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一体どうやって撮影したのか。どうすればこんな音が拾えるのか。
世界で驚きと称賛をもって迎えられた圧倒的な映像作品が現在公開中だ。
ドキュメンタリーだが、ナレーションや字幕はなく、音楽もかからない。
しかも映像はカラーではなくモノクロ。
ただひたすらに農場で暮らす豚の親子の日常を至近距離からカメラが映し出しマイクがその音を拾う。
余分な説明的な要素を一切そぎ落とした映画だ。
その反面、もしくはその結果というべきか、その映像美と自然の音は、神秘の魅力に満ち溢れた深淵な世界に観る者を引きずり込む。
「人間による動物の観察」という映画の冒頭で抱いていた認識は、ほどなく薄れていき、やがて自分が人間ではない動物になっているような感覚になってくる。
自分が人間であることも忘れて瑞々しい生命の営みを注視し、これに浸り切る映像体験。
それはほとんどの人たちにとって非日常そのものだろう。
母豚と子豚以外には鶏と牛が登場する。
豚もそうだが鶏や牛がただ佇んだり動き回ったりする姿がこれほど美しいと感じた経験は初めてだ。
見慣れているこれらの家畜がある時点から知らない地球外生命体かのようにも思えてくるから不思議だ。
これも全ては近すぎる距離から時間をかけて臨場感に溢れた動物たちの生態を覗き見たからに違いない。
モノクロで捉えられた動物たちの美しい躍動感・質感やその力強い動作が引き起こす音または鳴き声。
そこには命あるものが絶えず光や熱を放射し続けているという根源的な事実に裏打ちされた愛しさのようなものがある。
命をマクロでなくミクロの観点から眺めると、そこには鮮烈な感動を伴う無限の小宇宙が存在する。
本作は、人の五感だけに純粋に作用することにより観客をそんな驚くべき小宇宙へと招待するのだ。
命にぴったりと寄り添った映像体験を通して、命そのものに向き合い、その悲喜こもごも味わい尽くすこと。
それは命本来がもたらす感動を受け止める経験にほかならない。
その感動は、非人間的な(もしくは逆に「人間らしい」とも言える)現代の社会生活で疲れ切ってしまった人々の心を、必ずや深い部分まで癒してくれることだろう。
そして、そんな癒された自分自身もまた他者に癒しを与える可能性に満ちたひとつの「命」であるということに思い至らせてくれるのだ。
■監督:ヴィクトル・コサコフスキー
■エグゼクティブ・プロデューサー:ホアキン・フェニックス
■プロデューサー:アニータ・レーホフ・ラーシェン
■配給:ビターズ・エンド
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