「仁義なき戦い」シリーズや「日本侠客伝」シリーズを手がけた伝説の脚本家・笠原和夫が1964年に 執筆した幻のプロットが、『孤狼の血』や『死刑にいたる病』、『彼女がその名を知らない鳥たち』などで知られる白石和彌監督の手で映画『十一人の賊軍』として蘇った。舞台は1868年、15代将軍・徳川慶喜を擁する旧幕府軍と薩摩藩・長州藩を中心とする新政府軍=官軍が争った戌辰戦争の最中。新発⽥藩(現在の新潟県新発⽥市)で繰り広げられた奥⽻越列藩同盟軍への裏切り=旧幕府軍への裏切りのエピソードをもとに、捕らえられていた11 ⼈の罪⼈たちが「決死隊」として砦を守る任に就く──。

妻を寝取られた怒りから新発田藩士を殺害し罪人となり、砦を守り抜けば無罪放免という条件のもとの条件で決死隊として戦場に駆り出される駕籠屋の男・政役を演じるのは山田孝之。新発田の地を守るために罪人たちと共に戦場に身を置く剣術道場の道場主・鷲尾兵士郎を演じるのは仲野太賀。日本の映画界に欠かせない名優ふたりを中心に繰り広げられるのは、死と隣合わせの戦場での壮絶な集団抗争劇だ。山田と仲野に聞いた。

──山田さんは『十一人の賊軍』で白石監督と『凶悪』以来11年ぶりにご一緒されましたが、オファーを受けた時どう思いましたか?

山田:やっぱり過去に仕事した監督からまたオファーをいただけるのはとても嬉しいです。過去にも別の企画でお話をいただいたこともあったんですが、そのときは実現しなくて。今回、太賀と一緒ということも楽しみでした。実は話をいただいた時点で、「太賀はどういう感触なんですか?」って探ったんですよね。そこで「やる方向みたいです」って言われたので、「じゃあやります」とお答えしました。

仲野:それは嬉しいですね。

山田:キャスティングってスケジュールやタイミングに左右されるところもあるので。もし太賀が出られなくなった場合、代わりが誰になるかはわからない。そこで僕俺の気持ちがハマるかがわからなかったので探りました。

──山田さんは今作の撮影のためにお休みを返上されたと聞きました。

山田:そうかもしれませんが、休みはずっと返上してます(笑)。もうお腹いっぱいなので、作品は1~2年に1本ぐらいでいいぐらいだとは思ってます。

──山田さん主演の『十一人の賊軍』を拝見できてよかったです(笑)。

山田:休ませてください(笑)。

──『凶悪』のとき、白石監督にはどんな印象を持ちましたか?

山田:『凶悪』は辛い記憶しかないですね(笑)。しかも今回も脚本を読むと爆破シーンの連続でした。人間扱いされない役でもあるので、心身共に苦しい撮影になるだろうなと覚悟していました。実際に度が過ぎる現場でしたが、やりがいはありました。

──仲野さんは白石監督と初めてご一緒することになってどう思いましたか?

仲野:いつかご一緒してみたいと思っていたので、お話をいただけたことがすごく嬉しかったです。蓋を開けてみたら孝之さんとダブル主演で「こんなことあるんだ」って思いました。孝之さんには何度も伝えていますが、僕は小学生の時にドラマ『WATER BOYS』に出ている孝之さんに憧れてこの世界に入りたいと思ったんです。これまで何度もご一緒させていただいたことはありますが、ダブル主演はとても感慨深かったです。あと、白石監督と孝之さんと言えば映画『凶悪』の印象も強くて、そのおふたりとご一緒できるのでとても興奮しました。ただ、僕が演じる鷲尾兵士郎は剣術の達人なので、殺陣の経験がほぼない自分が説得力を持って演じられるかが心配でした。

──稽古の期間は長かったんですか?

仲野:半年ぐらいありましたね。稽古の初日に木刀を振ったところを白石監督が見て、あまりの下手さに「ヤバいぞ」みたいな顔をされていて(笑)、「本当に頑張らないとな」って思いました。アクション部の方々のおかげでなんとか乗り切ることができてほっとしてます。

──特に印象に残っているシーンというと?

