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超聖水に超神水、界王拳に超サイヤ人。超サイヤ人に覚醒してからも超サイヤ人2、超サイヤ人3、超サイヤ人4に超サイヤ人ゴッド、そして超サイヤ人ゴッド超サイヤ人(SSGSS)に身勝手の極意……と、「ドラゴンボール」の主人公・孫悟空はこれまで留まることなく限界を超えてきた。今回リリースされた『ドラゴンボール Sparking! ZERO』は、そんな孫悟空を体現したかのようなゲームだ。
『ドラゴンボール Sparking! ZERO』は、今や世界中で圧倒的な人気を誇る「ドラゴンボール」を原作とする3Dアクションゲーム。プレイヤーは主人公である孫悟空をはじめ、シリーズ最大規模となる総勢180人のキャラクターからセレクトして、コンピューターや他プレイヤーと戦う。
人気作だけあって「ドラゴンボール」を原作とするゲームは家庭用ゲーム機に向けたものからアーケード向け、スマートフォン向け、カードゲーム……と、数多くリリースされている。そんな中で本作の特徴のひとつとなっているのが、ビジュアル表現。
Unreal Engineを用いて描画される背景は、草一本一本までが精密に描画されており、実写のようなリアリティを持っている。それでいて形状や影の付けかたなどは、鳥山明先生の作風を守っており、アニメタッチのキャラクターやエフェクトとも絶妙にマッチ。
キャラクターについては写実的なタッチではなくアニメ的なタッチで描かれている。ただ本作はPlayStation5やXbox Series X|Sといった現世代機専用に作られているため、解像度が大きくアップ。この結果、アニメのキャラクターをそのまま動かしているかのよう。
キャラクターにかなり近づかない限り、ゲームのキャラクターだとわからない自然なレベルまで到達していると感じた。
また、ビジュアルのクオリティアップの恩恵を最も受けているのが、エフェクトだろう。エフェクトの質、ボリュームともに圧倒的なまでのグレードアップを遂げており、「ドラゴンボール」ならではの地形を破壊しながら戦うド派手バトルが、この上ないほど堪能できてしまう。
ところで最近の劇場版「ドラゴンボール」は、作品ごとに新たな映像表現へとチャレンジしていたように思う。
『神と神』では、3DCGを駆使した立体的なバトル。『復活のF』では大量のキャラクターが入り乱れる大規模戦闘に、SSGSSやゴールデンフリーザがまとう独特な「気」の表現。『ブロリー』ではさらになめらかになったモーションや、ゆがみを使って威力を示す表現、次元を破壊する表現などの映像表現が盛り込まれていた。
ゲームとアニメでは媒体が違う。当然、求められる表現も異なってくる。しかし本作もまた、「ドラゴンボール」の映像表現の限界にチャレンジしていると感じた。
一方、ゲームシステムは基本的にこれまでの「ドラゴンボール Sparking」シリーズを継承している。一言でいえば、3D空間を使った対戦型格闘アクション。
対戦型格闘アクションゲームと言えば、『ストリートファイター』シリーズのように2体のキャラクターが左右に向かい合い、技を出し合い戦うものが多い。『鉄拳』のように3D空間を前提としたものであっても、「2体のキャラクターが左右に向かい合う」という2次元的な視点は共通している。パンチやキックといった近接攻撃が届くか届かないかをはかる上では、キャラクターを横からとらえた視点の方がわかりやすいからだろう。
しかし、本シリーズはサードパーソンシューターや無双系アクションのように、キャラクターを背後からとらえた視点となっている。
キャラクターを背後からとらえた視点よりも、対戦格闘ゲーム的な横からの視点の方が、間合いはとらえやすいものだ。しかし本作には、高速で間合いを詰められる「ドラゴンダッシュ」、相手の方向へ瞬間移動可能な「バニシングアサルト」など、間合いを一気に詰める手段が多い。加えて、「かめはめ派」のような光線技や、相手をある程度ホーミングしてくれる必殺技など、間合いをある程度無視できる技も多数存在している。
このため、間合いはそこまで厳密に意識しなくてもいいものになっている。いやそれどころか、間合いを一瞬で詰め、瞬間移動で敵の背後に回り、遠距離から光線技を出し合うバトルこそが「ドラゴンボール」の醍醐味。つまり、キャラクターを背後からとらえた視点は「ドラゴンボール」のゲーム化において、最適な視点といえる。
