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本作は、1970年代を舞台に、白人至上主義団体であるKKK(クー・クラックス・クラン)に黒人の警官が潜入捜査するという題材からしてヤバめな内容。それをコミカルなブラックジョークとスリリングな展開で描いています。
そもそも、KKKとは何か?1970年代がどんな時代だったのか?なぜ、実話ベースの本作がアカデミー賞の脚本賞ではなく、脚色賞の方を受賞したのか?
本作の見どころと共に、紹介したいと思います。
白人至上主義団体KKKとは、簡単に言うと「白人以外の人種を認めない人たち」の秘密結社団体。しかも、ただ「認めない」というだけではないんです。「他の人種は白人より劣っている」という考え方だから、第二次世界大戦後には、黒人を中心とした人種差別の解消を求めて行った公民権運動の活動家を殺害する事件が勃発。三角の白いマスクを被り、松明を持ってデモ活動をする姿は、もはやトレードマーク化していますね。過去にも、田舎の警察とグルになって公民権活動家を殺した事件の実話ベース映画『ミシシッピ・バーニング』や白人至上主義にハマっていく兄弟を描いた映画『アメリカン・ヒストリーX』などでも描かれています。
舞台は、まだ黒人差別が色濃い1970年代前半。黒人警官である主人公が、新聞でKKKのメンバー募集を発見。電光石火の早さで電話。声だけでは解るまいと、ノリノリで白人至上主義者っぽく話してたら、「お前は見どころがあるな。今度、ウチへ来いよ」と晴れて面接実施の流れへ。でも、のこのこKKKの事務所へ行くなんて不可能。
そこで、同僚の白人警官を代役に潜入捜査をブチかます事に!!ここに即席のKKK潜入操作チームが結成!!2人で1人の白人至上主義者を演じ、んなアホな!!というミッションが次々と展開されていく運びとなりました。
本作は、元警官のロン・ストールワースさんが潜入捜査した実話をつづったノンフィクション小説が原作。原作の時代は1979年。ところが、映画版では1970年代前半に変更されているんです。なぜか?
1970年代前半と言えば、黒人文化が最もスパークしていた時代。音楽はファンクやソウル・ミュージックが流行り、黒人たちはアフロヘアーに。公民権運動も盛んでしたが、黒人たちも主張を増してイケイケの時代でした。
そんな当時、流行っていた映画がブラックスプロイテーション映画。本作のスパイク・リー監督は、時代設定を1970年代の前半に移した事で、ブラックスプロイテーション映画風の演出バンバン採用。当時にタイムスリップしたような感覚さえ覚えます。
「黒人搾取映画」という意味で名づけられたブラックスプロイテーション映画。要は、黒人をターゲットに客層を絞った映画。なので、制作スタッフや役者も黒人ばかりだし、描かれるのも、クールで格好いい黒人たちがアホで間抜けな白人たちをケチョンケチョンにする内容ばかり。1971年に自主映画体制で作られた『スウィート・スウィートバック』が起源という説と、その後に映画スタジオがバックについてハリウッド資本で作られた『黒いジャガー』が起源という説があります。
本作の中でも、デート中の主人公が彼女とブラックスプロイテーション映画の話題で盛り上がるシーンでは『黒いジャガー』の名前が出ます。その他、『コフィー』と『スーパーフライ』という2本の映画を比べるセリフが出ます。これは、両作ともイカした黒人女性が出る映画。『コフィー』の主演女優であるパム・グリアは美人なのにアクションもこなし、当時、ブラックスプロイテーション映画に出演していたお方。彼女のファンを自称する映画オタクのタランティーノ監督は自作『ジャッキー・ブラウン』へ出演させています。
また、ロン・オニール主演の『スーパーフライ』は麻薬ディーラーを主人公に派手なファッションや車がバンバン登場。カルト的な人気がありました。
是非、本作を観賞した後で、気になる方は、ブラックスプロイテーション映画も観てみて下さい。本作との演出の共通点を多く見つける事が出来ると思います。
原作の時代設定を変えちゃうわ、でも実際の事件は盛り込んじゃうわ、急にバラエティ番組みたいな演出が始まるわ……と、やりたい放題の脚本を書き、アカデミー賞脚色賞を受賞したのは、スパイク・リー監督。もう、そのやり過ぎな脚本ゆえに脚本賞ではなく、脚色賞なんですね。
スパイク・リー監督と言えば、自身も黒人で『ドゥ・ザ・ライト・シング』や『ジャングル・フィーバー』、『マルコムX』、『クルックリン』など、黒人を主役に黒人の生活にフューチャーしたコメディや社会派映画を作ってきたお方。その歯に衣着せぬ政治的な発言の数々は度々、問題になるほど。
近年は、白人を主人公にした作品やアクション映画ばかり撮っていましたが、本作は久々の原点回帰的な作品で、第71回カンヌ国際映画祭のグランプリを受賞。
主人公の黒人警官を演じるのは、名優デンゼル・ワシントンの実子ジョン・デビッド・ワシントン。相棒の白人警官役は「スター・ウォーズ」シリーズでカイロ・レン役を演じたアダム・ドライバー。
黒人と白人の警官の無謀な捜査をスリリングに描きつつ、KKKの白人たちを間抜けに描く辺りはコミカル。後半になれば、「事実などクソくらえ」とばかりに原作を無視。実録映画としてはどうかしているが、やり過ぎエンターテイメントとしては合格なフィクション炸裂!!もはやジャンルさえ凌駕した演出の数々。観客から興奮をカツアゲしつつ、移民政策に熱心なトランプ政権をメタファーにした政治批判まで繋げていくのが素晴らしいです。
映画『ブラック・クランンズマン』は本日から全国公開になります。
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ギボログ★★★★☆(星4つ)