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毎年11月に発売されるワインとして、メディアでもよく耳にするのが「ボジョレー・ヌーヴォー」。解禁日には飲食店などでイベントが行われるなど、普段はワインを飲まない方でも口にした経験があるのでは?
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でも、巷では「ボジョレー・ヌーヴォーは美味しくない」「実はまずいワイン」なんて噂を耳にすることもありますよね!?
実際のところはどうなのか?今回は、解禁日当日によりボジョレー・ヌーヴォーを楽しむために、このワインを徹底解説。現役ソムリエの方に、人気ワインの豆知識に加え“よりボジョレー・ヌーヴォーを楽しむ方法”まで教えていただきました!
前・後編に分かれたこの企画。前編では、ボジョレー・ヌーヴォーの基礎知識や日本で流行した背景などをお伺いしました。
「Wine Bar Nr.14」オーナーソムリエ・西 勇輔
JSA認定ソムリエ、WSET、ウィスキーエキスパートなど、資格に裏付けられたお酒に関する様々な深い見識を持つ。フードアナリスト協会の認定講師も務め、食情報の専門家として食を通じたコミュニケーションの魅力を最大限に伝えてくれる。
編集部:今日はまもなく解禁されるボジョレー・ヌーヴォーについて、お話を伺いたいと思います。まずは、ボジョレー・ヌーヴォーがどういったワインなのか簡単に教えていただけますと!
西さん:ボジョレー・ヌーヴォーというのは、フランスの有名なワイン生産地であるブルゴーニュ地方の南部にあるボジョレー地区で造られているワインの新酒。“ヌーヴォー”はフランス語で「新しい」という意味ですので、読んで字の如く「ボジョレーの新酒」ということですよね。
編集部:なるほど。
西さん:ボジョレー・ヌーヴォーに使用されているブドウ品種はガメイというもの。歴史を遡ってみると、ブルゴーニュ地方にはその昔数多くのガメイが埋められている一大生産地でした。しかし、14世紀のブルゴーニュ皇帝・フィリップ2世は「ガメイは俗的な下品な品種だ」とみなし「ガメイ禁止令」を発令したのだそう。
それ以降、この地域は質の高いワインが多いとされるピノ・ノワールやシャルドネが多く植えられました。このように、ブルゴーニュ地方ではガメイがどんどんなくなっていく中で、唯一南部のボジョレー地区にはガメイが残されたんですよね。
編集部:面白い、そんな歴史があったんですね!
西さん:そんなボジョレー地区では、19世紀頃から地元住民が9月頃に収穫したばかりのガメイを軽く発酵させて飲み、収穫祭のような形で新酒を楽しんでいたのだそう。日本酒の酒蔵が新酒を知らせるために「杉玉」を飾りますよね?それと同じように、ボジョレーではこのワインを飲むことが知らせだったようです。1951年にフランス政府がボジョレー・ヌーヴォーを公認し、正式に発売されるようになりました。
編集部:なるほど、ではなぜ解禁日が11月の第3木曜日なんですか?
西さん:過去にボジョレーの解禁日は変わっています。元々は、その年のワイン新酒は12月15日からではないと発売してはいけなかったんです。しかし、ボジョレー地区の新酒をもっとフレッシュなうちに発売したいという想いで地区の生産者たちが活動を起こした所、それが認められ11月15日に解禁となりました。
しかし、日付を固定すると土日にぶつかることも多々ありますよね?フランスは休日をなによりも大切にする文化がありますので(笑)ワインの運送などが滞ってしまう可能性もある。そのため1985年からは11月第3木曜日の午前0時解禁となったんです。
編集部:続いて、ボジョレー・ヌーヴォーの味わいについて教えていただきたいのですが。
西さん:ボジョレー・ヌーヴォーの味わいをすごく大雑把に説明すると、フレッシュで軽やかなワインといった感じですかね。なんせ、収穫してわずか2ヶ月ほどで解禁されるワインですから熟成度や重み、深みといった赤ワインで多く語られるような特徴はあまりありません。
ガメイという品種自体も、ピノ・ノワールと比較して非常に早熟なぶどう。タンニンはおだやかで「いちごキャンデイ」「コットンキャンディ」のような甘やかなフレーバーが特徴のライトボデイなワインに仕上がります。
編集部:なるほど、では普段から“重い赤”を飲んでいる方は好みではないかもしれませんね。
西さん:好みは分かれるでしょう。ステンレスタンクを用いて、ガメイを軽く圧搾して発酵も軽く行う形ですが、タンクの内部に炭酸ガスを入れることで酵母発酵ではなくぶどうの細胞内での発酵を促進させます。これにより、味はそこそこに色味だけを抽出するような形になるんです。
編集部:ボジョレー・ヌーヴォーって11月になるとすごくメディアで話題になりますよね、フランスのお酒なのに世界的なお祭りのような形になっていて驚きです。
西さん:いえ、実はこの現象は日本特有のものなんです(笑)
編集部:え、そうなんですか!?
