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中性脂肪は食事から摂取される他、余分なエネルギーが肝臓や脂肪組織において中性脂肪として合成され蓄えられる。血液によって全身に運ばれて臓器や筋肉が動くためのエネルギー源として使われるが、使われずに余った分は皮下脂肪や内臓脂肪となるのだ。こうして脂肪組織に蓄えられた中性脂肪は、一般に「体脂肪」と呼ばれている。体を動かす時は血液中の糖質が使われ、糖質が不足すると、蓄えられていた中性脂肪が遊離脂肪酸という形に分解されて血液中に放出され、筋肉、心臓組織などの細胞でエネルギーとして使われる。またこの他にも、体温の維持、脂溶性ビタミンや必須脂肪酸の吸収、内臓の保護・固定などに大切な役割を果たしている。中性脂肪はエネルギーの供給源として重要な成分の一方、過剰な中性脂肪は健康に悪影響を及ぼす可能性がある。特に、心血管疾患やメタボリックシンドロームのリスクを高める要因となるため、適切なレベルに保つことが重要だ。
中性脂肪が増える主な原因は、「食べ過ぎ」や「運動不足」などの生活習慣にあるが、その中でも見直したいのが食事の内容。ご飯やパン、麺類、お菓子などの炭水化物が中心の食事を摂ると食後に血糖値が急上昇する。この時、血糖値を下げるために膵臓からインスリンというホルモンが多量に分泌され、インスリンの働きによって血糖値は下がるが、多量にインスリンが分泌されると、インスリンは中性脂肪の合成を促進するため、中性脂肪がどんどん増えてしまう。つまり、炭水化物の摂りすぎによって中性脂肪は上昇するのである。特に数値を上昇させる二大要因と言われているのが、甘いものやアルコール。砂糖(ショ糖)はブドウ糖と果糖が結合した二糖類。お米やパンなどのデンプン(多糖類)と比べ吸収が非常に速いため、血糖値(血液中のブドウ糖濃度)がより早く上昇する。秋の味覚の代表であるフルーツも、果糖(単糖)により甘みを出している果物は、血糖値や中性脂肪を上昇させる働きがあるため食べ過ぎには気を付けよう。また、中性脂肪はアルコールを摂取することによって高くなるという性質を持っている。これは肝臓でアルコールを分解するときに、中性脂肪の合成を促す作用が起こることが原因といわれている。アルコールはそれ自体が高エネルギーであることはもちろん、酔うと食欲を抑えにくくなり過食へつながりやすいので注意が必要だ。
中性脂肪を下げる為に、揚げ物や脂っこい食事を避けるべきという声を耳にするが、実際には脂質を減らしただけでは中性脂肪は下がらない。中性脂肪を上げる一番の理由は、脂質そのものではなく、炭化物、アルコール、カロリーの過剰摂取である。まずは摂取量を見直すことが一番大切となる。
中性脂肪を減らすためには生活習慣を見直すことが一番大切だが、仕事や家事など毎日多忙な生活を送っている人にとって、今の生活から質を上げることは非常に負担がかかり、億劫に感じる人もいるのでは?そこで、おすすめしたいのが、良質な油を摂ること。そこで、中性脂肪の数値を抑える働きを持つ『フィッシュオイル』の効果や摂取方法を紹介しよう。
『フィッシュオイル』とは青魚から抽出した油のことで、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)の脂肪酸が主成分。動脈硬化や血栓を防ぎ、血圧の低下や中性脂肪を減らすなどの作用を持ち、生活習慣病予防に効果があると言われている。イワシ、アジ、サンマ、サバ、マグロなどの青魚に多く含まれ、体内で生成できないため、食事やサプリメントから摂取する必要がある。脂肪酸には、常温で固体の「飽和脂肪酸」と、常温で液体の「不飽和脂肪酸」がある。牛肉・豚肉の脂身やバターなどの「飽和脂肪酸」は、過剰摂取により心血管疾患のリスクが高まると言われている。一方、血中コレステロールを下げるなど、体に良いとされる「不飽和脂肪酸」は、体内で生成できる「一価不飽和脂肪酸」と、体内で生成できない「多価不飽和脂肪酸」に分かれ、『フィッシュオイル』のEPAやDHAは、この多価不飽和脂肪酸のn-3系(オメガ3脂肪酸)に属する。
『フィッシュオイル』に含まれる EPA は血液をサラサラにするだけでなく、血中の中性脂肪の上昇を抑える効果がある。さらに、EPA は脂質の代謝に作用して、脂肪を燃焼しやすい体質に変えることができるのだ。中性脂肪の増加による動脈硬化や脂質異常といった生活習慣病の改善に役立つ成分として、特定保健用食品や機能性表示食品にも利用されている。
