観光客が多く集まる旧市街から南下すること約1km、そこには平仮名の看板が立ち並ぶ日本街がある。その名もハイバーチュン区。なんとも近代的な響きであるが、夜になると赤い提灯に明かりが灯り、醤油の焦げた匂いが漂い始める。その雰囲気は月曜日の北千住といった感じで、人はちと少ない。昼時の日本料理店はほとんど暖簾を下しており、営業しているのは現地人の客が目立つ洒落たカフェがほとんどだ。考えてみればベトナムに住んでいる日本人は、必然的に皆日中は働いているのだから当たり前か。

 当然のことながら客のほとんどは日本人の駐在員。わざわざ海外まで来て日本料理を食べるなんて、よほど日本が好きなのかひねくれているとしか思えないが、行ってみるとこれが意外に面白い。

 日本と言えばラーメンだろうと自分に言い聞かせ、一軒目のお店に入る(寿司屋は高そうだった)。 店内には、新聞を読みながら餃子をつつくおじさんが1人。メニューは豊富で、炒飯はもちろん、カレーライス、うどん、アジフライ定食などなんでもあり、散々迷った挙句看板メニューの味噌ラーメンを注文する。ベトナム人がどうやってラーメンを作るのか気になって見ていたら、なんと湯切りをしなかった。それでも普通に美味しいが正直自分でも作れそうな気もする。土曜日の半ドン授業が終わった後お母さんが作ってくれる「野菜たっぷりみそらーめん」といったところか。

 まだお腹に空きがあったので豚をメインにした串焼き屋へ入る。ねぎまや皮、つくねの他、おっぱい、テッポウ、ガツ、シロコロなど珍しい部位もある。こんなにあったら迷ってしまうよ、と思ったがその必要はなかった。なんでも串系は全て売り切れで今日はもうラーメンしかないという。仕方がないので豚骨醤油ラーメンを注文する。さっきよりはお店の味という感じがして、こってりラーメンで有名なあの大手チェーンととても似ていた。

 後日、今度は早い時間に来てリベンジを果たすが、より印象に残ったのは焼きとんの味ではなく私が読んでいる漫画を指差して、「ドロエモン、ドロエモン」と言う従業員の女の子の方だった。

 今度はご飯ものを食べようと定食もやっていそうな居酒屋さんに入る。割烹着を着た彫りの深いモロ外国人のおっちゃんが「イラッシャイマセ!」と迎え入れてくれた。なんだか可愛い。「刺身がオイシイヨ!」と渡してくれたメニュー表を見て驚く。週刊ジャンプくらいの厚さがあり、メニューを全部数えてみたらなんと425個もあった。15分以上悩んで結局「鶏のから揚げ定食」というかなりベタな注文をする。アオザイを着たお姉さんが味噌汁やら漬物やらを運んでくる姿には多少違和感があったが、板前さんはきっと日本が好きなんだろうな、と思えるそんな優しい味がした。

國友俊介

【プロフィール】
國友俊介 (くにとも・しゅんすけ)
旅×格闘技、アジアを自転車で旅をしながら各地のジムを渡り歩いている。目標は世界遺産を見ることではなくあくまで強い男になること。日本では異性愛者でありながら新宿2丁目での勤務経験を持つ。他にも国内の様々なディープスポットに潜入している。
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【記事提供:リアルライブ】
情報提供元: リアルライブ