共演歴の多い俳優の清水尋也さんと高杉真宙さん、そして伊藤万理華さんがヒロイン・紅花役で参加した映画『オアシス』が公開となります。裏社会に生きながら絶望と一瞬の幸福を味わうリアルな若者の姿を描くバイオレンス青春映画です。

監督はこれまで三宅唱、山戸結希、岸善幸などの監督作において助監督として参加してきた岩屋拓郎。自ら手掛けたオリジナルストーリーが映画企画コンペでの新人賞受賞を経て、過去作で組みプライベートでも交流があった清水さんに熱いオファーを送ったことで実現しました。

長編作品デビューの岩屋監督、伊藤万理華さんにお話をうかがいました。

●4年越しの公開となりましたが、今の心境はいかがですか?

岩屋監督:尋也に本を見せてからだいたい4年になるので、本当に公開するんだという感じです。うれしいです。自分の子どもが世に出ていくみたいなソワソワ感もありますね。

伊藤:岩屋監督の最初の長編に関わらせていただけて貴重な経験になりました。感謝の想いでいっぱいです。

●ご自身のルーツを映画化しようとしたされた理由は何でしょうか?

岩屋監督:ルーツと言っても実体験ではなくて、実は最初もっと明るい感じというか、『パルプ・フィクション』みたいなアッパーな感じだったんですよ。元々の脚本はあったのですが、その原型はもうなくて。

なのでこの『オアシス』を作りたかったきっかけはかなり前のことなのですが、この形に辿り着いた一番の大きなきっかけは、名古屋で撮ると決まった時にこの形が見えたんです。名古屋ならいろいろな課題をスッと落とし込めそうな感じがしました。

というのも名古屋で撮ると決まった時に、結局のところ物語は自分の中からしか出て来ないなとなって。名古屋で過ごしていた頃の、悶々としていたあの頃、何者でもなかった当時の想いですよね。俺はどうなっていくのかというものをこの作品に投影したいなと思ったんです。同時にそのタイミングで自分を見つめ直した感じもありましたね。

●なるほどテーマとなっている居場所について実体験を踏まえたと。

岩屋:ただ、狙って書いてはいなくて、振り返るとそうだなという。書いていて読み直すと、あの頃のそういうものが出ているなと思いました。

●伊藤さんはヒロインの紅花役をどのように作り上げたのでしょうか?

伊藤:クランクイン前に名古屋のロケ地も含めて監督ご自身のルーツを一緒に歩かせていただいたのですが、そこで岩屋監督がどういう経緯で『オアシス』を作ることになったのか、実際に暮らしていた街での思い出などを聞きながら監督の想いを知ることができました。わたしが演じる紅花が名古屋にずっと住んでいる女の子だったので、演じるうえで非常に助けになりました。

おかげで「一緒に作り上げましょう」という想いが伝わりましたし、紅花のキャラクターシートや説明ももちろん事前に聞いていたのですが、撮影中はわたしの感覚に委ねてくださっていたので、そのままお芝居していいのかなと不安になるくらいでした。

岩屋監督:あの頃、本当に悶々としていました。何者でもない、ただ映画が好きなだけで。いろいろやっていたんですよ。自動車会社に勤めたり、でも映画は作りたいと漠然と思っていた。

伊藤:それがこの物語になることがすごいです。今のお話を聞いてもルーツが入っていることが伝わりますし、鬱屈した何かを自分が作るもので全部爆発させる感じ。夢、やりたいことをつめこんでアクションも含め、映画だから出来る表現がたくさんありました。男性の友情にあこがれるものがあります。素敵だなと思いました。

●主演おふたりとの伊藤さんとの3人の関係性で言うと、紅花という役としての関係性に近いものがあったのではないですか?

伊藤:3人の関係性で言うと、演じた紅花から見て一緒にいると懐かしく居心地がいいと感じているんです。紅花にとってはひとつのつながりになるから。そういうことをわたし自身も現場で感じられました。一緒になってアクションをしたい、血を浴びたいということじゃないけど(笑)、主演ふたりの元々の関係性があったので、リアルな自分と紅花としての距離感が重なっていたため、居心地がよかったのだと思います。

岩屋監督:伊藤さんは自分の演出の予想を超えた言葉の間などが出てきて、それを見たり聞いたりしていることがとても楽しかったんです。予想外でしたし、伊藤さんにしかないものをずっと見ていられました。どんな表情をするのか毎回ファーストテイクが楽しみでした。それがゆえに委ねていたと思います。僕がヘンに演出するべきでないと初日に思いました。

●映画を待っている方には何を伝えたいでしょうか?

伊藤:完成した作品を観た時に守りたい世界があると思いました。自分は何者でもないからこそ、あこがれてしまったり、力任せに何かをやってしまったとしても、それ以上に大切にしたいものがあると素直に感じ取りました。R15でバイオレンスもありますが、3人の関係性、ノスタルジックな感じ、この世界の空気感を感じ取ってほしいなと思います。

岩屋監督:あの時に撮ったものが映っていて言葉に出来ない熱みたいなもの、心が宿っている作品です。僕だけでなくみんなのもので、居場所で言うとどの環境にも当てはまるものだと思うんです。これは闇社会の架空の話ですが、女子高生、サラリーマン、おじいちゃんおばあちゃんでも抱えているものだと思う。この映画が今悩んでいる人、若い時に感じていた人にとって、もっと簡単に救いになってくれたらいいなとは思っています。

■ストーリー

青春時代を共に過ごした、幼馴染の富井(清水尋也)と金森(高杉真宙)。

数年前の“ある事件”をきっかけに、富井は街を牛耳る菅原組の組員となり、今や組長(小木茂光)や兄貴分の若杉(窪塚俊介)からも認められる存在になっていた。一方の金森は木村(松浦慎一郎)率いる犯罪組織のメンバーとして、身寄りのない若者や外国人移民者をまとめるリーダー的存在となっていた。

このように、気が付けば一触即発の敵対関係になっていた2人だったが、ある日、彼らの前にもう一人の幼馴染・紅花(伊藤万理華)が現れる。幼い頃から2人の心の拠りどころでもあった彼女は、“ある事件”によるトラウマ以来、記憶障害になり、長いあいだ施設に入っていたのだ。

素行が悪く、悪名高いことでも知られる組長の一人息子・タケル(青柳翔)によって発見された紅花だったが、タケルこそが“ある事件”の当事者。紅花の目の前で、自分の女だった彼女の母親を殺害していたのである。

その後、紅花は自分を襲おうとしたタケルを誤って殺害してしまい、その場に居合わせた富井、金森とともに逃亡することに。菅原組幹部・犬咲(津田寛治)ら、組織に追われる逃避行の中、3人は過去を振り返り、まるで数年間の封印が解けたかのように距離を縮めていく。

果たして、彼ら3人にとっての“本当の居場所=オアシス”は見つかるのだろうか—。

タイトル :『オアシス』
公開表記:2024年11月新宿武蔵野館ほか全国公開
配給 :SPOTTED PRODUCTIONS
コピーライト:©2024『オアシス』製作委員会

(執筆者: ときたたかし)

情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 映画『オアシス』岩屋拓郎監督・伊藤万理華インタビュー「悶々としていたあの頃、何者でもなかった当時の想い」