仲野:大きな装置で風を吹かしながら雨を降らすシーンです。雨降らしのシーンは一発本番でワンカットだけ撮ることが多いんですが、今回は長いシーンだったので何日もかけて撮影をし、全身濡れ続けたこともあり過酷を極めました。

山田:僕は石油をかぶるシーンで絵具と墨汁を混ぜたような匂いのする液体をかぶったんですが、すごく臭かったんです。あと、僕の衣装はマットを切ったものを羽織って下がふんどしのみだったんですが、そのマット重くて臭くて、撮影が8月だったので暑くてかゆくて、本当に人として扱われていない感覚になりました(笑)。

──そもそも笠原さんの原案を、白石さんが映像化したいというところから始まった企画です。このような集団抗争時代劇に参加してみてどうでしたか?

山田:いつもその役として演じてるので時代はあまり気にしないです。身に着けるものや言葉使いの違いは生じますが、起きていることは結局いつの時代も変わらないところがある。力を持っている人たちが国をよくするために動く、それに伴って使われる人たちがいる。生きることの美しさと醜さ、そして生きることに執着する姿を見せる作品だと思ったので、政としてはとにかく妻の元に帰ることだけが正義なんだという気持ちで演じていました。

仲野:中学生の頃に孝之さんが出演されていた映画『十三人の刺客』にハマって、大人になってからも黒沢明監督の映画や岡本喜八監督の映画や『仁義なき戦い』を見て、集団抗争時代劇の泥臭さや熱量を感じて、自分もいつか挑戦してみたいと思っていたので、今作の出演はそういう意味でもとても嬉しかったです。実際に参加してみると、孝之さんがおっしゃったように、現代劇ではなかなか経験できない、過酷さや気持ちの振れ幅を感じました。斬ることも斬られることも実際には体験していませんが、世界を見渡すと今も紛争は起きているので、決して遠すぎる世界ではないと思いましたね。

──政と兵士郎が泥まみれになって戦う中でどんどん表情が際立っていったのが印象に残りました。役として特に意識したことがあれば教えてください。

山田:僕はやはり助け合うっていうことよりは、まず自分が生き残って帰らないことには妻を守れないっていう、それだけですよね。「汚い」とか「裏切りだ」と言われようが、一番大事な人を裏切ることはできない。社会や会社の中でいろいろなことがあるかもしれないけれど、「まず自分の家庭すら守れないってどうなの?」っていうことですよね。

仲野:兵士郎は物語の始まりと終わりでは目的立ち回りが180度くらい変わるんですよね。紛争抗争が続く中で兵士郎が信じているものが揺らいでいく彼の気持ちの移ろいや、にじみ出る人間味を大事に演じました。

──完成した作品を見てどう思いましたか?

山田:太賀が最初から最後まで本当に良かったです。現場では本番直前までふざけてるんですよ。

仲野:そんなことないです!(笑)。

山田:(笑)マジでふざけてて。僕もヘラヘラしてますが、僕以上にふざけてるので。でも本番になると本当に素晴らしかった。今回の現場は本当に過酷だったので、そうするしかなかったところがあって。みんなで座ってスタンバイしてるときバカ話しかしてなかったですね。盛り上がりすぎて録音部さんから「うるせえ!」って怒られました(笑)。極度のストレスをそうやって紛らわすことしかできなかったんですよね。そのみんなのオンオフの切り替えが見てて気持ちよかったです。

仲野:孝之さんがおっしゃる通り、撮影中と振り幅がすごかったですね。今回の撮影場所は、都内から片道一時間半程度離れた場所で通いでの撮影だったんですが、孝之さんが撮影現場の近くに合宿所みたいな場所を借りてくださったんです。そこで俳優たちは寝泊まりしながら撮影現場に通ったんですが、その環境が本当にありがたくて孝之さんには頭が上がらないです。本当にさりげなく俳優部をバックアップしてくれるし、精神的にも肉体的にもフォローしてくださって、俳優たちの良い雰囲気を作ってくれた。孝之さんの座長としての姿を間近で見て、もっと頑張らないとって思いました。あと、僕が今さら言うことでもないですが、何度ご一緒しても役者としての姿勢にほれぼれしました。政を演じる上でのストイックさ、本番の声がかかってからのギアの上がり方に圧倒されてばかりで。撮影の合間で野村周平とかと、「本当にいいよね」「あの人は何なんだろうね」っていう話をしみじみとしていました。政を生きる姿に圧倒されて、最初から最後まで勉強になることばかりでした。

