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1990~2000年代は、産業技術の革新やIT化で世界経済の枠組が大きく変わった時期。パソコンが普及しオープンで効率化を重視する時代が到来した。eビジネスが注目されIT化の夢が広がった時期であり、ノートパソコンが1台40~50万台くらいだった。
西村「この時期、企業と経済が成長するには2つの道があった。1つは新市場の創出。市場の動向や反応をみながら矢継ぎ早に変更・改革しながら提案していく。新市場は付随する新たな市場をつくりだすため消費は拡大し物価は上がりがちになる。2つめは生産の絶え間ない効率化。消費者は高い価格をいつまでも支払わない。価格競争がはじまり物価は下がりがちになる」
日本は新市場を生み出すのも生産効率もうまかった。しかし、IT化を見越した経済的な構造転換が必要だった時期に、バブル崩壊後の金融危機にさらされ、リスクを回避し現状維持の守る傾向にあり波に乗り遅れてしまった。また、モノつくりの強みをもっていたが、安易な効率化(価格破壊)が定着。高くても買いたくなるような商品は、海外の輸入に頼るようになった。「これが現在まで続いている」と西村氏は指摘する。
やがて2000年代に入りインターネット金融が誕生することになるが、実店舗をもたない・ペーパーレスといった効率化の側面が強く、ITによる画期的なサービスを生み出すまでには至らず、大きな変革はスマホというデバイスの登場を待つことになる。
2008年にモバイルバンクとして設立された「auじぶん銀行」は、生活に浸透しはじめたスマホに特化したサービスとして新たな顧客獲得や新サービスの金融体験を提供。現在、ネットで完結するローンやフィンテックなどを取り入れたサービスへと発展している。
しかし、金融サービスのIT化が進み便利になる一方で、日本では資産をもっている高齢者層のICTスキルの低さが問題になっており、さらに西村氏は「欧米に比べ、お金に対する意識が低い人が多いのも国民性。投資への意識が低く金融資産の55%近くは預貯金で構成されている」と、国民の金融への意識改革が急務だと指摘する。
これらの課題に対し「auじぶん銀行」では、元プロ野球選手をゲストにむかえた資産運用のWEBセミナーや、子供の頃から金融に関しての正しい知識を得る機会として、臼井氏自ら学校などを訪問し「お金の授業」を実地しているという。
臼井「日本ではお金の話をすると品がないと思われ、正面からむかいあわないところがあるが、実際に話すと目を輝かせて聞いている子供さんが多い。また、プロ野球選手は現役を引退した後が長く人生設計に漠然とした不安を抱えている。金融について、知りたいが知る場がすくないのが現状だと思う」
西村「例えば、バブル期に39,000円だった株価は30年後には23,000円に下落している。ピーク時に100万円の株式もっていると39万円の含み損をかかえることになり資産形成どころか破壊してしまう。一方、毎年、こつこつと買い続けていると、累計で30年後に約100万になったとき約60万の含み利益になる。しかし、実際、このような売り買いのタイミングは難しく、これを手助けてしてくれるアドバイザーが必要になってくる。銀行が身近な存在になるためにも、臼井社長のような活動がおおきな広がりをもってくれるといい」
さらに西村氏は「auじぶん銀行」が提供しているWEB動画「金融昔ばなし」を例にあげ、「あつまれどうぶつの森」のような人気ゲームのようになっていくと、金融についての意識を変えるきっかけになると提案した。
写真)元日本銀行副総裁/政策研究大学院大学特別教授、東京大学大学院経済学研究科名誉教授 西村 淸彦氏
若者への金融教育にくわえ、高齢者のIT知識と金融知識の再教育など、それぞれの世代にあった情報提供が求められているわけだが、共通しているのが“分かりやすさ”だ。
臼井氏が「当行のスマホアプリは幅広い世代に受け入れやすく、誰にでも操作できるようなデザインを取り入れており、60~70代のお客様には受け入れられつつある。誰ひとり取り残されないようなサービスと使いやすさを目指している」と話すと、西村氏は「使いやすは大切」としたうえで、今後、金融機関に求められる3つの情報と課題を挙げた。
1 子供からシニア層までその世代にフィットする金融サービスの情報提供
2 情報弱者であるユーザー目線にあわせたサービス展開
3 投資家の新しい「気づき」、投資家のSDGs目線を引き上げる啓蒙
特に2の項目について、「買い手はサービスの不利な点をよく知っておく必要がある。提供する側は不利な点も有利な点も良く分かっているが、形式的な規制へのコンプライアンス説明のみになってしまいがちだ。情報×金融の適切な組み合わせが必要」と話す。
また、資産運用時は「将来、何をしたいのか?」といった新しい気づきが生まれることが大切とし「実は、自分が何を求めているか気が付いていないお客様は多い」と指摘。
さらに3の項目に関して「投資は安心・安全・確実が理想だが、価値が変動するのなかで利益だけを確保するのは無理だ。たんなる資産形成にとどまらず、何を目的に投資するか“納得する”ことこそが新しい価値観ではないか?」と提案。これからは、資産を増やす以外に「投資することで他人が傷ついていないか“社会貢献”という考え方も必要」と話した。
写真)臼井 朋貴 auじぶん銀行株式会社 代表取締役社長
さて、今後「auじぶん銀行」は、どのようなカタチで価値観を高めていくのだろうか。
今年8月には、KDDIの「スマートマネー構想」の一環として、スマホ決済の「au PAY」、クレジットカードの「au PAYカード」、証券の「auカブコム証券」を、「auじぶん銀行」の口座と連携させることで、「auじぶん銀行」の通常金利のみの利用と比較すると、金利が200倍になるサービス「auまとめて金利優遇」を開始。グループ内のサービスもシームレスに利用できる。
臼井「モバイルバンクは低コストでメガバンクに対応してきたが、これからの競争者は銀行や金融機関だけでない。20~30年成長していくためにはグループ内の強化はもちろん、市場の変化に柔軟に対応し、発想の転換や今までにないサービスを提供していかなければいけない」
西村「アライアンスというのは重要。多様な事業所との提携によるサービスにより産業を横断することが発展に大切だ。必要なのは、効率化と高付加価値の二正面作戦。過去20年できなかったことを、今後20年で推し進めていかなければいけない。それによって日本経済の立て直しが実現するだろう」
さらに西村氏が、「金融は、より個人にふさわしい供給競争へと変化していく」と予測すると、臼井氏は「事業者ではなく、お客様がサービスを選ぶ時代になる。お客様、ひとりひとりの意見を聞き、当行のスローガンである「銀行を連れて生きていこう」を体現していきたい」と応じ西村氏は、「これにより「auじぶん銀行」のお客様目線とSDGsが一体となった素晴らしいシナジーが生まれるはずだ」と期待。トークセッションを締めくくった。