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歯並びが悪いと食べ物をよく噛めなかったり、歯ブラシが届かずきちんと磨きにくかったりするため、虫歯や歯周病になりやすいということがあります。また、どこが虫歯になっているのかもわかりにくく、気がついたら虫歯になっていることも多いのです。そういった意味でも矯正治療は「究極の予防」であると言えますね。
保険制度の違いなどから日本はどうしても欧米諸国に比べると遅れがちなのですが、医療費がほぼ自己負担のアメリカでは歯列矯正をすることがひとつのステイタスになっています。子どもの歯並びが悪かったらそれは親の責任であるという考えが主流なんですね。というのも、凸凹のままの歯並びを放っておいて虫歯や歯周病になってしまったら、一生にかかる医療費が高額になるからです。歯科の研究に関してもアメリカは先進国で、歯の疾患と全身の健康には関わりがあるということが広く浸透していることも大きい。定期的にメンテナンスに通う人も多く、歯科の受診率が高いです。
一方、日本では、歯に対する意識がまだまだ低く、情報も少ないため、歯並びに凸凹があって虫歯になっても、虫歯だけを治して終わりというケースが多い。それでも、10年20年前に比べれば矯正をする人は圧倒的に増えているし、少しずつその重要性が認知されはじめているのかなと感じています。受診のきっかけになるのはやはり、人から歯並びの悪さを指摘されたことや、自分でも見た目が気になるようになったということが多いです。
今は平均寿命が延びており、人生100年とも言われる時代ですので、初診時に10歳だったとしても、そこから90年近く自分の歯を使うことになる。そうすると、見た目だけではなく、全身の健康を守るためにも、「一生自分で噛める歯並び」を作っていくことが大切になってくるのです。
何歳で矯正を開始するべきかというのは症例によって違ってくるのですが、一般的にはだいたい7歳までに矯正を開始することが推奨されています。発育が旺盛な時期なので、下あごが出ていたり、歯が1本でも内側に入って生えていたりすると、あごがゆがんだまま発達することも考えられる。基準は特にないですが、ちょっとでも気になるところがあったら受診した方がいいと思いますね。そのためには子どもの歯の発育を親がしっかりと把握していないといけません。
もし1歳半検診で下あご注意と言われたら、そのまま3歳児検診まで様子を見守り、そこでも治っていなかったらすぐに受診した方がいいですね。指しゃぶりは4歳までに取れるといいですね。ずっとしゃぶっていると指がはいる隙間ができて、前歯がかみ合わない状態になるんです。やめさせるのは大変ですが、その時点であればまだ骨格的にもやわらかいので元に戻すことができます。
そのほかの歯の凸凹に関しては7歳くらいで十分だと思います。当院では、矯正治療を開始して矯正完了まで、子どもだったらだいたい1年半~2年が目安と伝えています。
中学生や高校生、大人になっても矯正治療はできます。気付いた時点で治すべきだと思いますね。歯があれば何歳でも治すことができます。逆に歯周病ですでに歯がないという人は、たとえ20代でも治すことはできません。歯は骨の中に埋まっているので、歯周病でその骨が溶けてくると歯を支えることができないのです。歯並びがいいと虫歯にも歯周病にもなりづらくなりますので、矯正で歯並びをキレイに整えておくことが、一生自分の歯を保つことにつながります。
ただ、できれば小学生のうちにやっておくと、歯を抜かずに矯正できることが圧倒的に多いのは確かですね。これは私が患者さんとその親御さんに矯正の説明をする時によく使うたとえ話なのですが、「このままでいくと6人掛けのイスに8人座るような歯並びになっちゃいます。小学生のうちであれば、まだあごが動くので、イスを大きくして全員をぴったりと座らせるような治療ができます。中学生・高校生にもなるとあごの発育はほとんどないから、あごを大きくしても元に戻ってしまうんです。するとイスに対して2人あふれているから2人減らさないとね、という治療になるんです」と。歯並びをきれいにするという最終ゴールは同じでも、あごの発育などによって矯正の仕方が変わってくることが多々あるので、できるだけ早いうちに治療を開始するのがベターです。
以前は一つひとつの歯の表面に付けた装置を銀色のワイヤーでつなげて歯並び全体を固定する矯正法が主流でしたが、今は装置もたくさんあり、治療方法もさまざまです。当院でも透明なマウスピースを使用するものや歯の裏側で装置を固定する矯正法などを実施していますが、「目立たないならやりたい!」という大人の方は多いですね。
