イギリスを代表する聴覚・音響技術支援企業「Ampetronis」が主催する特別イベント「Audio Technology for the Future」が8月21日、『大阪・関西万博2025』(大阪市此花区夢洲)の英国パビリオン ホスピタリティスイートにて開催された。

同イベントは、聴覚支援技術における最先端の動向が体感できるもの。Bluetooth(R) Low Energy Audio(LEオーディオ)の新機能で、音声を無線で複数の受信機に同時配信できる技術「Auracast(TM)ブロードキャストオーディオ」(以下「Auracast」)について紹介された。

日本のみならず世界的にクローズアップされている、「きこえ」の問題。同イベントでは、世界トップクラスのシェアをもつ補聴器メーカー「GN(本社:デンマーク)」の日本法人「GNヒアリングジャパン株式会社」の代表取締役社長のマーティン・アームストロング氏も「人口の15パーセントがなにかしら、聴覚の問題を抱えています」と説明。難聴に悩む人たちが頼りにするのが、補聴器。しかしアームストロング氏は「環境によっては、補聴器を使う人にとってものすごくうるさいときがあるのです」という。

ただ、「Auracast」はそういった悩みをクリアにしてくれます。私たちにとって「Auracast」はスーパーヒーローなのです」と力を込める。

「Auracast」は、「Auri(TM)」というオーディオ配信システムを通して利用することができる機能。オーディオを送信する機器「トランスミッター」とマイクなどの「オーディオソース」を通信接続し、そこで発信された音や会話などを、人工内耳、補聴器、イヤホンなどの対応デバイスで受信する仕組み。つまり消費者側は、対応デバイスを所持していれば、同機能を備えた公共スペースでそれを活用できる。

対応デバイスの音量、ノイズキャンセリングなどの操作はスマホでおこなう。また「トランスミッター」1台につき2チャンネルとなっているので、たとえば日本語・英語という風に、送信側は適宜、言語を割り当てることができる。

さらにこれまでのBluetooth接続は、たとえば話している相手と聞き手による発信・受信は1対1だったが、同機能は台数の制限がなく、低遅延のオーディオを同時にブロードキャスト(通信)することができる。つまり「1対多」の音声共有が可能に。

今回のイベントでも出席者には同機能性を持った補聴器やヘッドホンが配布され、1人の登壇者のプレゼンテーションやスピーチが大勢の出席者の耳に同時に届けられた。ちなみに配布された補聴器はコンパクトかつ軽量。フィット感もあり、装着感がほとんどなかった。聞こえてくる音声もかなりクリアだ。

そんな「Auracast」の今回のイベントにスピーカーとして登壇したのは、「Ampetronis/Listen Technologies」のエド・ベック氏、「Ampetronis」のジュリアン・ピーターズ氏、世界トップクラスのシェアをもつ補聴器メーカー「GN(本社:デンマーク)」の日本法人「GNヒアリングジャパン株式会社」の代表取締役社長のマーティン・アームストロング氏、Bluetooth SIGのヘンリー・ウォン氏、「Auracast」を内蔵したヘッドホンなどを開発・販売しているソニー株式会社のシニアネットワークテクニカルマネジャーである関正彦氏。

各氏のプレゼンテーションやスピーチは日本語、英語の二言語。スピーカーの会話に合わせて同時通訳がおこなわれ、日本語訳、英語訳が聞こえる設定になった。「Auracast」の大きな特徴である「1対多」「低遅延」を体験することができた。

ピーターズ氏は「高齢化社会によって難聴の問題が深刻になっていく。また、そういった人たちだけではなく、環境によって会話や音が聞こえづらかったり、大学の講義などで聞き取りづらかったりする場合も、「Auracast」は解決の手段になります」と、今後さらに同機能の需要が高まるだろうという。

「Auracast」はそういった多機能性を備えている。同機能が備わったサービス窓口、交通機関、インフォメーション、駅構内、ロビーなどに行けば、自分に合った言語で情報をキャッチできる。ベック氏は「イギリスには「Auracast」を導入した駅があります。交通機関では、列車の運行案内、ホーム変更などのお知らせなどに活用されています」と実例を紹介。

そのように聴力にハンデを持つ人だけではなく、たくさんの人の日常生活もサポートされる。アームストロング氏も「「Auracast」を使うと生活が信じられないくらい変わります」と同機能のポテンシャルがいかに驚異であるかを伝える。

近い将来、世界中で対応デバイスなどが30億台、そして250万ほどのロケーションで同機能が実装される市場予測が出ているそう。一方、日本での「Auracast」の認知はまだまだこれから。ウォン氏が「難聴などに関する教育が重要。そして「Auracast」の認知向上のための働きかけをおこなわなければなりません」と語ると、関氏も「補聴器の習慣の部分から広げていけば。可能性があるのではないか」と普及への課題を口にした。

「Auracast」の一番の目的は、同機能を利用することでさまざまなつながりが生まれたり、改善されたりすること。さらに音や会話が聞き取りやすくなることで、ストレスの軽減など精神面での負担が少なくなったり、認知機能の低下防止に役立ったり、心身の健やかさに結びつく場合もあるという。スピーカーたちもコメントしていたが、そうすることで「誰ひとりとして取り残されない社会」が築かれていくのではないだろうか。

情報提供元: マガジンサミット
記事名:「 聴覚支援技術の最先端を体感。「Audio Technology for the Future」が大阪・関西万博2025にて開催