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笑わずに笑わせるお笑いデスマッチ、Prime Video『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン12 UNLIMITEDの配信が5月26日(金)に迫りました。
今回は、芸人と芸人以外が出場するというシリーズ初の“混合戦”。その出場者のひとりであり、ダークホースとも名高い若狭勝弁護士にお話を伺いました。
若狭 勝(わかさ まさる)
1980年に司法試験合格後、検事に任官し、東京地検(特捜検事)、東京法務局(訟務検事)などを経て、東京地検公安部長、特捜部副部長などを歴任。
2009年に弁護士へ転身、TVのコメンテーターとしても活躍中。
──『ドキュメンタル』シーズン12に若狭先生が出演される、ということでSNS上でも期待の声が挙がっております。『ドキュメンタル』そのものを含め、お笑いの番組に出られることが驚きでした。お笑い番組にご興味がおありだったんですか?
若狭勝弁護士:(以下 若狭)お笑いについてはもともと興味があったんです。私、足立区出身なんですが、ビートたけしさんは私の隣の中学で、高校も隣の高校なんですよ。そうした環境も手伝って、お笑いへの関心は高かったですね。あと、お笑いって単に人を楽しませるというだけではなくて、人を救うものなんだと思ってます。
私は検事の仕事をずっとやってきて、非常に苦しい思いを抱いてる人、多くの遺族の人に直接、接してきました。そういった方々の心の傷は、当然すぐには癒えないんですけれど、例えばテレビやネットで見られるお笑い、そこから得られる笑いって、人を助けるというような意味合いがあるんじゃないかな、ってかねがね思っていたんです。「笑いは人を救う」と。あと繰り返しになりますが、やっぱりたけしさんの存在は身近で大きいですね。
お笑い番組ということであれば『M-1グランプリ』なんかは普通に観ていました。印象深いのは錦鯉さん。テンポの良いやりとりは面白く、痛快な気持ちで拝見してましたよ。
──検事を経て弁護士になられ、お笑いの世界とは一見、真逆の経歴を歩まれていらしたわけですが、共通点がまさかそんなところにあるとは。「人を助ける」という共通点を意識したのはいつぐらいから?
若狭:ハッキリとは覚えてないですけど、少なくても検事になって殺人事件の遺族の方と接するようになってからですね。
事件で家族を失ったりすると、当然ながらものすごく辛い。文字通りどん底の気持ちになるわけです。それでもそこから少し時間が経って何気なくテレビを見ていたりして、そこでなんか面白いことをやったり言ったりしてると、そこで若干ながらも当時のつらい出来事を忘れるわけです。
その一瞬一瞬の積み重ね。それをつむいで重ねていくことによって、徐々にその人が元の気持ちを取り戻して、元の生活に戻っていける。殺人事件の遺族の方々を見ていたとき、まさに「お笑いは人を助ける」という風に思いました。
──時間でしか解決できない部分があるとしたら、その時間を埋めてくれるのがお笑いだったわけですね
若狭:本当に辛い思いをした人たちって「あの事件の何秒か前にもう1回戻りたい」ということを言われることがあるんですよ。タイムマシンじゃないけど、事件や事故が起きる前に戻りたいという気持ちがある。それが長い間、大きな重しのような形で、心にグン、とのしかかっている。絶えずそういう気持ちでいるわけですよ。
「過去に戻りたい」という気持ちを過去じゃなく将来に向けることができるのが、おそらくお笑いの「人を助ける」という効果だと思うんです。みんなお笑いって簡単に言うけど、私はそういう効果、結構あるとマジで思ってますよ。
──過去に向いてた目線を未来に向けて
若狭:すぐに未来には目を向けられないとしても、一瞬忘れることによって「もう一回あの日に戻りたい」という思いをとりあえずはストップさせられる。それが重なっていくことによって、だんだん一生懸命生きていこうという前向きの気持ちになっていくんだと思うんですよ。
──『ドキュメンタル』のオファーが来た時、正直どんな風に思いましたか?
