年々、災害が激化するなかで、国や自治体だけではサポートしきれず、助けられる命も助けられない状況が発生する。そのため、災害有事に向け、国民一人ひとりの”その日”に備える心を育むことこそが重要との想いを同じくする複数の有志団体が集結。共に考える場が9月28日に代官山のT-SITEで「たすかる一歩プロジェクト」として急遽企画され、シンポジウムなどが開催された。

当日は一般社団法人日本プロ野球選手会の加藤氏もかけつけ、社会貢献の一環として防災への取り組みを説明。10月1日に4回目を迎える秋田県大館市で行われる「みんなDE防災」では、当会が取り組むキャッチボールクラシック予選会(キャッチボールの正確さを競う競技)と同時に、参加した野球少年が、クイズや体験を通じてその日の備えを学べるブースを、景品がもらえるスタンプラリー形式で巡回するなどで意識を高める工夫などが話された。

同会は2年前に「選手会ファンド」を設立、現役選手の積極的な協力で集められた選手愛用グッズでオークションを実施。集まった基金は、災害初動に特化した公益財団法人シビックフォースの活動を支援に充てられ、以降、防災クイズの監修などで連携が続いている。

そして同日、代官山の蔦屋書店のメインストリートに展示されたのは自然エネルギーによる移動型発電ユニット N3(エヌキューブ)。ベアリングで知られるNTNの新たな事業として開発された風力、太陽光などの再生可能エネルギーをコンテナに集約した発電ユニットで、災害時には支援物資と共にトラック等で出動。被災地への電力供給を可能とする。

現在は、防災倉庫や水防センター、クーラーなど空調のきいたバス停留所としても活用され、自動販売機もエコな電力で稼働。災害時には電力供給所として活躍する仕組みだ。

電動キックボードを扱う企業等との連携も進み、電源インフラが届かない観光地に設置し、平時は観光案内所、有事は救援ステーションとしての活用も期待される。この日は実際に代官山を訪れた一般客へも携帯電話の充電サービスが行われた。

このN3(エヌキューブ)にはエコトイレモデルもあり、循環式で、いやなにおいが無く、管理の人手も圧縮。特に女性客にとって清潔なトイレは重要であり、設置した観光地ではリピーター需要に貢献。こちらも災害時には移動設置も可能なアイテムだ。

シンポジウムでは一般社団法人日本総合研究所松岡理事長が登壇し、日本の経済を国民の安心安全を軸に再編することを目的に、医療防災産業創成協議会が立ち上がり、議連も発足したことが触れられた。

6月には協議会参加企業とともに道の駅を防災拠点にする実証実験が福島県猪苗代町で行われたが、こちらでもコンテナの有用性に注目。独自に開発したコンテナで実装デモを行った。今後も駐車場も広い道の駅を活用し、コンテナのコスト面での課題に対応するため、平時にも活用にも知恵を絞っていくことがポイントになるそうだ。

続いてNTN株式会社 自然エネルギー商品事業部 事業部長の梅本氏も登壇し、災害時でのN3(エヌキューブ)の実働事例について語った。2019年、大型台風が千葉で大停電をもたらした際には、三重県の研究所から、要請の意思を確認できた鋸南町と富津市に出動。

避難所に置いたところ、周辺には電気も通らず、携帯基地局も機能しないため、住人の携帯の充電・中継場所として大変喜ばれたという。またコンテナ内部にはテレビもあり、情報収集にも役立ったそうで、このような場所ができたことを防災放送で知った多くの人の集会所となり「明日もここで会おう」と約束しあったり、来ない人への安否確認もするようになるなどのコミュニティが生まれたことが「たすかる一歩」に繋がると教えてくれた。

東日本大震災や北海道胆振東部地震で国としての支援チームを統括した経験を持つ、元経済産業省 元中小企業庁長官の前田氏は“1人が助かると、その人が誰かを助けられるなど余力が生まれる。そのため自分たちで「たすかる一歩」が大切だ”と語る。また、都会の災害は報道されるが、地方の災害についてはあまり大きく報道されないため、知らない人も多い。そして知っても忘れられていくため、忘却が1番怖いことだと話した。

いつどこで起きるかわからない災害だからこそ、忘れずに、私たち自身がしっかり備えておくことが大切だと改めて感じたシンポジウムとなった。

情報提供元: マガジンサミット
記事名:「 自分たちで災害に備える力を!「たすかる一歩」に向けた”その日”に備える心を育むシンポジウム開催