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北海道の小さな町の自然を背景に、息子を失った父親と、夫を亡くした妻、そして自閉症の娘が織りなす、失われた家族の再生の物語『美晴に傘を』がYEBISU GARDEN CINEMA ほかにて全国公開中です。『底なし子の大冒険』『狼少年タチバナ』などで知られる劇団牧羊犬を主宰し、短編映画では国内外の数々の賞を受賞してきた渋谷悠の初長編作品。家族の再生という、映画では幾度となく語られてきたテーマを新鮮な物語へと昇華させ、魅力的な登場人物たちが観る者を心地よく包み込みます。
聴覚過敏によって聴こえてくる様々な音を擬音語に変えられる才能を持つ美晴役には『麻希のいる世界』主演の日髙麻鈴さん。作品を観た方からは「美晴を演じた日髙さんの演技がすごい。心が弱ってしまっている人に見てほしい」「とんでもない役者さん!」「ひとつひとつの表情を絶妙に演じていた」と絶賛の声が相次いでいます。
日髙さんに撮影の思い出や役作りで意識したことなどお話を伺いました。
――本作とても素晴らしかったです。美晴役はオーディションだったそうですね。監督とは美晴というキャラクターについてどんなお話をしたのでしょうか。
オーディションの段階ではどういうお話か分からなかったのでドキドキしていたのですが美晴役をいただいてから脚本を読んで、物語の全容が見えたときに感情があふれました。とても難しい役柄ではあったのですが、この作品の一部に自分がなれることも嬉しかったですし、不安もありながら楽しもうという二つの気持ちで撮影に臨みました。
具体的な役作りについては自由にやらせていただいたので、楽しみながら美晴を作っていきました。監督とは美晴の心情についてお話したり、重要なポイントとして、美晴は聞いた音を擬音語に変える能力があって、その擬音語を大切にして欲しいということを言われました。
――自閉症の役柄ということで、リサーチや本を読んで勉強をしたことなどはありますか?
オーディションを受けるにあたって、色々な資料や映画を見て自分なりに情報収集をしていったんですが、自閉症、聴覚過敏と一言で言ってもそれぞれに個性があって。一つの事例やどなたかを参考にするようなことはあまり考えずに、自分の中での美晴像を作り上げてオーディションに挑みました。それを認めていただけたのか、合格したと聞いた時は本当に嬉しかったです。
――日髙さんは美晴という人物にどの様な魅力を感じましたか?
美晴の性格と自分の性格はとても似ているなと思う部分が多くて。美晴はつらいことがあると、夢の世界に逃げ込みます。その夢の世界には傘売りがいて、傘をもらうことで自分の心身を守るというのが美晴の拠り所になっているのですが、私は、曲を書いたり、物語を作ったりすることが心の拠り所で、何かつらいことがあったら、その感情を創作に向けるということを普段からしていたので、共感できたんです。
「ありのままを受け入れる」という美晴の姿は、すごく教わった部分で、一般的に社会で生きるのには難しい、困難がある役柄だと思うのですが、その中で自分の持っている世界を通じて自立しようとする心の強さがあるんですよね。
私は20歳という節目を迎える1歩手前で、この撮影期間を過ごして得たものがたくさんあります。その時、20歳を迎えるということが、すごく不安で怖かったんですよ。自分の身を守ってくれる親のそばから離れたり、一人の大人になることへの不安がものすごくあったのですが、美晴も同じ様な不安を抱えていて、その心情が自分の心情とマッチしました。「自立することはどういうことなのか」と教わったような気がしています。
――そんな共感出来る素敵な役柄に出会って、ご家族や周りの方も喜ばれたのではないでしょうか。
すごくピッタリな役だね、とお母さんも言ってくれて、昔一緒に暮らしていた親族に自閉症の方がいたので、そのこともあって家族はすごく喜んでくれました。
――きっとご家族も映画をご覧になってくださりますね。升さんと、田中さんという俳優の先輩とご一緒していかがでしたか?
お二人とも本当に優しくて、いつも温かく見守ってくださる先輩でした。撮影期間中、具体的にお芝居の話をすることはほとんどなかったのですが、今まで美晴は周りに支えられて生きてきたという背景があるので、升さんと田中さんはカメラが回っていないときでも美晴に寄り添って接してくださって。とても温かい空気を作ってくださったので、美晴に入り込みやすくなりましたし、大先輩のお二人の存在があってこその美晴でした。妹役の凛ちゃんと、おしゃべりしたり、休憩時間に遊んでいたのですが、本当の家族の様に見守ってくれていたので、そういった温かい空気がお芝居に全部出ているのではないかと思っています。
――渋谷監督は、劇団牧羊犬を主宰していたり、短編映画が国内外で評価されている監督さんですが、作品作りを通してどの様なコミュニケーションをとりましたか?
