アイドルの売り出しにキャッチフレーズはつきものだが、最近は「○○年に1人の〜」「奇跡の〜」「○○すぎる〜」など、いささか大げさな煽り文句が流行りの様子。キャッチフレーズ通り、大きなブレイクを果たすことができればいいのだが、実情はなかなか難しいようだ。

 「かわいすぎる」「美味すぎる」「バカすぎる」

 形容詞に「すぎる」を重ねた「度を超えて○○だ」という意味合いの表現は、もともと若者言葉やネットスラングのひとつとして使われていたものだが、今やすっかり一般化している。特に、本来ネガティブな意味付けをする「すぎる」を「かわいすぎる」など称賛の言葉として用いるのは、いかにもイマドキな趨勢だ。

 この言葉が一般にまで広まったのは、やはり「かわいすぎる海女」こと海女の大向美咲さんと、「美人すぎる市議」と呼ばれた藤川優里八戸市議会議員の2人がきっかけだろう。前者は2009年に、後者が2007年にメディアに多く取り上げられた点から、現在アイドル業界で流行している大風呂敷系キャッチフレーズの元祖は、藤川市議と言ってもいいかもしれない。

 「10年に1人の逸材」

 スポーツ業界などでは、注目の新人に対して古くから使われていた表現だが、「1000年に1人の美少女」として2013年に話題となったのは、福岡県を拠点とするアイドルグループ「Rev.from DVL」のメンバー、橋本環奈だ。

 芸能界にアイドルという存在が誕生してから1000年も経っていないのに、「1000年に1人」とはまさしく大風呂敷だが、それほどまで「後にも先にも存在しない」「空前絶後の美少女」ということを表しているのだろう。

 もともと「天使すぎるアイドル」として、コアなアイドルファンの中では注目の存在だった橋本。2013年、ひとりのファンがイベント中に撮影した「奇跡の1枚」がネット上で話題になると、どこからか「1000年に1人」の表現が湧き出て、「天使すぎる」よりも分かりやすくてインパクトがあるこちらが主に使われるようになった。

 この大げさ“すぎる”表現に追随したのが、「2000年に1人の美少女」と名付けられた滝口ひかり(drop)や、「1000年に1度の童顔巨乳」としてグラビアで活躍中の浅川梨奈(SUPER☆GiRLS)だ。SNH48のチュー・チンイーにいたっては、「4000年に1人の美少女」として話題になっている。確かに、いずれも抜きん出たモノを持っているのは間違いないが、こうなってくるともはや「言った者勝ち」の様相を呈している。

 大仰な言葉で“盛った”賛辞を好む傾向がある、アイドルファンやネット住人。橋本環奈が話題となった過程では、「奇跡の1枚」というフレーズもその嗜好にぴたりとハマったようだ。「○○年」を被せた滝口ひかりや浅川梨奈の一方、「奇跡」に乗っかって話題を集めたのが「岡山の奇跡」こと、桜井日奈子。2014年、岡山県ではじめて開催された「美少女・美人コンテスト」の美少女部門でグランプリを獲得。地方都市の美少女を紹介するフリーペーパー「美少女図鑑」の岡山版、『岡山美少女図鑑』のモデルを務めると、ネットを中心に「超絶かわいい!」「岡山の奇跡!!」と徐々に話題を集めていった。

 その後、LINE MUSICをはじめ、大東建託やコロプラなど多数のCMで注目を集め、全国区の人気を得るまでになった桜井だが、地方都市のフリーペーパーから発掘されたことを考えれば、まさに「奇跡」という言葉がふさわしいブレイクストーリーだ。

 橋本環奈や桜井日奈子の成功を受け、いささか過剰でドラマチックなキャッチフレーズを用いるアイドルが増えている。誰が名付けたか、「神に選ばれた美少女」と呼ばれるのは、乃木坂46の齋藤飛鳥だ。

 アイドルの売り出しにキャッチフレーズを用いるのは、定番中の定番だ。印象的なキャッチフレーズが付いていれば、本人の特徴やチャームポイントを分かりやすく伝えることができ、記憶にも残りやすい。昭和の頃で言えば、伊藤麻衣子(現・いとうまい子)の「一億人のクラスメート」や、大沢逸美の「ジェームスディーンみたいな女の子」などが秀逸だ。桑田靖子の「クラスで5番目に可愛い女の子」というのも、決して「1番」ではないという彼女のビジュアルからよく理解できるのだが、名付けられた本人は微妙な気持ちだったろう。

 キャッチフレーズには、「メディアが取り上げやすくなる」というメリットもある。武田玲奈の「ショートカットの後継者」のように、メディア主導でキャッチフレーズが決まることも最近は少なくない。アンジュルムの佐々木莉佳子がローカル時代に「AKB48の前田敦子と大島優子を足して2で割ったような美少女」として注目を集めたのも、テレビ出演の際、そのように紹介されたのがきっかけだった。

 メディアに取り上げられやすい秀逸なキャッチフレーズは、ブレイクの足がかりにもなるだろう。ただ、インパクトの強いキャッチフレーズがときに「足かせ」となることもあるようだ。橋本環奈の場合も、「1000年に1人」という呼び名があることによって、「他のアイドルが橋本よりも下に見られることを嫌い、共演を避けている」「テレビ局側も、多数のアイドルが出演する番組には呼びづらい」などの噂もある。前述した佐々木莉佳子も、ハロプロ研修生加入時に、AKBのファンから「裏切り者」と理不尽なバッシングを受けたことも。

 橋本環奈や桜井日奈子のような「地方発」という意味では、福岡のアイドルグループ「Sororベイビ→ズ」の仲村星虹が「12歳とは思えないプロポーション!」としてネット上で話題になっている。ネクストブレイク最右翼のひとりである彼女に、どのようなキャッチフレーズが付けられるのか楽しみなところだ。

【リアルライブ・コラム連載「アイドル超理論」第28回】

【記事提供:リアルライブ】
情報提供元: リアルライブ