さらに、『フィッシュオイル』には中性脂肪の上昇を抑えるだけでなく、日照時間の短さが原因のひとつにある「冬季うつ」や、脳機能の活性にも効果があるのでこの時期におすすめの栄養素だ。
厚生労働省が制定した「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、フィッシュオイルに含まれるEPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸の1日あたりの摂取目安量として、成人男性の場合2.0g~2.4g、成人女性の場合1.6g~2.0g が推奨されている※1 。しかしながら、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、脂質の摂取量が増加しているにも関わらず、オメガ 3 脂肪酸の摂取量は年々減少していることが明らかになっている※2。
※1厚生労働省が制定した「日本人の食事摂取基(2020年版)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
※2 厚生労働省「国民健康・栄養調査」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_
『フィッシュオイル』は、サバ・サケ・マグロ・いわし・うなぎなどの脂の乗った魚の身や内臓に豊富に含まれている。特に、小魚を食べて成長した天然の大型魚に多く含まれていて、養殖の魚はエサによってはフィッシュオイルの含有量が少ないとされている。
魚から直接フィッシュオイルを取り入れる場合は、「1日にサバ缶1缶」が目安といわれることが多いが、スーパーやコンビニで手軽に購入できる食品でオススメなのが「しめ鯖」。しめ鯖は、加熱をしていないのでオメガ3の酸化や損失が無いため効率的に摂取ができる。加えて酢飯のお酢によって、たんぱく質の吸収をしやすくなるので、高齢者の方でも胃腸に負担をかけずに摂取できるオススメのメニュー。また、魚や油を必要量摂ることが難しかったり、そもそも苦手だったりする人は、手軽に摂れるサプリメントで補うことも一つの方法だ。
『フィッシュオイル』を摂取する際の注意点として、これはどんな栄養素にも当てはまるが、いくら万能だからといってフィッシュオイルを摂りすぎると「血液がサラサラになりすぎて出血が止まらなくなる」など、体に悪影響を与えてしまう可能性も。また、オメガ3脂肪酸と同じく、多価不飽和脂肪酸で重要な働きをしているオメガ6脂肪酸。お互いに重要な栄養素ではあるが、オメガ6が白血球を活性化して病原菌などと戦う働きを促進するのに対し、オメガ3は逆に白血球の働きを抑制、炎症を抑えるなど、正反対の役割を担っている。健康を保つためには摂取バランスを保つことが大切だが、オメガ6は、一般的な食事に含まれる植物油から多く摂取できるため、現代の食事では多くとり過ぎる傾向がある。従来オメガ3とオメガ6の割合は、1:4の比率が良いとされているが、実情は、1:14とオメガ6の割合が非常に高く、オメガ3を意識的に摂取していても、効果を得られない場合がある。オメガ6の摂取量を減らすなど、お互いのバランスを見て調整することが大切である。
静岡県立総合病院リサーチサポートセンター 臨床研究部長 田中清氏
~所属学会~
・日本病態栄養学会(学術評議員)
・日本ビタミン学会(理事)
・脂溶性ビタミン研究委員会(委員)
・ビタミン B 研究委員会(参与)
・日本骨粗鬆症学会(評議員)
~主な職歴~
・1977年:京都大学医学部卒業
・1977~1979:天理よろづ相談所病院 内科系研修医
・1983~京都大学医学部附属病院 医員
・1984~天理よろづ相談所病院 内分泌内科医員
・1984~1986:米国オレゴン大学医学部内分泌内科 Research Associate
・1986~1990:静岡県立総合病院 核医学科・内分泌内科 副医長 (1988 医長)
・1990~2000:京都大学放射性同位元素総合センター・京大病院 助手
・2000~2004::甲子園大学栄養学部 教授
・2004~2018:京都女子大学家政学部食物栄養学科 教授
・2018~:神戸学院大学栄養学部 教授
・2023~:静岡県立総合病院リサーチサポートセンター 臨床研究部長
食欲の秋、食べ過ぎには注意しながら、中性脂肪の救世主『フィッシュオイル』を取り入れて健康的に秋の味覚を楽しみたいものだ。