間合いを一瞬で詰め、瞬間移動で敵の背後に回り、遠距離から光線技を出し合うバトル。これは、これまでの「ドラゴンボール Sparking」シリーズでも表現されていた。本作ではこの点を、さらにスピードアップするという形で発展させている。
遠距離から光線技で攻撃してくる敵、それをドラゴンダッシュで回避しつつ背後に回り込み攻撃! だが敵は瞬間移動でこちらの攻撃を回避、こちらの背後を取る。しかしこちらはそれすら読んでいて、敵の攻撃をさらに回避して攻撃……。
こうしためまぐるしい攻防が、超ハイスピードで繰り返されるのだ。
「ドラゴンボール」ではたびたび、戦闘スピードが速すぎて常人の目には捉えられない……という表現が登場する。悟空やベジータといった超戦士しか捉えられない戦いの次元が存在しているのだ。当然我々のような一般人には捉えられない世界なのだが、本作をプレイすれば、その世界を自分のものとして体感できる……気がした。
そう思えるだけのスピード感、ド派手さ、爽快感。本作はまさしく、「ドラゴンボール」のバトルをプレイヤーが体感できるソフトだ。
本作を対戦ゲームとして見た時には、近接戦をめぐる駆け引きがおもしろい。近接攻撃は、ボタン連打で連続攻撃がお手軽に出せるようになっている。これは一見プレイヤーにとって好ましいシステムに思えるが、対戦を前提とすると、必ずしもいいことばかりとはいえない。
なぜなら、連続攻撃を受けている側は、その間何もできなくなってしまうからだ。もちろん対戦なので、攻撃をくらった側が不利になることは当たり前のこと。
ただ、ゲームによっては一旦連続攻撃が決まると、敗北寸前まで体力を減らされる上、攻撃を受けている側に対策手段が何もない……なんてことがある。一旦攻撃を受けたら、あとは自分のキャラクターが負ける様子を見ているだけ……いくら対戦とはいえ、これではさすがにおもしろくない。
この点、本作では、連続攻撃と連続攻撃の合間に、仕切り直し可能なタイミングが設けられている。攻撃を受けている側は、このタイミングで相手の攻撃に対しカウンターが可能で成功すると攻防が瞬間的に入れ替わる。
連続攻撃を行っている側には、相手のカウンターに備えて攻撃を継続するか、カウンター不可能な技を出すか……といった判断が必要になる。つまり本作は、連続攻撃中であっても駆け引きがあるのだ。
とはいえ結局のところ、プレイヤー間の実力差が激しければ一方的な戦いになってしまう。だが、だとしても弱者の側がまったく何もできないわけではないのは魅力と言えるのではないだろうか。
ここまで触れてきた通り、本作はビジュアルのみならずゲームシステムもよくできている。だが、難易度上昇のさせ方については、かなりユーザーを突き放しているように感じてしまった。
ゲームというのは、段階的にプレイヤーが遊び方を学習できるよう設計されている。
たとえば『スーパーマリオブラザーズ』の初期ステージは、ダッシュを使う必要がない。しかし、後半ステージではダッシュからジャンプしなければ越えられない穴が登場。8-1以降のステージに至っては、ダッシュしてギリギリの位置から飛ぶ最大飛距離のジャンプが必要な場面が登場する。
▲画像は『スーパーマリオブラザーズ』Switch版
これがゲーム内難易度の上昇で、プレイヤーはステージごとに段階的にテクニックを学び実力をアップさせていく。そして、プレイヤーの実力アップに合わせて、難易度もアップしていくのだ。
ただ本作のメインといえるエピソードバトルでは、冒頭ステージからある程度のアクションを使いこなすことが求められる。ステージ進行に合わせて段階的にテクニックを学んでいくのではない。ある程度のテクニックを持っていることが前提となっているのだ。
もちろん、段階的にテクニックを学ぶ方法がないわけではない。本作には「超修行」というモードが用意されている。ピッコロが悟飯に修行をつけるというシチュエーションで、操作方法やテクニックを学ぶことができるというモードだ。
ただ「超修行」はひたすら技を繰り返す、純粋にチュートリアル的なつくりとなっているため娯楽性は低い。「超修行」自体で楽しさを感じられるか……といえば、答えはNOだろう。
もっとも、ある程度のテクニックを身につけた上で挑むからこそ、「ドラゴンボール感」を味わえるという側面もある。悟空VSラディッツ戦は、本作のエピソードバトルで悟空の最初の戦い。このため、難易度の上昇を意図して設計すると、低難度のチュートリアル的なバトルになってしまう。
しかし、原作における悟空VSラディッツ戦は決して低難度のバトルではない。悟空とピッコロは死力を尽くしてラディッツと戦ったのだ。