若狭:オファーがあった時は一瞬「え?」と思ったけれど、すぐに「あ、そう?」と軽い感じで引き受けました。先にも述べたように、自分の中ではお笑いに対して前向きで特別な思いもずっとあるので。
なおかつ私が検事の仕事をしてたんで、笑ってはいけないという『ドキュメンタル』のルールについては、それなりに自信はありましたし。
──本当にお笑いコンテンツに対して前向きですね
若狭:もともと私ね、笑いも含めて表現すること──役者とかシナリオとか、そういうのが好きなんです。司法試験に受かってから劇団に試験を受けに行ったりしてたんですよ。最終的には検事の道に入るんだけど、検事になった理由の一つは、検事が「役をふるまうことができる」からなんです。もちろん、真面目なちゃんとした動機もありますけどね。
検事って、被疑者とか容疑者に合わせて、自分がある時は牧師になったり、ある時は父親になったり、ある時は同僚になったりする。そういう風に相手に合わせた形にしないと、なかなか自白とか、自分に不利なことは言ってくれないんです。いつもこっちが同じスタイルで上から目線な態度をとっていたら、多分、本当の自白はしてくれません。
そんな経緯もあって、法の道を歩んできたものの、演じたり違う自分を見せることについてはずっと興味があったんですよ。
……まあ、『ドキュメンタル』出演については、家族みんな反対してたんだけど。
──(笑)え! そうなんですか?!! ご家族は何で反対されてたんですか?
若狭:「絶対ありえない! ありえない!」って(笑)
──でも、家族の反対を押し切って!
若狭:貴乃花(光司)さんが出てるときの『ドキュメンタル』シーズン11かな……あれは出演者がお笑い芸人ではなく、観てる分にはそこまで過激ってほどでもないから、出てもいいかなって思ったんです。
──シーズン11を観て、そこに出るご自分の姿を想像されたわけですね
若狭:ただ、私はさらに前のシーズンをしっかり観てなかったんです。しかし私の娘なんかは前のシーズンをしっかり観ていたんで、大反対。完全に“ギリギリ”のイメージだから「絶対ダメ!!」とか言ってて(笑)。一方で私は11の延長戦だと思い込んでるから、「まあ、いいんじゃないの?」「面白いんじゃないの」というような思いでしたから、そこは食い違っていましたね。
──もしオードリー春日(俊彰)さん出演の回(シーズン3 ※過激ながらファンからは神回とも評されている回)などを観ていたら、先生お出にならなかったかもしれないです(笑)
若狭:相当過激だった、って話だけは聞いてますね(笑)。さらに前のを観たら、出場をやめてたかもわからない。
──変な言い方ですが、我々にとってはラッキーだったなとちょっと思ってます(笑)。参加されるにあたり、目標や心に決めたことはありましたか
若狭:参加する以上は「笑わない」というルールを自分に課して出場しました。賞金1000万円とかより、とにかく自分なりに勝つ、という思いでした。
──「笑わない」ことで、ご自身をあの場において試された
若狭:笑わせるけれど笑ってはいけない、ってよくよく考えるとすごいルールだよね。お笑いって、笑わせてなんぼだし、面白いことをやったらさ、当然笑いたい気持ちがある。それがある意味、人間性みたいなもんじゃない? 人間の気持ちに訴えてくるわけだから。
──自然な感情ですよね
若狭:それを抑えるっていうわけだからルールとしては面白いなと思いました。
──自己矛盾をずっと抱えたまま進めなきゃいけないっていう
若狭:そうですね。
──『ドキュメンタル』って出られた方みなさんが「笑えなくて本当に疲れた」っていうことをおっしゃってるんですが、先生もやっぱり出てお疲れになりましたか?
若狭:前半はかなり快適にビビットにやってたけど、途中からフジモン(藤本敏史:FUJIWARA)がエスカレートして、とんでもないことを始めてしまって……。「若狭さん、こっちに来てよ!」とか言われちゃったりしてたんだけれども、……本当に大変でした(笑)。
──『ドキュメンタル』の“ゾーン”に入ってしまった
若狭:これはヤバいところに来てしまったなぁ、ってその時になって思って(笑)
──松本人志さんによるお笑いの神髄みたいな企画ですもんね。収録現場では予想外のことばかりだったかと存じます。あまりないとは思いますが、法廷の現場で笑ってしまうような出来事ってあるものですか?
若狭:ちょっと話は違うのかもしれませんが、ありますね。ある事件で検事として証人尋問する際、私と1年先輩の2人で並びながら尋問したことがあったんですね。そうしたらなんだかずいぶん酒臭い。ああ、これは隣の先輩が昨日の夜に飲みすぎたんだな、って思いながら進めました。
それらが終わったあと、彼に「昨日、どのくらい飲んだの?」って聞いたんですが、返ってきたのは「なんで? 飲んでないよ。俺は若狭さんがずいぶん飲んだんだろうな、と思ってたんだけど」という返事(笑)。よくよく話してみたら、実は酒臭かったのは、呼ばれた証人だったんですね。それをもっと早めに気づいていれば「あなたお酒飲んでますね」とか言えて、証人の信用性がグンとなくなるんだけど、まさか証人がそこまで臭うほど飲んで出てくるとは思っていなかった。
──そんなことってあります?? そういう状態で証人に呼ばれる人が来るものなんですか?
