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尾道の昔ながらの小さな豆腐店で、すれ違う父と娘の心温まる愛情を描いた、映画『高野豆腐店の春』(たかのとうふてんのはる)が 8 月18 日(金)より全国公開中です。
スクリーンデビューから60周年を迎えた藤竜也さんが、尾道で長きにわたり豆腐店を営み、街の仲間達から愛される主人公・高野辰雄を好演。辰雄の娘・春役には、今や日本映画に欠かせない女優となった麻生久美子さん。麻生さんは藤さんの主演作『猫の息子』(1997)への出演以来、本作で26年ぶりに共演し、すれ違いながらも互いを思いやる親子役を演じています。
藤さんと麻生さんのお2人にインタビューを敢行。映画と同じく、とても優しいお言葉をいただけたのでぜひご覧ください。
──本作とても楽しく拝見させていただきました。今回の役づくりについて意識したことがあれば教えてください。
藤:私はいつも演じる役の履歴書というかプロフィールみたいなものを考えるんですが、今回は特に「辰雄が尾道で豆腐店を始めるまでのいきさつ」を考えました。でも、芝居はナマモノですから、それよりも、麻生さんとカメラ前に立つことで自然と辰雄になっていけるんですよ。台本には書かれていない亡くなった妻や親友のことまで、感情がどんどんあふれていきました。
麻生:私から見て(辰雄と春は)必要以上に話さなくてもいい親子関係に見えたので、辰雄さんを演じる藤さんと一緒にいる時間を大切にしたいと思っていました。なので特別な準備はせずに自然と、という感じです。
──今回お2人が演じられた辰雄と春の父娘はとても良い関係で、あたたかい気持ちになりますよね。
藤:実際の私は息子だけがいて、娘がいないので、娘を持つ父親の気持ちがどうも分からなかったんですよ。でも、麻生さんが心のこもった演技をしてくださったことで、見事に引っ張られました。春の縁談の話が持ち上がる展開あたりから、気持ちがあたふたオロオロして、麻生さんの顔を見ると、涙が出ちゃいそうになるから、なるべく見ないようにしていましたし(笑)。
麻生:あはは(笑)。私もお互い信頼し合っているいい父娘関係だなと思いました。私は父親とはずっと暮らしていなかったので、「もし、今ぐらいの年齢でお父さんがいたら、こんな関係性なのかな?」と想像していました。とても理想的ですし、藤さんのアドリブがすごく素敵で。
藤:あれね!最初は「どんぐりころころ」を歌う予定だったんですが、なんとなく「ずいずいずっころばし」に変えたら、そっちの方が合っているような気がしたんです。幸せになるために、肩を寄せ合って生きる辰雄と春だけでなく、それを温かく見守る地域の仲間たちとの関係が素敵だなと思ったので。三原(光尋)監督が作られた設定も素晴らしいですよね。
──ロケ地である尾道の景色も美しくて印象的でした。藤さんはロケハンから同行されたそうですね。
藤;辰雄が暮らす場所、辰雄がいつも歩いている路地、辰雄が使っている郵便局や銀行などをしっかり見ておきたかったんです。そうやって、街を見ることが役作りに繋がりますし、本来なら1か月ぐらい実際に住みたいくらいでした。
麻生:今回初めて尾道に訪れたのですが、すごくきれいな所で、大好きになりました。初めてなのに、どこか懐かしさもありましたし、地元の方もとても優しく温かく迎えてくださいましたし、春が住んでいることも何だかしっくりきて。
──本当に皆さんがそこに暮らしている様に景色と馴染んでいますよね。
藤:現場では僕が自転車のシーンで膝をぶつけてしまって、走れなくなって、麻生さんが病院まで走るシーンが急きょ追加されました。それがすごく良いシーンになりましてね。三原監督と一緒に、「あれはけがの功名だね」と言っていました(笑)。
──舞台となる豆腐店での豆腐作りについてはいかがでしたか?
藤:豆腐作りはとても新鮮でした。今はほとんど機械での作業で、的確なタイミングでスイッチを入れたり、切ったりするぐらいだそうです。その中で大変だったのが、大きい水槽に入った出来上がった豆腐を切る作業。真冬の撮影だったものですから身を切るような冷たさで、「これ、やらせるの!?」というほど(笑)。そしたら、実際の豆腐店の親父さんが「大丈夫ですよ! そのうち、熱く感じてきますから」とおっしゃって(笑)。
麻生:今まで生きてきて、水がこんな冷たいと思ったことはなかったほどですが、不思議なことに冷たすぎて、だんだん手が熱く感じてくるんですよ(笑)。 お豆腐屋さんが「子供の頃から豆乳を飲まされることが日課だった」とお話されていて、私もこの撮影をきっかけに、豆乳の美味しさに気付いて、朝に温かい豆乳を飲むことにハマっています。
──朝一杯の豆乳素敵ですね!お豆腐はどんな食べ方をするのがお好きですか?それこそ今は冷奴が美味しい季節ですが。
藤:ウィンドサーフィンしにハワイのマウイ島によく行っていた頃、健康志向の子に教えてもらった食べ方があります。木綿豆腐の上に、洗った生もやしを置いて、ゴマ油と醤油をかけるだけ。ずっとウチの定番になっています。
麻生:その食べ方、撮影中に藤さんに教えていただき、ウチでもやってみました!すごくおいしかったです。冷奴なら、シンプルにお塩で食べるのも好きです。
──お豆腐の美味しそうな姿、そして辰雄と春の親子関係や周囲の人々との関わり、本当に優しい気持ちになれる作品ですね。
藤:『村の写真集』『しあわせのかおり』に続いて、今回3作目となる三原監督との映画に通じるものは、みんな何かしらの問題を抱えて生きているということだと思っています。すべてを投げ出したいぐらい辛いかもしれないけれど、生きることはそれ以上に素敵なんだということを教えてくれる。今回も、そういうメッセージが込められた素敵な作品になったと感じています。
麻生:私は出来上がった作品を観て、「人は一人では生きられない」ということを痛感しました。どんな形であれ、周りに支えてくれる人はいると思いますし、人が人を思いやる気持ちがたくさん描かれた作品になったと思います。今の時代に観て欲しいなと感じています。
撮影:オサダコウジ
ヘアメイク:ナライユミ
スタイリスト:井阪恵(dynamic)
【ストーリー】
尾道の町の一角に店を構える高野豆腐店。
“大豆”と”水”と”にがり”だけでコツコツ作られる豆腐作りのように、淡々とした日々の生活にこそ、人々のしあわせがある。
これは職人気質で愚直な父・高野辰雄(藤竜也)と、明るく気立てのいい娘・春(麻生久美子)の物語。毎日、陽が昇る前に工場に入り、こだわりの大豆で豆腐を作っていく父と娘。商店街の仲間たちとの和やかな時間。そんな日常を生きる親娘にそれぞれの新しい出会いが訪れる―。
“変わらないもの”と”変わっていくもの”を丁寧に描き、この時代を懸命に生きる人々に一筋のひかりを届けます。
『高野豆腐店の春』
監督・脚本:三原光尋
出演:藤竜也 麻生久美子 ほか
配給:東京テアトル
8月18日(金)シネ・リーブル池袋、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
(C)2023「高野豆腐店の春」製作委員会