲荷神社は鉄の神様でしたが、鉄の神様がいなければ農業が栄えない(商売ができない)ことから、今では稲荷神社は五穀豊穣や商売繁盛の神様といわれています。ですから、初午に稲荷神社へお参りし、五穀豊穣や商売繁盛を願うようになりました。
また初午の日には焼き芋が配られる神社もあります。「いも(芋)」は「いもの(鋳物)」に通じるようにもともと金属の隠語であり、芋を火にくべて焼く「焼き芋」そのものが金属=お金をイメージさせるものでもありました。稲や芋は財の象徴で、「食べることに苦労をしないように」「商売が繁盛するように」という意味が込められます。
年によって初午の日は変わりますが、2019年の初午は2月2日となります。この日の過ごし方としては、先にも述べたように、稲荷神社にお参りに行きましょう。
ここ数年、初午の日にスーパーやコンビニで、いなり寿司を売り出しているのを見かけるようになりました。これは行事食というよりも、稲荷神社の神使(しんし=神の使者のこと)である狐の鉱物が「油揚げ」であると言われるようになったことに由来します。
狐は音読みで「ケツ」ともいい、食べ物の神様「御食(ミケツ)」に通じます。また猫がいない時代から、狐はネズミ(人間の食べ物に危害を加える動物)を退治してくれる身近な動物でした。これらが、狐が食べ物(五穀豊穣、食べ物に困らないための商売繁盛)の神様である稲荷神のお使いとして祀られることになった理由です。
また夜に人がいないところで火が灯ることを「狐火(きつねび)」と呼び、狐の尻尾に火が灯り、夜な夜な狐が夜会をしているという話が古くから存在します。この話の中ではこれらの狐火は亡くなった人の魂であると言われ、魂を鎮めるために油揚げをお供えすると、狐火は悪さをせずにスーッと消え去り、福をもたらすようになったと言われています。油揚げの油は燈明(とうみょう=ともしびのこと)の油でもあります。暗いあの世から燈明や油を求めてやってくる魔物をもてなし、祀って供養することから、甘辛く煮た油揚げで包んだ「いなり寿司」が食べられるようになったのでしょう。
ちなみに、これとは別に初午の行事食として、前述の焼き芋も食べると良いでしょう。また、初午は蚕の神様の祭りでもあるといわれており、白い繭の玉に見立てた「初午団子」(白玉団子)を作って食べたり、供えたりする文化もあります。これは養蚕が盛んな地域特有で、こうした地域では米が取れないところも多くありました。養蚕が食べ物=米をもたらすため、ありがたいものとして祀るとされています。
健康に1年過ごしていけることを願いながら、初午の行事を楽しんでくださいね。
監修: 井戸理恵子
井戸理恵子(いどりえこ)
ゆきすきのくに代表、民俗情報工学研究家。1964年北海道北見市生まれ。國學院大學卒業後、株式会社リクルートフロムエーを経て現職。現在、多摩美術大学の非常勤講師として教鞭を執る傍ら、日本全国をまわって、先人の受け継いできた各地に残る伝統儀礼、風習、歌謡、信仰、地域特有の祭り、習慣、伝統技術などについて民俗学的な視点から、その意味と本質を読み解き、現代に活かすことを目的とする活動を精力的に続けている。「OrganicCafeゆきすきのくに」も運営。坐禅や行事の歴史を知る会など、日本の文化にまつわるイベントも不定期開催。