西さん:ボジョレー・ヌーヴォーが世界で一番有名な新酒になった背景としては、リヨンにあるレストランのオーナー「ボール・ポキューズ」という方の影響が非常に大きいと言われています。「ヌーベル・キュイジーヌ」という料理ジャンルを確立させた人物として有名なシェフなのですが、彼がレストランでワインリストにボジョレー・ヌーヴォーをいれたことが大きなきっかけと言われています。
ただ、フランスよりも日本での消費量のほうが多いくらいで、一番のブームだったときは全体の70%ほどが日本に輸出されていたんですよ。
編集部:70%って、ほとんどじゃないですか!
西さん:はい、驚きですよね。日本の場合はブームを“意図的に作った”といったほうが正しい表現かもしれません。日本って“極東”と言われるように、世界地図で見た時に最も東にある先進国ですよね。日付変更線を考えると、世界各国で最も1番最初に日付を変える。つまり、「11月の第三木曜日をフランスよりも早く迎える=世界最速でボジョレー・ヌーヴォーが飲める国」なんです。
編集部:確かにそうですね。
西さん:この地理的要因を活かして、お酒業界がキャンペーンを打った結果徐々に飲まれるようになったんです。上陸した頃にすぐにバブル景気で湧いていたという背景もあり、ブームも大きくなりました。まぁ、日本人って“初物”って言葉に弱いですし流行に敏感ですからね(笑)
編集部:そういう背景があったんですね。でもここ最近、昔に比べたらブームが落ち着いてきたような印象も受けます。
西さん:それは間違いないですね。ちょっと前は、スーパーや百貨店などでも0時の解禁にあわせて店を延長営業して試飲会をしたり、イベントをしたりしてましたから。そういうのはコロナ禍があった影響もあって、今はあまり見られません。
でも、世界的な規模でみると他国に比較すればまだまだ日本はボジョレーにとっての重要なマーケットであることに変わりありません。日本での1人あたりのワイン平均消費量っておおよそ3L程度って言われていて、ワインボトルで換算すると4本分くらい。その中でも、この時期にボジョレー・ヌーヴォーを飲む人が多いとなると、やはりまだまだ一定の人気はあるということになりますよね。
編集部:ワインって少し高級な世界観があるお酒のジャンルだと思うんですが、値段的にボジョレー・ヌーヴォーはどれくらいのものなんですか?
西さん:もちろん、ブランドや生産者によっても値段は大きく異なります。ただ、ガメイというブドウ品種がそこまで高いものではないことに加え、新酒という特性もあり相対的にみるとボジョレー・ヌーヴォーは比較的安値だと言えますね。
ただ、コロナ禍以降は輸送費が高くなったり、SDGsの関係で人件費も上がりますし、税金や為替の影響もあって昔よりは少し高くなっているのは事実です。
編集部:なるほど。ちなみに、ボジョレー・ヌーヴォーって一括りにしていますけど、その中でランク付けのようなものもあるんですか?
西さん:上位のランクから「クリュ・デュ・ボジョレー」「ボジョレー・ヴィラージュ」「ボジョレー・スペリユール」「ボジョレー」の4つに分けられています。上位のものはボジョレー地区の中でも優れている特定の産地で造られるものです。「ヌーヴォー(新酒)」に関しては最高級の「クリュ・デュ・ボジョレー」の中に、新酒としての規定がないため「ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー」として発売されています。
ボジョレー・ヌーヴォーの基礎知識や、日本で流行した背景などをお伺いした前編。これまで知らなかった情報もたくさんあったのでは?後編では禁断のトピック「ボジョレー・ヌーヴォー=まずい」が実際はどうなのかを取材!
現役ソムリエの意見を聞きながら、2024年のボジョレー・ヌーヴォー解禁を楽しむためのHow toまで教えていただきます。
後編「【禁断の話題】ボジョレー・ヌーヴォーはまずい!?ソムリエが語る真相&おすすめの飲み方」に続く(2024年11月20日18:00更新予定です)