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写真)粉ミルクと同成分組織の「乳児用液体ミルク」。写真はフィンランドやスウェーデンで流通している紙パック商品。
先日「乳児用液体ミルクの解禁によって広がる『子育ての多様性』について」と題したセミナーが都内で開催され、順天堂大学大学院医学研究科 小児思春期発達・病態学講座主任教授の清水俊明先生や、一般社団法人 吉村やすのり生命(いのち)の環境研究所代表理事で、慶應義塾大学名誉教授の吉村泰典先生など、育児の専門家らが登壇。「乳児用液体ミルク」に関する制度改正の現状や今後の可能性についての勉強会が行われました。
「乳児用液体ミルク」は、粉ミルクのような温度調整が必要ありません。
常温での長期保存が可能なため、製品化の際には「飲み残しを飲んではいけないこと」や、常温を越えない温度での保存など「購入後の保管方法」について、わかりやすい表示が義務付けられており、特に、衛生面・安全面における厳しい基準が設けられます。
「乳児用液体ミルク」に注目が集まったのは、2016年の熊本地震の際にフィンランドからの支援物資として配布されたことがきっかけと言われています。日本ではなじみのない「乳児用液体ミルク」ですが海外ではメジャーな存在であり、特に、スウェーデンでは5割、フィンランドでは9割の親が使用。調乳する必要のない「乳児用液体ミルク」は、父親の積極的な育児参加にも一役買っています。
今回の解禁では、授乳における育児の負担軽減はもちろん「災害時の母乳代替品」「海外からの旅行者への対応」、さらには「男性の育児参加の促進」など、あらゆるシーンでの活躍が期待されているのです。
一般社団法人 ぷちでガチ!の「育休MBAサポータ」で、江崎グリコ株式会社の水越由利子氏は、「乳児用液体ミルク」の解禁によって「簡単に持ち出せることで、外出しやすくなる。より楽しく安全に子育てをシェアできる」などの利点をあげ、子育ての多様性をサポートし、ゆとりのある育児につながるとしています。
また、江崎グリコ株式会社が行なった「乳児用液体ミルクに関する調査」(2018年7月)によると、「液体ミルクを使ってみたい」という回答が5割を超え、その内訳は「外出時」(6割)「災害時」(5割)「夫・家族以外が授乳する時」(4割)だそうで、早めの商品化が望まれています。
このように、あらゆる子育てシーンで活躍が期待される「乳児用液体ミルク」ですが、日本国内において高水準の安全性課題がクリアできなったとはいえ、海外にくらべ解禁が遅かった感は否めません。
「乳児用液体ミルク」の利用率の高いスウェーデンやフィンランドは、いずれもジェンダーギャップ指数がトップ5に入る女性が活躍する国。対して日本は、ようやく「ワンオペ育児」が社会問題化するなど、欧米にくらべ、育児に関する課題解決への積極性の低さが目立ちます。女性のキャリア形成が変化するなかで、日本の未婚・晩婚・晩産化は進み、男性は4.4人に1人が、女性は7.5人に1人が50歳時点でも未婚です。(総務省統計局「国勢調査報告」)
慶應義塾大学名誉教授の吉村泰典先生は、「“女性が働くようになったから、出生率が下がった”などと言われているが、それは日本だけの現象であり、欧米では、女性が働ければ働くほど出生率が上っている」と話し、「共働き世帯が増え、核家族化が進むなかで、夫が家事や育児に参加しないのは問題。夫の育児参加率は5年前に比べ倍くらいに増えてはいるものの、依然、日本には性別役割分担意識が根強く残っている」とし、企業・社会・男性、そして女性自身の意識改革も必要だと訴えます。
「女性には“自分がやらなければならい”といった思いこみがあり、そういった心理面の負担も「乳児用液体ミルク」の登場で改善されるのではないか。ジェットコースターのように低くなる出生率に歯止めをかけるには、夫の掃除・洗濯を手伝うなどの間接的な育児では間に合わない」と、男性でも与えやすい「乳児用液体ミルク」が、子育てのシェアの広がりや、多様性につながると期待を寄せています。
今後、世界の液体ミルク市場は、2012年にかけて38億ドル(4400億円)まで拡大する見通しであり、日本の市場を含め一定の水準で成長してゆくとされています。なお、セミナーをサポートした江崎グリコ株式会社は、「商品化を前向きに検討している」とコメントし、日本での商品化に向けた動きが見受けられました。
赤ちゃんにとって母乳が最良の栄養であることは変わりありません。しかし、今回の「乳児用液体ミルク」解禁が、社会全体が授乳=母親というイメージに縛られることなく、子育てに参加するきっかけになるかも知れません。