監督は常に画面を通して世界を見ている方だなと思いました。私も、世に出してはいないのですが、物語を作ったりだとか、創作することがものすごく好きなので、監督の行動やディレクションを見て、なるほどと勉強になることも多くて、撮影期間中すごく楽しかったです。
――私は日髙さんが主演されている『麻希のいる世界』(2022)がすごく好きで、強く印象に残っている作品なんです。麻希も攻めた役で、複雑な背景や心情を抱えているキャラクターを演じられる日髙さんって本当にすごいなと、いち観客としても感動しています。
ありがとうございます!嬉しいです。プライベートでもそうなんですが、自分がこう一般的に言う普通の性格ではないなという自覚はすごく持っていて(笑)。好き嫌いもハッキリしているし、自由な校風の学校でずっと育ってきたということもあって、お芝居でも個性豊かなキャラクターを演じることがものすごく楽しいです。自分で言うのもあれですが、私には色々な一面もあるし、それを反映できる役柄を演じることが自分に合っているなと感じています。
――本作もそうですし、今後もどんどん色々な役柄をやられるんだろうなと楽しみにしています。『麻希のいる世界』などでご一緒している新谷ゆづみさんも、いつも個性的で素敵な役柄を演じていますよね。
ゆづみと会う時はお仕事の話って全然しなくて、いつも女子トークなんですが(笑)、「さくら学院」に所属していた時代から切磋琢磨しながら二人三脚みたいな感じで歩んできました。お仕事もプライベートも全部含めて、一緒にいた時間がすごく長かったので。
私もゆづみも、昔から応援してくださるファンの方々が多くて、成長を温かく見守ってくれている、本当に父兄さん(さくら学院ファンの総称)の様な存在です。感謝の気持ちは一言では表しきれないのですが、応援してくださってる皆さんに、色々な作品で恩返しできる様に頑張ります。
――素晴らしいお言葉をありがとうございます。本作も長年多くの方に愛される作品だと思います。
日本ではもちろん海外の方にも通じる様な普遍性のある作品になっていると思うので、どんどん広がっていってくれたら嬉しいです。ロケーションも美しいですし、映像も絵本みたいにほんわか温かくて、ファンタジーな要素もあって、視覚的にも楽しめます。
「言葉」が大切な要素になっていて、登場人物が放つ言葉、その言葉で傷ついたり癒されたりという人間模様が繊細に描かれています。美晴の擬音語、善次の放つ言葉など、どれも魂がこもっていますし、様々な角度で楽しんでいただけたら嬉しいです。
――今日は素敵なお話をどうもありがとうございました!
撮影:たむらとも
『美晴に傘を』
■Story
北の小さな町の漁師である善次(升毅)は、喧嘩別れをしてから一度も会っていない息子の光雄(和田聰宏)をがんで亡くす。東京で執り行われた葬儀にも出席せず四十九日を迎えようとしていたところに、光雄の妻の透子(田中美里)が娘の美晴(日髙麻鈴)と凛(宮本凜音)を連れて、善次の元を訪ねてくる。善次は、突然の訪問に戸惑い、うまく接することができないが、彼女たちを通して亡き息子に想いを馳せる。透子は、聴覚過敏を持つ自閉症の美晴を守るのに必死だ。「もう自分しかいない」という決意は、夫である光雄が亡くなってから更に強まっている。美晴は、守られてきた世界から一歩でも外に踏み出したいと願うものの、失敗したり不安を感じると、布団を被り夢の中に逃げ込む。そこは、父の光雄が生前病床で書いた『美晴に傘を』という絵本の世界であった。やがて、小さな町の人々との交流も手伝い、善次、透子、美晴は、自分自身の内なる声に耳を傾け始める。
升 毅 田中美里 日髙麻鈴
和田聰宏 宮本凜音 上原剛史 井上薫 阿南健治
脚本・監督 渋谷 悠
プロデューサー 大川祥吾 渋谷真樹子
撮影監督・共同プロデューサー 早坂 伸 助監督 西 貴人
照明 オカザキタカユキ 録音 寒川聖美 ヘアメイク 岩鎌智美 原 早織(Kleuren)
音響効果 吉方淳二 編集 小堀由起子 音楽 土井あかね
制作プロダクション アイスクライム キアロスクーロ撮影事務所
配給 ギグリーボックス
公式HP: http://miharu-movie.com/
公式SNS : @miharunikasawo