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今回もチャーミングな趣さえあるタイトルからは想像もつかない社会のダークサイドへ切り込んだ重たい一本になっていました。それもそのはず。1980年代、実際にイタリアで起こった殺人事件をモチーフに描かれたのが本作なんです。言ってしまうとイタリア版『冷たい熱帯魚』のような一本。ガローネ監督が12年前から何度も脚本を書き直し、やっと完成に漕ぎ着けた本作は、今回も最高に不条理な犯罪ドラマに仕上がっていました。
舞台はイタリアの小さな町。主人公は小心者のドッグトリマーの男。トリマーという響きとは程遠い、獰猛&立ち上がれば成人男性と同じくらいの超大型犬ばかり預かっています。それでも、トリマーの大会では賞を採る実力者。どんな犬も上手く手なずけ、シャワーに入れたり、伸びた毛をカット。そんな主人公の姿からは人の良さが伺えます。近隣の店主たちともフットサルや食事を共にする仲。生き甲は、離婚した妻が預けに来る愛娘とのひと時。そんな一見、順調に見える主人公には、ある悩みが。
それは町一番の暴れん坊の頼みを断れない事。遊技場でゲーム機にキレて、ゲーム機をブッ壊す様はまさに暴力を具現化したような人物。ディーラーに借金のある暴れん坊に代わり、コカイン購入をパシられる毎日。とうとう強盗の手伝いをさせられたりと、状況はさらにエスカレート。飛んでもない事件に巻き込まれていきます!!
娘と犬を愛する小市民の主人公。気の抜けたエスパー伊藤みたいな顔をした顔面力は『冷たい熱帯魚』の吹越満の10倍くらい幸薄。感じで言うとスティーヴ・ブシェミの方が近いかもしれません。胸ぐらを掴まれて脅される姿は、ケンカに発展すれば100:0で負けること間違いなしな信憑性。だからこそ、悪化していく状況の中、主人公がとる行動はインパクト大!! 見いていて不安になるサスペンス要素も発揮!!
そんな主人公を演じるのは、マルチェロ・フォンテさん。彼は、エキストラや端役ばかりで本作に出演するまでは無名だったんです。所が、3ヶ月トリマーの訓練をして挑んだ本作への出演で、第71回カンヌ国際映画祭で主演男優賞を獲得しました。一気にスターの仲間入りです。それ以外に本作は、イタリアのアカデミー賞と言われるダビッド・ディ・ドナテッロ賞の作品賞・監督賞など9部門も受賞しているんです。
暴れん坊にコカイン代金を払ってもらえなかったり、撃たれた傷の手当てをさせられたり。迷惑を掛けられつつ、何だかんだストリップへ連れて行ってもらったり、一緒にコカインを吸ってたりと、満更でもない様子の主人公。周りの人間にはなかなか理解しにくい矛盾だらけの二人の関係。暴れん坊の男の方も、実は年老いた母と二人暮らし。母には頭の上がらない一面も。
そんな中、一線を超えてしまい、友人たちや店の顧客の信用も失い、娘とも会えなくなった主人公。映画の後半では、ある計画を実行に移します。暴れん坊の男に対し、獰猛な犬を手なずけるような主人公の対応がもう狂気じみてます。 生々しいリアリティーを押し出したドキュメンタリー風の前半。廃れた雰囲気のロケーションの力も借り、寓話的な演出へマイナーチェンジしていく後半。そして、クライマックス、主人公が取り戻そうとしたものが発覚する辺り、切ない気持ちになります。どこを取っても一筋縄ではいかないのが本作の魅力なんです。
暴力による威圧の中、孤独を深めていく主人公のドラマにシンパシーを感じる方にオススメ。映画で言うと『タクシー・ドライバー』や『ランボー』の派手なアクション抜き、『アメリカン・サイコ』の猟奇的な要素抜き……といった感じ。
今回、ご紹介させて頂いた映画『ドッグマン』は8月23日からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショーとなります。
監督:マッテオ・ガローネ(『ゴモラ』)
出演:マルチェロ・フォンテ、エドアルド・ペッシェ、アリダ・バルダリ・カラブリア、アダモ・ディオジーニ
原題:DOGMAN | 2018 年 | イタリア | イタリア語 | カラー | シネマスコープ | 5.1ch | 1 時間 43 分 | PG12
字幕翻訳:石井美智子| 配給:キノフィルムズ/木下グループ | 宣伝プロデュース:ブレイントラスト | dogman-movie.jp
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オフィシャルサイト:http://dogman-movie.jp/
YouTube動画:https://youtu.be/RhHLqeg_A9E