10人の男女が大金を手に入れるため、世界を股にかけて前代未聞のミッションに身を投じていく姿を描く映画『キャンドルスティック』が公開になります。

ワールドワイドな規模で展開する本作では、騙し騙され、金が回る世界の縮図を、川村徹彦による『損切り:FXシミュレーション・サクセス・ストーリー』(パブラボ刊)を元に映像化。

主演の阿部寛をはじめ、菜々緒、津田健次郎といった日本を代表する実力派の豪華俳優陣に加え、台湾を代表するアリッサ・チア、リン・ボーホンやイラン出身のサヘル・ローズなど国際色豊かなキャストが、スリルと策略が交錯する“コンゲーム”で観る者をスクリーンに引き込みます。

本作が長編映画初監督作となった米倉強太さんにお話を聞きました。

――今回の『キャンドルスティック』ですが、まず監督をされるにあたってどのような点に面白みを感じたのか教えてください。

まず、この映画のテーマである「FX(外国為替取引)」と「AI」は、日常生活であまり意識されることのない世界ですが、実はとても面白い要素が詰まっていると感じました。僕自身、為替相場が世界情勢や政治動向にどう影響を受けているのか、あまり考えたことがなかったんです。

でも調べていくと、主婦たちが平日の午後にFX取引を活発に行っていた時期があって、その動きが世界の相場に影響を与えていたという事実を知ったんです。すごく身近な存在でありながら、世界を動かしているというスケールの大きさに驚きました。

この小さなパソコンの画面の中での操作が、実際に世界経済に影響を及ぼしているという事実に、僕は強いロマンを感じたんです。実際、この映画の登場人物たちも、基本的に誰かを直接助けるわけではなく、ずっとパソコンに向かって作業をしていて、それがやがて1日770兆円が動く為替市場に影響を与えていく。そういう構造にとても魅力を感じました。

――為替相場にAIが絡む点も面白いですよね。

現在実際に、為替の監視や分析にはAIが使われています。AIにネガティブなニュースを意図的に与え続けたら、もしかしたらそれをAIが「本当」だと認識し、相場に影響を及ぼす可能性もある——そういった想像の余地があるところにも惹かれました。

また、FXそのものも、実は日本の個人投資家が広めたという説もあるくらいで、意外と日本が深く関わっている分野なんですよね。そうした「堅そうに見えるけど、実はロマンのある世界」に魅力を感じました。

――登場人物のセリフにも「センチメンタル」など、感情を匂わせる言葉が出てきますね。

そうですね。あとは、たとえば阿部さん演じる野原というキャラクターに「マウスの右クリックを開発した日本人プログラマー」説を取り入れて描いています。これも実際にネット上で囁かれている噂で、こうしたデジタル業界の細かなネタも作品中にちりばめています。そういう面白さを見つけてもらえると嬉しいですね。

――もともとFXやAIに関心があったのですか?

全くありませんでした(笑)。この映画をつくるにあたって初めて深く調べて、「ああ、こういう面白さがあるんだ」と知った感じです。それで「映画になる!」と確信しました。

――為替相場やAIをそれぞれをモチーフにした映画はこれまでにもありましたが、組み合わさった“コンゲーム”が面白いですね。

そうですね。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のような作品もありますが、あれは実話ベースで、結末が既に知られているものですよね。今回の作品は完全なフィクションなので、ひとつひとつの描写で観客を納得させていかないといけなかった。その意味でも、FXを知らない人が観ても楽しめて、最後に「ちょっと詳しくなった気がする」と思えることがすごく大事だと思いました。

――そして、台湾やイランなど海外での撮影もありましたが、演出面で意識したことは?

各国での撮影が2か月ほど空いていたりしたので、映画としての「共通性」を保つことはとても重要でした。日本編が終わってから台湾、さらにイランと続く中で、その軸がぶれないように、ずっと意識していました。

特に意識したのは「感情の出し方」です。キャラクターたちはみな、感情を表に出さず、静かにパソコンに向かっている。その裏で葛藤やドラマがあるけれど、それを爆発させるのではなく、内に秘めている。その緊張感こそが、ハッカーやトレーダーとしての資質だと思って演出しました。

たとえば菜々緒さん演じる新米FXトレーダーの杏子は、「数字を色で感じる共感覚を持っている 」「人の目が見られない」「視線恐怖症」といった設定を持たせています。だからこそ、ネット上で力を発揮する、という描き方をしています。日常生活では生きづらさを抱えているけれど、デジタル世界では自分を自由に表現できる。そういう人間像にリアリティを持たせました。

――その点、ヒロイックなイメージがあるみなさんが、いつもと違う一面を見せている様子も新鮮でした。

阿部さんや菜々緒さん、津田健次郎さんといった、カッコよく饒舌なイメージのある方々が、あえて感情を抑えた演技をしてくださった。そのギャップも面白いポイントだと思います。

――阿部さんとのやりとりについて、印象的なことがあったそうですね。

はい。阿部さんは僕にたくさん質問をしてくださいました。僕自身、迷っているところを見せないようにしていたつもりだったんですが、全部見抜かれていましたね(笑)。でも、それがありがたかったです。ご自身の役以外にも提案をくださったりして、本当に安心感がありました。言葉数は少ない方ですが、気を使わせないようにしてくださっていたのを感じていました。

――映画監督という仕事にはもともと興味があったのでしょうか?

映像の仕事を選んだ時から、いつか長編映画はやりたいと思っていました。今回が初めての長編だったので大変でしたが、2時間という長さの中で「共通性」を保ちつつ、物語を組み立てていく作業はとても楽しかったです。

これまで自分がやっていたのは15秒、30秒、長くても5分という世界だったので、2時間という枠で集中力を維持させる表現というのは、まったく違うチャレンジでした。

――今日はありがとうございました!

■公式サイト:https://candlestick.jp/ [リンク]

■ストーリー

刑務所を出所した元天才ハッカー・野原は、自分と同じく数字に色がついて見える“共感覚”を持つ女性・杏子と出会い、恋に落ちる。
台湾の野心的な企業家、リンネはFX市場を利用し一儲けするため、野原とかつての仲間たちに声をかける。
その作戦は金融取引の番人、「AIを騙す」こと。
決行日は元号が変わり、金融機関のシステムが一番油断して混乱する、円が最も隙だらけの日-2019年5月7日。
一方、川崎工業地帯では難民・移民の子のための「夜光ハウス」が立ち退き寸前の危機に陥っていた。
施設を守るファラーとイランのハッカー・アバンは返済のためのある計画を練る。
これはねじれた偶然か?2つの計画の日時は奇しくも一致していたのだ。

7月4日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
(C) 2025CANDLESTICK PARTNERS

(執筆者: ときたたかし)

情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 阿部寛主演、映画『キャンドルスティック』米倉強太監督インタビュー「阿部さんや菜々緒さん、津田健次郎さん、普段はカッコいい方たちのギャップにも注目です」