首脳陣は『スピードスター』をどうやって育てていくのだろうか。
 東北楽天ゴールデンイーグルスの新入団選手発表会でも“存在感”を見せてくれた。ドラフト1位・オコエ瑠偉(18=関東一高)が会見中、茂木栄五郎(21=早大/3位)に振られ、美声を披露したのは既報通り。将来は球界を代表する1番バッターになってくれるだろう。夏の甲子園を沸かした彼の早期デビューに期待するファンは多いが、梨田昌孝監督(62)はまだその育成ビジョンを明かしていない。

 一年目から実戦で使っていくのか、それとも、二軍で鍛え上げてから一軍に昇格させるのか−−。
 投手はともかく、高校卒の野手がいきなり一軍で結果を出すのは難しいとされている。しかし、それをやってのけた選手もいる。そこで思い出されるのが、梨田監督と星野仙一副会長(68)の新人に対する考え方の違いだ。
 星野副会長は中日指揮官時代に逆上っても、新人を抜てきし、チームの活力にも変えてきた。来季から楽天投手コーチとなる与田剛氏(50)もその一人であり、近藤真一(現・真市)、森田幸一なども一年目から一軍マウンドを経験した。高卒野手では立浪和義もいる。一方で、アメリカでの野球留学を経験させて一人前に育てた山本昌のようなケースもあった。阪神、楽天の監督時代は“大抜てきのサプライズ”はなかったが、野球・日本代表監督だった08年2月、日本ハムキャンプを視察し、こうも語っていた。
 「オレなら、50試合打てなくても使い続ける」
 新人だった中田翔の室内打撃練習を見ているときに出たセリフだった。将来の日本を背負って立つスラッガーの一日も早い実戦デビューを訴えたわけだが、中田は開幕を二軍で迎えた。プロ初スタメンは3年目、規定打席に到達したのは4年目の2011年である。
 そのとき、中田の早期デビューを許さなかった日本ハム指揮官が、今日、星野副会長と二人三脚を取ることになった梨田監督というのも、何かの巡り合わせだろうか。

 梨田監督だが、近鉄、日本ハムでの采配を振り返ると、大一番で新人に頼るようなギャンブル的なことはしない。何事にも慎重な指揮官である。中田の新人時代を知る日本ハムOBがこう言う。
 「当時の中田はまだ精神的に子供でした。考え方が甘いというか、野球でメシを食うんだとの自覚も稀薄だったように思います。梨田さんはそういう時期に試合に出しても、本人のためにならないと考えていたんだと思います」
 今日の中田の活躍を見れば、梨田式の育成は間違っていなかったことになる。しかし、楽天のチーム編成権を任された星野副会長がそれで納得するだろうか。
 関東一高と試合をしたこともある高校の監督がこう言う。
 「オコエ君の一軍デビューの時期は打撃力で決まると思う。夏の甲子園時とその後に招集されたU−18大会とでは、打撃フォームが違うんですよ。代表指揮官の西谷浩一監督(大阪桐蔭)がプロ入り後のことを見越して、オコエ君の打撃フォームを改造しています。その打撃フォームが固まっていて、かつプロの投手のスピードに対応できるのなら一年目からでも活躍できると思う」

 かつて星野副会長が言った「50打席打てなくても使う」のセリフが“リップサービス”でなかったとしたら、実力不足であれば、それも実戦で痛感させることになる。
 2014年、星野副会長が指揮を振るった最後のシーズンのことだ。監督・星野は高卒ルーキーの松井裕樹に一軍マウンドを踏ませ、『プロの洗礼』を浴びさせた。星野副会長と梨田監督がオコエの育成方針を巡って衝突しなければいいのだが…。(一部敬称略/スポーツライター・飯山満)

【記事提供:リアルライブ】
情報提供元: リアルライブ