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そんなシュレイダーが牧師を神の存在に疑問を抱える主人公を描いた脚本・監督作が4月12日から日本公開される映画『魂のゆくえ』。本作は、シュレイダーが構想に50年掛け、評論家たちからは集大成的な作品と言われてます。実際、アメリカではシュレイダー監督作品では興行収入が最高額に達し、アカデミー賞の脚本賞にもノミネート。
本作は、46歳の牧師の日記という設定の主人公のモノローグにより進行。映し出されるのは牧師の日常。ゴシック調の部屋に1人で暮らす主人公。市長や知事も出席する教会の250年記念式典が迫っており、その準備に奔走する日々。周りの人々との会話。
ほぼ正方形のビスタサイズの画面。三脚により固定されたカメラ。そんなカメラは登場人物の正面に置かれ、動くことはありません。バストサイズでただ役者の芝居を淡々と映し続けます。その中で、従軍牧師だった過去や戦争により息子が死んだ事。妻と離婚した事や自らが重い病気を抱えている事が垣間見えてきます。そして、常に罪悪感を抱えて生きている事が解ってくるという仕組みです。
音楽もなく、ひたすら会話劇が進みます。思わず退屈になりそうなものですが、それでも観入ってしまうのは、会話の密度とモノローグとして挿入される主人公の本音。「神は何を求めているのか?」「もっと良い言い方があったのではないか?」と自問自答する心の声が会話に重なってきます。派手ではないものの、少しづつ様子の変わっていく牧師の行動から目が離せなくなっていきます。
そんな中、登場する重要人物が、鬱病の環境活動家の男。地球温暖化など、環境問題が止められないレベルに達していく中、妻の妊娠を知って、不安を抱えていると話します。最初は、「それらの問題ではなく、自分自身の問題を考えるべきだ」と話す主人公ですが、環境活動家の話に憑りつかれていきます。
そんな感じで、1時間が過ぎた辺り、突然、マイクに風を吹きかけたような不気味な音が聞こえてきます。それは、環境活動家の家のガレージで見つけた、自爆テロ用の爆弾ベストと対峙するシーンです。ベッドに置かれた爆弾ベストを見つける主人公。その後、彼は飛んでもない計画を実行に移していきます。
静かな演技の中で凶器を醸し出す主人公の牧師役には、大作映画『マグニフィセント・セブン』からインディーズ映画『6才のボクが、大人になるまで。』まで様々なジャンル、規模を行き来するイーサン・ホーク。シュレイダー監督は脚本を書いてる途中で「この役はイーサンにこそふさわしい」とオファー。本作での安定の演技力で様々な賞を受賞しています。
環境活動家の妊娠中の妻を演じるのは、『マンマ・ミーア!』『レ・ミゼラブル』のアマンダ・セイフライド。撮影中は役柄と同じく、自身も妊婦だったとの事。本作では、幸の薄い雰囲気は残しつつも、主人公の心の拠り所になるキャラクターをバランス良く演じています。
主人公の先輩牧師を演じるセドリック・カイルズは、本来、セドリック・ジ・エンターテイナーの名前で活躍するコメディアン。本作では、お笑い要素を封印。貫禄ある演技で新境地を開拓。イイ味を出しているので、注目して観て頂きたいです。
本作で、個人の罪悪感が描かれています。ですが、素晴らしいのは、それをベースに様々なモチーフが浮き彫りになっていくストーリー。環境問題や宗教問題、スピリチュアルな世界観、教会などの伝統文化の衰退、あるいは産業界の傲慢な姿勢。観る人によっては、感想が変わってくるような多面的な作品に仕上がっています。
映画『魂のゆくえ』は、4月12日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほか全国順次公開です。
ギボ・ログ★★★★☆
2017年アメリカ / 英語 / 113分 / カラー / スタンダード / 5.1ch
原題:First Reformed
監督・脚本:ポール・シュレイダー『タクシードライバー(脚本)』『レイジング・ブル(脚本)』
出演:イーサン・ホーク『6才のボクが、大人になるまで。』 / アマンダ・セイフライド『レ・ミゼラブル』 『マンマ・ミーア!』
提供:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
配給:トランスフォーマー
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