そういう意味では、ストーリーだけでなくバトルの体感的な意味で原作を再現するには、本作のようにチュートリアルと本編のバトルとを完全に切り離すかたちが望ましいのかもしれない。
とはいえ『ストリートファイター6』や『鉄拳8』のように、最近は格闘ゲームにおいても、テクニックの習得をストーリーモード的に表現するケースが増えてきた。格闘ゲームでは、単純な操作方法に加え必殺技や連続技の出し方、起き上がりの攻防、ジャンプ攻撃対策……などなど、覚えなければならないテクニックが多い。
従来、こうしたテクニックを習得するためのモードとして「トレーニングモード」が用意されていた。しかし、ひたすら練習を繰り返すだけの「トレーニングモード」は決して娯楽性が高いとはいえない。筆者も含め対戦格闘ゲーム好きは、ひらすら「トレーニングモード」で練習を繰り返すことに楽しさを見出してしまうが、大半のプレイヤーはそうではないのだ。
このため『ストリートファイター6』や『鉄拳8』といったタイトルは、ストーリーモード内で楽しみながら、段階的にテクニックを習得できるような構成となっている。
▲画像は『ストリートファイター6』PC版
こうしたことを踏まえると、もう少し「超修行」におもしろみがあるとよかったなあ……と思ってしまう。それこそ、子ども時代の悟空の修業編として、カメハウスや天界を舞台に最低限のテクニックを学びつつ、「ドラゴンボールZ」以前のストーリーをダイジェスト的に振り返る……というかたちだったら、より楽しくテクニックを学べたのではないだろうか。
……ちょっとワガママで身勝手な注文ではあるが。
「超修行」については苦言を呈してしまったが、本作の原作愛は決して小さなものではない。むしろデカい! 原作愛もまた、限界突破している。
まず原作を堪能できるのは、原作のストーリーを味わえるエピソードバトルだろう。エピソードバトルは悟空のみならずベジータやピッコロなどといった他キャラクターに対しても用意されており、ベジータVSキュイ(※自称・ベジータのライバル)、ピッコロVSフリーザ第二形態など、悟空がかかわらなかったバトルも体験できるようになっている。
ダイジェスト的にではあるが、名シーンも再現されているのがいい。筆者の場合、ベジータ&ナッパの地球襲来やナメック星での戦いといったエピソードを最後に見たのは「ドラゴンボール改」なので、かれこれ10年以上も前。なので、本作で見て、思わず「懐かしい!」と口走ってしまった。
ピッコロが悟飯をかばうシーンや瀕死のベジータが悟空にフリーザ打倒を託す場面などは号泣。最初に見た時もそうだったが、本作では懐かしさも相まって限界突破の大号泣となった。ストレートに原作愛を堪能できる要素だ。
また、オマケ的な機能ではあるものの、原作愛の大きさを強く感じられる機能が「女子トーク」。この機能は、チチ・ブルマ・ビーデルという3人が、本作の収録キャラクターについてあれこれ語るというもの。超サイヤ人についてチチが「不良」と言ったり、スーパーサイヤマンについてビーデルが「カッコいい」と言ったりするなど、「ドラゴンボール」のコミカルな側面を味わえる機能だ。
ただ、それだけではなく「ドラゴンボール」を深堀りできる点も魅力。たとえば、あれこれ語っているチチは現在(「ドラゴンボール超」)のチチなので、セル編で一度死に、生き返った悟空に対して「二度と死んでほしくない」と語っている。つまり、原作のサブキャラクターたちが、現在の視点から過去を見返し、描かれなかったエピソードを語ってくれるのだ。
「ドラゴンボール」ファンとしては、「そういえば、あの時の悟空はひどかった」「あの時はさすがに泣いた」といった感情をチチ・ブルマ・ビーデルの3人と共有でき、その上で世界観への理解が深まる機能といえる。「女子トーク」はある意味エピソードバトル以上に、原作愛の大きさを感じさせる機能といえるだろう。
気になる点について言及はしたが、本作は「ドラゴンボール」ゲームとしてもアクションゲームとしても非常によくできていて、満足感が高い。「ドラゴンボール」ファンなら買わなきゃもったいない一作といえるだろう。
ちなみにオススメは、有料ダウンロードコンテンツである「アニソン&BGMパック」とセットで楽しむこと。筆者のように「ドラゴンボールZ」世代の人間であれば、「M811」という名前でも知られる楽曲、「恐怖のギニュー特戦隊」をテーマに戦うバトルはたまらない。ビジュアルから音楽からゲーム性から、「ドラゴンボールZ」の世界に没入させてくれるぞ!
(文/田中一広)