NHKの総力戦研究所題材ドラマ内容に遺族が会見で苦言 フィクション表記もBPO申し立て検討
NHKが8月16、17日にNHKスペシャルとして放送した戦後80年関連ドラマ「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」について、題材となった総力戦研究所の初代所長、飯村穣中将の孫で、元駐フランス大使の飯村豊氏(78)が26日、都内で会見を行い、番組内容に「事実と反する部分があった」と苦言を呈した。BPO(放送倫理・番組向上機構)への申し立ても検討しているという。
会見場には一般紙やテレビ局のカメラなど報道陣約40人が集まった。飯村氏は7月にドラマの放送を知ってホームページの概要を見たところ、「おや? と思うことがいくつか書かれていた」と経緯を説明。気になる点が2点あったとし「1つ目は、ドラマの中で私の祖父と思われる人物がいて、若い人たちの自由な議論の大きな壁となったと。ドラマを見た感じ、軍人が出てきて怒鳴りまくっていて。責任逃れで部下を圧迫するような人間として描かれていた。祖父の人格を毀損(きそん)するような描き方をしている。総力戦研究所は自由な議論が一番重要な部分。祖父がそういう人間ではなかったことはいろんな書物にも出ていますし、どういう根拠でああいう人物をつくったのか」。
2つめは史実の伝え方の部分とし「歪曲(わいきょく)、捏造(ねつぞう)して伝えている。今、日本が最も必要としていることは歴史をしっかりと伝えて若い方々の思考のベースとすること。そこの最初のとっかかりで、公共放送であるNHKがこうした間違った伝え方をするのは全く遺憾であります」と語った。
飯村氏は放送前にNHKの番組担当者に接触したといい、内容変更などができない旨を伝えられたという。その上で局側に番組冒頭にテロップで番組内容や人物がフィクションであることを約15秒間、明示することなどを求めた。実際の放送では約15秒ほどテロップが表示されており、ドラマの後に放送したドキュメンタリー部分でも飯村穣中将の実際の人物像の説明なども行われた。
飯村氏は制作スタッフから映画化の構想があることも聞いていたという。しかし、ドラマ内容にあったような解釈のまま制作が進むことを懸念し、NHK副会長や専務理事へアポイントをとることを試みたという。BPOへの提訴を検討していることや、映画化についての意見を伝えるためだったが、局側からは専務理事から「現場の者が対処します」と伝えられたのみで、その後の連絡はなかったという。「歴史を歪曲(わいきょく)する番組を流した後に当事者の1人の私が申し入れてもお会いにならない。こういうのが私の理解でございました」。そうした中で今回の会見実施に踏み切ったという。「映画化は現状のままではやめていただければありがたい。BPOへの提訴も検討します。この場を借りてお伝えしたいと思います」と話した。
一方、NHKは今回の件に関してコメントを寄せ「番組は戦後80年が経つ中で歴史を風化させず、なぜ日本が戦争に突き進むことになったのかを考えてもらうきっかけになればと考え企画しました。番組制作の過程の詳細についてはお答えしていませんが、今回の番組は、ドラマパートとドキュメンタリーパートで構成されています。ドラマパートは実在した総力戦研究所に着想を得たものであり、所長および関係者はフィクションとして描かれています。ドキュメンタリーパートでは、総力戦研究所の史実や関係者の実像についてお伝えしています」とつづった。映画化の構想の有無については「現時点でお答えできることはありません」とした。
飯村氏は「いくらテロップを出しても、そのドラマが真実だと見る人には伝わると思うんです。私の周囲の知り合いもドラマのインパクトはテロップのインパクトとは違うよねと言っていました」と語る。NHKの回答について意見を求められると「結果として何がフィクションで何がドキュメンタリーなのかわからないということになっていると思います」と話した。今回のドラマは同名小説を原案に、主人公を池松壮亮が演じ、石井裕也監督が初めて戦争ドラマに挑んだ作品。石井監督との対話も求めたというが「肯定的な返事はいただいてないです。映画を制作されるのであれば恒常的な意思疎通の場を設けてほしいとお願いしましたが、お返事もいただいていない」。
一定の史実に基づきながらフィクションとしてドラマが制作されることは今回の件以外にもある話と言える。飯村氏は「歴史考証をしっかりやるという部分を無視したアプローチはどうかなと思います。歴史をドラマにするにあたって、面白くするためにという要素はあるかもしれませんが、歴史考証の観点から考えられないこともやっていいのかという問題はあると思います。もっと昔の聖徳太子らを取り上げる時などとはまた別で、今回は私のようにまだ子孫として生きている人に関わる問題ですから。そこもNHKさんは公共放送でやられている以上はお考えになった方がいいんじゃないかと思います」と呼びかけた。