- 週間ランキング
武豊騎手「キタサンブラックの仔に指名されるような騎手でいられるよう、努力を続けたい」 https://t.co/2Qss3wI8F4pic.twitter.com/kPvHrB5xIU
— Keibapedia (@keibapedia) 2018年1月16日
「馬主って儲かるんだな~」と、思う人は多いかもしれないが、こんなに大レースをいくつも勝つ馬なんてそうそう出るものではない。実際、殆どの馬主は赤字で競走馬を所有しているという。
そこで競馬をあまり知らない人に、馬主と、そして北島三郎さんについて少し紹介したい。まず、当たり前だが、馬主は誰でもなれるものではない。馬主には、個人や組合(数人で馬主に)など種類もあるが、“何年も安定して高収入を得ている”など審査をいくつかクリアしなければならず、簡単に言えばお金持ちじゃなければ成れない。
馬を購入するにもお金がかかるし、また馬は生き物だから預けた厩舎へ維持費なども支払い続ける。聞けば、一頭につき毎月60万円ほどかかるそうだ。馬の値段は、数百万円から、良血なら数千万円、高額で2億円以上にもなる。しかも1頭だけじゃない。ところが馬を買ったはいいが、2歳まではレースに出られない、それまではただ維持費を払うだけ。
レースに出なければ賞金は入らないが、その馬に競走能力が認められなければレースに出られない。レースに出す前に死んでしまうこともある。ケガをすれば療養。
レースに出られても上位に入らなければ賞金が入らない。レースに一度も勝てなければ地方競馬へ転厩させるか殺処分される場合もある。つまり、リスクばかりがつきまとう。馬主は、いうなれば金持ちのステータスなのだ。
北島三郎さんが馬主を始めたのは、1963年(昭和38年)から。今年で55年目になるが、G1を初めて勝ったのが3年前の菊花賞でキタサンブラックだった。52年もかかったのだ。
というのも、北島さんは決して大金をはたいて良血馬を買うタイプでない、父がディープインパクトやキングカメハメハといった高額馬は所有していない。いわば地味な馬主である。北島さんと同じタイプの馬主さんは多い。
小・中規模の生産牧場との付き合いを長く大切にしながら馬主を続けてきた。毎年多くても10頭に満たない馬を購入していて、今年2018年初めの時点で現役馬は9頭。
2017年はJRAで69レースに馬が出走し、勝利は7と決して多くないが、その4勝がキタサンブラックのG1勝利だったため全馬主の獲得賞金ランキングでは12位と好成績だった。ちなみに、JRAのレースで年間二桁勝利したのは、2000年代に入って4度、最高で12勝。馬主の順位はだいたい200~300位である。これでも優秀な方なのだ。
競馬は『血のスポーツ』と言われ血統が重要視される。日本に種牡馬は200頭ほどいて、毎年約7千頭の仔馬が誕生する。毎年優秀な仔を輩出している種馬は種付金が高額で、最高額のディープインパクトは一回4000万円、ちなみに至極安い馬は50万円程度である。そして、生まれた仔馬もそれ以上の金額で取引されることが多いわけだ。
しかし、小・中規模の牧場にはそんな高額な種馬をバンバン付けることは出来ないし、馬主だって数千万円する仔馬をバンバン買える所は少ない。だから牧場は、走りそうな血統を考えて手頃な種馬を牝馬に付け、馬主は安くても活躍しそうな馬を吟味して購入するわけである。
そして時に、とても期待されない血統の馬が活躍するケースもあるわけだ。ご存じの方も多いと思うが、キタサンブラックは決して将来を期待されるほど優れた血統ではなかった。
キタサンブラックの父ブラックタイドは22戦3勝(GⅡ1勝)という目立たぬ成績で、普通なら種馬として残れない馬だった。だが、同じ母から翌年生まれた「弟」が七冠馬となったディープインパクトだったこと、そして父が同じサンデーサイレンスという大種牡馬だったことから、種付け料金が手頃な代替え種牡馬として価値が出て生き残った。つまり、弟様様なのである。
