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「リスタート、さぁどこへ向かおうかな」
今年の1・4東京ドーム大会のメインイベントで、オカダ・カズチカが保持するIWGPヘビー級王座に挑戦した棚橋。1・4東京ドームで6年連続メインに名を連ね5連勝中だったが、激戦のすえ敗北。しかし「ドームの棚橋さんだからか、わからないですけど、率直に強かったです」と、これまで棚橋を意地でも認めることがなかったオカダに「強かった」と言わしめた。
翌1・5後楽園ホール大会で発表された芸能事務所アミューズとの業務提携に関する囲み会見には、選手代表として出席。木谷高明オーナーは「棚橋さんが一番座りがいい」と語り、棚橋も前日の敗戦を引きずったような様子を見せることなく、終始笑顔だった。そしてロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンとの6人タッグに敗れ、バックステージに引き上げて来ると、含み笑いを浮かべながら冒頭のコメントを出し、控室へ引き上げた。
そして棚橋の「運命のライバル」中邑真輔の退団が発表される。次なるビッグマッチ2・11大阪(エディオンアリーナ大阪)、2・14新潟(アオーレ長岡)に向け、たくさんの選手がアクションを起こし、カードが決まっていく中、棚橋の「向かう先」は明らかにされぬまま、中邑の新日本ラストマッチとなる1・30後楽園大会を迎えた。
中邑の壮行試合に臨む棚橋の両隣りには、2・11大阪でオカダのIWGPヘビー王座に挑戦が決まっている後藤洋央紀と、同じく大阪で石井智宏のリターンマッチを受けるNEVER無差別級王者の柴田勝頼が立った。そう、この試合が始まるまで新日本マットでの「ネクスト」が定まってないのは、この試合で退団しWWEのリングで世界に挑戦する中邑と棚橋だけだったのだ。
【インターコンチを中邑に託される】
中邑の壮行試合は、1・4ドームでベルトを奪われたリベンジに燃える石井が、その相手である柴田を垂直落下式ブレーンバスターで仕留めた。この試合が壮行試合でありながら、2・11大阪大会の前哨戦でもあることは、試合後大ブーイングの中、執拗にオカダを攻撃し続ける後藤の姿からも見て取れた。
そこに1・5後楽園で行われたタッグマッチ(中邑&YOSHI-HASHI対AJスタイルズ&ケニー・オメガ)でIWGPインターコンチネンタル王者だった中邑(1・25に返上)から完璧なスリーカウントを奪って、所属しているバレットクラブからAJを追放し、新リーダーとなったケニーが現れた。リング下で中邑に何やら英語でまくし立てたケニーは、2・14新潟で中邑が返上したインターコンチ王座決定戦を「X(未定)」と行うことが発表されている。恐らく返上した中邑に対して納得できなかったのだろう。リング上を見ると中邑の他には「ネクスト」が定まっていない棚橋しかいない。棚橋は見かねた表情でケニーと中邑の間に割って入り「シャラーーーップ!」と絶叫すると、ケニーに言い聞かせるようにこう続けた。
「いいか? 説明してやるよ。寂しいけどな、中邑は、今日はラストマッチなんだ。わかるか?」
棚橋と中邑が同じ方向を向いている。答えはひとつしかない。
「だから・・・、だから・・・インターコンチ! 俺しかいねぇだろ!」
後楽園ホールに足を運んだ1806人(超満員札止め)のファンが抑えられない感情を爆発させるのを見た棚橋は、指を鼻にあて「シーッ」と観客を黙らせた。
「アイ、アム、Xー!」
両手をクロスさせながらこう叫び、2・14新潟でケニーと闘うXに名乗りをあげたのだ。背後から中邑が近付き、棚橋の肩を掴む。この時、客席には号泣しているファンがたくさんいた。中邑が愛し、新しい価値と創造を築き上げたインターコンチの運命は棚橋に託された。ケニーが引き下がるのを見届けた棚橋はリングを降りる前、中邑の方を一瞬振り返ったが、目が合うことはなかった。それはそれで、また再会した時の楽しみにとっておけばいい。
「ファンも俺たちレスラーも、前に進んでいかないといけない。中邑がいなくなるという喪失感はデカすぎる。ただ、まず中邑がいないという現実を受け止める。それがまず俺たちができる第一歩。時間がかかるかもしれないけど、これに慣れていくしかない。忘れるぐらいに盛り上げていくしかない。もしこれで、『新日本、オイ大丈夫か?』ってなるようなことがあったら、中邑も思い切って活躍できないでしょ? それは、俺たちにとっても本意ではない。新日本プロレス、まだまだ盛り上げていきますよ」
【前回歩めなかった棚橋のインターコンチロード】
バックステージに引き上げて来た棚橋は、中邑退団による新日本のダメージについて冷静に分析しながらコメントした。さすがはエースである。その腰にIWGPヘビーのベルトはないが、新日本の象徴が棚橋であることは揺るがない。そんな棚橋にこんな質問をぶつけてみた。
__今度こそ、インターコンチで、前回できなかった棚橋さんの新たな物語が始められるんじゃないですか?
すると棚橋は「そう、そう、そう!」と軽く拳で壁を叩きながら「前は何ともできなかったから、鬼の居ぬ間に、俺のベルトに仕上げますよ」と晴れやかな表情で語り、控室に戻っていった。
棚橋は2014年の1・4ドームで中邑を破りインターコンチ王座を奪取すると「白いエース」宣言。そして「ベルトっていうのは、共有した時間の長さの分だけ思い入れが生まれるから、このインターコンチも俺のいい相棒になってくれると信じてます」と語り、また多くのファンが棚橋のインターコンチロードはどんなものになるのだろうかと期待していた。しかし、2月に中邑相手に初防衛に成功するも、4月の中邑との3度目の対決に敗れ、棚橋のインターコンチロードは見られぬまま終わっている。この時の悔しさが「そう、そう、そう!」という最初に出た言葉に詰まっていたのは間違いない。
だが、バレットクラブの新リーダーになって最初のビッグマッチとなるケニーは、ある意味棚橋よりも敗れたときのリスクがあるのではないだろうか。ヘビー級転向後、初のシングル。勝利のためなら当然セコンドを介入させて来ることも十分考えられるだけに、苦戦が予想される。試合後に中邑は棚橋について「『あとは任せたぜ』って言える仲間の一人」と語った。中邑から託されたインターコンチの運命、そしてあの頃歩めなかったインターコンチロード。様々な思いを胸に、2・14新潟から棚橋のリスタートが幕を切る。
(増田晋侍)
<リアルライブ・コラム連載「新日Times」VOL.4>
【記事提供:リアルライブ】