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見終わった後に誰かと話し込みたくなるような、たくさんの共感に満ちている。
特に都会暮らしをしていて婚期というものを迎えたくらいの人たちにとっては他人事とは思えないかもしれない。
かく言う自分も映画のいろんなシーンのセリフや出来事にハッとさせられたりニヤリと笑ったり何かと忙しかった。
一見他のどこよりも自由を謳歌できそうな街、東京。
そこに確かに存在する階層の壁。
親の世代から否応なしに引き継がれた呪縛。
いくつもあるように見えてその実限られた人生の選択肢。
この映画は、もはや慣れすぎてやもすれば気付かなくなってるかもしれない現実社会の様々な「不都合」を見事に拾ってみせる。
その拾い方が何ともニクいし優しい。
結婚が唯一の幸せであることに疑問を持たない良家のお嬢様の華子(門脇麦)も、地方から上京してぼんやりと日々働いている美紀(水原希子)も自身が生きる上での不都合に鈍感な状態で生きている。
そんな彼女らが自らの体験や感覚を通して少しづつその不都合を意識し始める。
彼女らは声高に大きな抵抗をしたいわけでもなく摩擦を厭わない根本的な変身願望があるわけでもない。
彼女らが従うことになるのは自分自身の勘のようなもので、彼女らが選ぶ行動は等身大の脱力のようなもの。
そうして彼女たちは本当の意味で自らの手に自らの人生を取り戻すのだ。
何かを否定したいわけでも何かを攻撃したり破壊したいわけでもない。
単に自分らしくありたいと望む全ての人たちを優しく勇気づける作品だ。
それでいて半ば機械的に日常を送る人たちに改めて本当の「自分らしさ」とは何かという鋭い問いを投げかける作品でもある。
現代社会はすり込みや分断によって真の社会の不都合に対して抵抗するエネルギーを人々から奪って疲弊させている。
これは社会の構造的な問題かもしれない。
この映画はそんな問題に鋭くメスを入れながらも、絶妙なキャスティングと演出により居心地の良い止まり木のような魅力を発している。
そこにあるのは不思議な包容力と新鮮な安らぎだ。
東京に⽣まれ、箱⼊り娘として何不⾃由なく成⻑し、「結婚=幸せ」と信じて疑わない華⼦。20代後半になり、結婚を考えていた恋⼈に振られ、初めて⼈⽣の岐路に⽴たされる。あらゆる⼿⽴てを使い、お相⼿探しに奔⾛した結果、ハンサムで良家の⽣まれである弁護⼠・幸⼀郎と出会う。幸⼀郎との結婚が決まり、順⾵満帆に思えたのだが…。⼀⽅、東京で働く美紀は富⼭⽣まれ。猛勉強の末に名⾨⼤学に⼊学し上京したが、学費が続かず、夜の世界で働くも中退。仕事にやりがいを感じているわけでもなく、都会にしがみつく意味を⾒いだせずにいた。幸⼀郎との⼤学の同期⽣であったことから、同じ東京で暮らしながら、別世界に⽣きる華⼦と出会うことになる。 ⼆⼈の⼈⽣が交錯した時、それぞれに思いもよらない世界が拓けていく―。
■監督・脚本:岨手由貴子
■出演:門脇麦 水原希子 高良健吾 石橋静河
■原作:山内マリコ「あのこは貴族」(集英社文庫刊)
■配給:東京テアトル/バンダイナムコアーツ
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
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