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運動会といえば「スポーツの秋」。そうした認識が長らく根づいてきた中で、近年は春、それも5月に開催されるケースが増えつつある。TimeTree未来総合研究所が発表した調査によると、2025年5月18日時点の運動会予定登録数は、2020年の約5倍に達する見込みだという。この背景には、新型コロナウイルスの影響による一時的な断絶と、その後の回復がある。2019年には、5月開催の運動会は10月に比べて約半数にとどまっていたが、2020年には緊急事態宣言やまん延防止措置の影響で春の開催予定が激減した。一方、10月はそうしたタイミングを避けられたこともあり、比較的開催数を維持していた。
しかし、感染症対策の緩和が進んだ2022年以降、5月の運動会は回復基調に転じ、2023年には新型コロナの5類移行により一気に増加した。2025年のデータでは、春開催の勢いが明確に現れており、従来の10月開催と肩を並べる勢いで拡大している。運動会の季節感もまた、時代とともに再定義されつつあるようだ。
春開催が増えている中でも、特に「5月の第4土曜日」に運動会の予定が集中していることが、TimeTreeのデータから見えてきた。2019年以降の予定登録を分析したところ、例年5月の中でも第4土曜日の登録件数が高く、定番化していることが明らかとなっている。
実際、2025年5月における運動会予定の出現数(5月20日までに登録された予定)を日付ごとに比較すると、5月24日(土)が最も多く、次いで5月31日(土)が多いという結果になっている。この分析では、5月1日の出現数を100としたときの相対的な値として算出されており、土曜日に集中している傾向が顕著だ。
春の運動会は、単に「5月」が増えているのではなく、「月末の土曜日」に集中する傾向が強まっている。学校のカレンダーや地域イベントとの調整、また天候の安定性を考慮した日程選定が背景にあると考えられる。こうした傾向は、行事のあり方がより計画的かつ実利的になっている現代の姿を象徴しているとも言えるだろう。
運動会の開催時期には、地域によって明確な傾向があることも今回の調査から見えてきた。TimeTreeに登録された予定を都道府県別に分析した結果、全国どの地域でも5月・10月両方の開催が確認された一方で、北と南でその比重には違いが見られた。
具体的には、北海道や東北といった寒冷地では5月の運動会開催が多く、逆に九州や沖縄など温暖な地域では10月の開催が主流という傾向が判明した。これは、地域ごとの気候条件が日程選定に影響を与えていることを示している。5月でも比較的涼しい北国では、初夏の快適な気候が運動会に適しており、逆に南国では5月の暑さを避け、秋に開催することで熱中症対策にもなっていると考えられる。従来の「全国一律の秋開催」から、地域の特性を踏まえた柔軟なスケジューリングへ。そんな時代の変化が、カレンダーデータからも読み取れる。行事の形も、地域とともに進化しているようだ。
行事には、私たちが無意識のうちに抱いてきた“決まりごと”がある。運動会は秋、結婚式はジューンブライド、旅行はゴールデンウィーク……。しかし、その「当たり前」は、時代や地域、そして人々の選択によって、いま確実に塗り替えられつつあるのだと今回の調査は教えてくれる。
TimeTreeに記録される膨大な予定データは、単なるカレンダーの集合ではない。そこには気候や文化、社会状況、そして一人ひとりの暮らし方がにじみ出ている。かつて10月に集中していた運動会が、気づけば5月にも広がり、開催時間やスタイルも変化している。それは、柔軟に変化を受け入れる「新しい日常」のかたちを映しているのかもしれない。
予定の変化は、価値観の変化。その先にあるのは、「誰にとって、いつ、どこで、どう過ごすのが心地よいか」を見つめ直す時間のデザインである。データの中から未来を読み解こうとするTimeTree未来総合研究所の取り組みは、これからの行事や暮らしの在り方に、小さくても確かなヒントを投げかけてくれる。