患者さんにとって一番ストレスがない治療法は、装置が透明で目立たず、痛みの少ないマウスピースで矯正を行う、インビザラインシステムという方法です。ワイヤー矯正の痛みが10だとするとマウスピースは1か2程度。さらに、ごはんを食べるときや歯を磨くときには簡単に外せるので、ケアもしやすいのです。でも、だからといってすべての歯科医がマウスピースで矯正治療ができるかというとそうではありません。マウスピースを作る前段階でその患者さんに本当に合った治療法かどうか見極めなくてはならないですし、また、マウスピースがすべての症例に対応できるというわけではないので、その場合はワイヤー矯正で治す道も探らなくてはなりません。
ワイヤー矯正ができてマウスピース矯正も取り扱っている歯科医と、マウスピース矯正しか取り扱っていない歯科医とでは全然違います。いざマウスピースでは治しきれない状態だったときに矯正の基礎となる理論をわかっていないと根本的に治すことはできないのです。なので、矯正歯科を選ぶときは、ワイヤー矯正もマウスピース矯正もできて、さらにいろいろな選択肢を出してくれるクリニックを探した方がいいと思いますね。
また、日本で矯正を専門にやっていきたいという歯科医の多くは日本矯正歯科学会認定医を目指すので、その資格の有無もクリニックを選ぶ目安になるかもしれません。矯正に関する知識が深い上、症例に応じた治療経験数も必然的に多い。一般の先生でも矯正が上手な方はたくさんいますが、矯正専門医との経験症例数は比較にはならないと思います。
矯正は時間も費用もかかりますので、面倒でもいくつかのクリニックを回っていろいろと話を聞いて、自分に合っているところ見つけた方がいいですね。歯の矯正は一生のことですから。私も、うちのクリニックに来て矯正をしようかどうか迷っている方には、無理に勧めず「自分が納得するところでやったほうがいいですよ」と伝えています。長いお付き合いになるからこそ信頼できる先生のところでやったほうがいい。飛び込んだところで治療するのも勇気ですが、いろんなクリニックを見極めるのも勇気だと思いますね。
人間は悪い状態にも順応することができるから、生まれつき歯が凸凹でも生活に支障がなければ歯医者には行かないという人は多い。でも、人生100年とすると、矯正治療は長くても2年。人生のうちのたった0.2%の期間でそれをやらなかったために、60歳を過ぎてからの人生を自分の歯で食べられなくなってしまったり、心臓病や脳梗塞などの病気になってしまったりしたらと考えると、リスクの方が大きいと思うんです。そのときになって「矯正しておけばよかったな」と思っても、歯周病で歯が無くなっていれば矯正はできません。30代40代で矯正をしたとしても、まだその先は50年以上もあります。病気で長生きをするのと健康で長生きをするのとでは雲泥の差がある。早めに治療をした方がよいというのはそういうことなんです。
また、矯正治療で見た目のコンプレックスが解消されるにつれ、患者さんが内面からどんどん明るくなってくるのを感じます。初診と治療終了時では全然顔が違う。患者さんの笑顔を見るのがうれしいですし、楽しいですね。矯正専門医として、その人の人生に少しでも役に立てているのかなと思える、やりがいを感じる瞬間です。
矯正をするしないにかかわらず、歯医者に当分行っていないという人は一度行ってみた方がいいと思いますね。30代を超えると8割の人が歯周病だといわれていますので、ほとんどの人が何かしらの歯の疾患を抱えていると考えられます。痛くなってからだと遅くて、神経を取ったり、歯を抜いたりしなくてはならなくなる可能性もある。定期的に検診に行くことが大事です。皆さんが健康に生きるための手助けをするために私たち歯科医がいますので、これを機にぜひ歯医者に行ってみてください。
矯正歯科医 小林英範
1975年生まれ、東京都出身。2000年日本歯科大学卒業。矯正専門医院などでの勤務を経て、02年むらおか歯科矯正歯科クリニック勤務。同院をメインに4つの歯科クリニックで専門医として矯正治療を担当する傍ら、歯科医を対象とした講演会やメディア出演、執筆等でも活躍している。日本矯正歯科学会認定医。日本顎咬合学会認定医。インビザライン認定ドクター。インコグニート認定ドクター。
【所属学会等】
日本矯正歯科学会/東京矯正歯科学会/日本顎咬合学会/日本レーザー歯学会/
日本舌側矯正歯科学会/日本アンチエイジング歯科学会/日本アライナー矯正歯科研究会/ 日本非抜歯矯正研究会/WORLD FEDERATION OF ORTHODONTISTS(=WFO: 世界矯正歯科医連盟/American Association of Orthodontists(=AAO: アメリカ矯正歯科学会)
【URL】
https://muraoka-dentalclinic.com/