山田:カメラの前の俳優部がすごく大変だっていうことは、カメラの後ろのスタッフの方たちはもっと大変なわけなんです。予算がどんどん詰まってきて余裕がないこともわかっているので、僕もできる範囲のことをやっただけですね。でもみんなも差し入れをする際に、「どのタイミングだと喜ばれるかな」とか考えているわけですしね。今回、クランクアップしたにもかかわらず、撮影が過酷だったのでキャストが自主的にケータリングをやったんです。そういうケースは僕にとって初めてでした。辛かった分、スタッフもキャストも共に戦った仲間感がすごくあって、すぐ「次の仕事!」っていう風に切り替えられなくて、なるべく最後まで現場にいたかった人が多かったんじゃないですかね。

仲野:絆がすごかったですね。

──『十一人の賊軍』は北米やドイツ語圏でも配給が決定しています。どういう風に海外で受け入れてもらえたらいいと思っていますか?

仲野:チャンバラは海外の人も好んで見てくれるある種の日本映画の伝統みたいなところがあると思うので、本作を通して2024年のチャンバラ映画の現在地を感じてもらえたら嬉しいですね。

山田:侍も出てきますが、メインは立派な刀を持たせてもらったことがない賊たちです。侍にとって刀は命ですが、賊にとってはただの武器なので、雑に刀を扱う日本人を見られる貴重な機会ではありますよね。

──まさに政の刀の扱い方は荒々しかったですが、どんなことを意識したんでしょう?

山田:刀を逆に持ったり、侍が普通はやらないことを意識してやりました。そういうことをやった方が政の荒くれもの感や刀を持ったことがないということが伝わると思ったんですよね。

仲野:兵士郎は政の野蛮さんの対極にいる剣術の達人で、基本に沿ってまっすぐ美しく剣を振るということに重きを置いているんですが、戦況が悪化していくにつれて、どんどんその自分のスタイルが崩れて野蛮になっていく。ある種、政賊に近づいていくんですね。孝之さんが政として思いっきり刀をぶん回して銃をぶっ放して走り回って転げまわっていくということを全身で表現してくださったので、それを指針にできたところはあります。

山田:思い返すと、政はとにかくいろいろな物を投げてたよね(笑)。

仲野:はい、投げて走って殴ってました(笑)。

──では最後に、おふたりが政と兵士郎のように最後まで貫きたいと思っていることはありますか?

山田:仕事面では出演させていただく判断基準が「自分がワクワクするかどうか」っていうことはずっと変わりません。自分がその前にどんな作品や役をやっていたかによって、「今じゃないな」と思うこともあります。そういう場合はお断りするのですが、二度とその監督からオファーが来なかったりします(笑)。それはもうタイミングが合わなかったので仕方ない。

仲野:この仕事はできる限り長く続けていきたいと思っています。自分の中で言葉にして言えるほどのしっかりとした信念を持っているわけではないのですが、自分に正直に嘘を付かないように仕事と向き合っていきたいです。

取材・文:小松香里
撮影:たむらとも


映画『⼗⼀⼈の賊軍』全国公開中
【出演】
山田孝之 仲野太賀
尾上右近 鞘師里保 佐久本宝 千原せいじ 岡山天音 松浦祐也 一ノ瀬颯 小柳亮太 本山力
玉木宏 / 阿部サダヲ

【スタッフ】
監督:白石和彌
原案:笠原和夫 脚本:池上純哉 音楽:松隈ケンタ

【公式 HP】 https://11zokugun.com/
【公式SNS】 X:@11zokugun_movie / Instagram:@11zokugun_movie

©2024「⼗⼀⼈の賊軍」製作委員会

情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 映画『十一人の賊軍』山田孝之・仲野太賀インタビュー「生きることの美しさと醜さ、そして生きることに執着する姿を見せる作品」