種馬になって、弟のディープインパクトの仔は初年度からGⅠレースを勝つなど活躍が目立ち、今や日本一賞金を獲得する種牡馬になった。一方の兄ブラックタイドは、産駒初年度の2010年産にテイエムイナズマ、2011年度産にマイネルフロストが重賞を勝つ以外は目立った仔が出なかった。とはいえこれでも大したものである。
そんな中、2012年に生まれたのがキタサンブラックだ。生産したヤナガワ牧場に出向いた北島オーナーが、この馬を見て「身体は小さいが目も顔も男前で惚れた」として購入したそうだ。
購入額は公になっていないので推測だが、父がブラックタイドで、母が競走馬としてレースに出走しなかった経緯からして、1千万円もしなかったはず。この馬が15億円以上稼いだのである。とんでもない孝行息子だ。
このような安く購入した馬が大活躍するケースは稀にある。近年では、例えば・・・
【テイエムオペラオー】
1997年のセールで、1050万で買われた。悪い馬場で強く、なぜか出走する日や前日に雨がよく降るという運も持っていた。G1を7勝、18億3518万円を獲得し、キタサンブラックに抜かれるまで歴代1位の賞金王だった。
【モーリス】
2013年のセールで、1050万で買われた。4歳になってからメキメキ頭角を現し、香港を含むG1を6勝、10億円以上を稼いだ。父スクリーンヒーローの初年度産駒で、仔が走るか未知数だったこともある。
【コパノリッキー】
馬主は風水で有名なDr.コパさん。脚元に不安があって買い手がつかなかったこの馬を200万円で購入。4歳のフェブラリーステークス(G1)を16番人気で逃げ切り優勝、一気に素質が開花し、2017年の引退レース東京大賞典(G1)を逃げ切り勝ち、中央・地方で日本競馬史上最多11のG1を手にして引退した。総獲得賞金は9億9514万4千円。
海外では
【テイクオーバーターゲット】オーストラリア
2003年、3歳の時に11万円で買い取られた。気性が荒く膝が悪かったためだ。購入したのはジャニアックという61歳の調教師で、これまで大した活躍馬を出していなかった。馬は去勢、膝を三回手術した。暴れた拍子に頭を30針縫うケガもした。
とんでもないやんちゃ坊主だったが4歳にデビューすると7連勝でG1をも制覇。6歳で挑んだ日本のスプリンターズSは1番人気で勝利。G1を7勝した。豪州ドルで総獲得賞金602万8311ドル、購入額の4300倍を稼いだ。
【トレヴ】フランス
凱旋門賞2013、’14年を2連覇した名牝は、セールに出したが見向きもされず、牧場主でもあったヘッド調教師が290万円で買い戻した。3歳仏オークスを2秒以上速いレコード更新で優勝、これを見たカタール王国のジョアン殿下が約10億5千万でトレード購入した。生涯成績は13戦9勝、G1を5勝した。
【スノーフェアリー】アイルランド
セールに出されるも、買い手がなく生産者が22万5千円を支払って買い戻した。2009年に英デビューし初勝利するまで5戦を要した、ここまでは誰も期待していなかった。が、6戦目の英オークスでなんと優勝。続く愛オークスも優勝し、周囲は腰を抜かした。日本のエリザベス女王杯では驚愕の追い込みを見せて2連覇。4カ国でG1を6勝、5億8700万円獲得した。
―――――――――――
イギリスには、
「一国の宰相になるよりダービー馬のオーナーになる方が難しい」
という言葉がある。
北島三郎さんのように、さほど高額ではない馬でダービーを勝つ夢を見ている馬主がほとんど。
「お金持ち=馬主」という図式は間違いではないが、お金で買えない夢が詰まっているから競馬は面白い。