若狭:証人ってね、結構緊張するんです。だから緊張感を和らげるために、ちょっと酒飲んで酔いの勢いで証人として出てくるということは絶対なくはないですよ。けれども臭いのするほど飲んでくることはそうそうない(笑)。
──なるほど、そんなこと法廷でもあるんですね。確かに特別な場所だから、何が起きても不思議はないと思うんですけれども……。次、もしまた『ドキュメンタル』やお笑い関連のオファーがあったりしたら参加されますか?
若狭:私としては、いろいろチャレンジしたいという気持ちは大いにあります。さっき、家族やなんかが猛反対したって話したけど、今回の(『ドキュメンタル』シーズン12)が公開された後に、私の顧問先とかから「どうしちゃった、若狭?」なんて、いっぱい電話かかってきたりするのを想像すると、ちょっと心配ではありますね(笑)。
ただ別に後悔はしてないです。常々私が考えているのは、自分の人生終わる時に「まあ色々あったけど、その時その時、自分の心に素直に選択したね」と言えるのが、一番いい人生だということ。もちろん間違ったことだってあるかもわからないけど、その瞬間ごと自分の気持ちに素直に従って決断した、というのが人生で一番いいと思ってます。
また何かのオファーがあったとき、「自分がやりたい」と思うんであれば、たとえ仕事に影響があったとしても前向きにやろうと思ってますよ。
──法に携わるお仕事をされてる方は「間違った事はない方がいい」という考え方で、危険の少ないベストの道を選択するイメージを、勝手ながら抱いてました。しかし、究極のエンタメ番組に出演するっていうのは、不確定要素も多いし、危ないって言ったら危ないじゃないですか? けれども若狭先生のお話を聞いていると、「間違いがあっても別にいいじゃないか」とおっしゃってるような印象を受けました。
若狭:法律家って言っても法律家の前に1人の人間だから。その生身の人間がどういう風に感じ、どういう風な生き方をするかとかいうのは法律家以前の問題としてあるはずなんだよね。
法律家だからといって、「悪いことなんかしねえ」とか「君子危うきに近寄らず」みたいな形でリスクを取らないままの人が他人の相談に乗ってたりすると、見えるものも見えなくなるし、目の前の人の悩みの本質とかがわかり得なくなっちゃうと私は考えてるんです。
法律家は法律家としてやるのはいいとして、その前に生身の人間、ひとりの人間としていろんなことを体験していろんなことを感じて、いろんな感情を表現したりするのがあってしかるべきだと思っています。
──検事をするにあたり、人の悪い部分も憑依させてその人の身になる、というのは今のお話に通じますね
若狭:たまたまですけど、私は検事やってた中で、否認のまま起訴したことはなかったですね。「自分は関係ない」「自分はやってない」って言っていながらも「証拠関係はこうだから」って言って否認のまま起訴するケースも世の中にはあるのですが、私はそうしたことはなかったです。否認のまま裁判を延々と続けていたことは1回もない。私のときは起訴した人がみんな自白をしてくれていました。
私がよく言うのは「取り調べっていうのは自分が裸になることだ」ということ。
自分が裸にならないと相手は絶対心を開いてくれません。そのためには自分の幼い頃からの悪いことをした思い出とか、自分自身の弱みや生き様を赤裸々に話して「この人は結構人間味があるね」、「なんか話を聞いてくれそうだな」なんて思ってもらわないと自白なんかしてくれない。そういったことは、よく後輩にも話しましたね。
裸になれ、裸になれ、って言ってたんだけど、裸になっちゃったんだよね(笑)
──裸に……(意味深)。『ドキュメンタル』だったら、誰がどうなったか、っていう話ですね(笑)。それが比喩的表現なのか、直接的表現なのかはさておき
若狭:検事のは比喩的だよね(笑)。
──最後に『ドキュメンタル』を楽しみにしている方々や若狭先生のファンの方、知っている方々に向けてなにかメッセージをおねがいします
若狭:“もう一人の若狭勝”を観てもらいたいですね。みなさんからするとテレビで事件物のコメントしている、とかく固い法律家としてのイメージが強いと思うんだけれど、今回の『ドキュメンタル』にはもう一人の若狭勝っていうのが居ます。どちらかが偽(いつわ)っているとかじゃなくて、どっちも多分私なんだよね。
法律家の自分、そして役者を目指したり、お笑いが好きなもう一人の自分、──どっちも自分だと思うんだけど、今まで見たことがないような驚愕の若狭勝の姿を観てもらいたいな(笑)。“もう一人の若狭勝”は恥ずかしい姿かもしれない。観た人がそれでどう評価するかは別だけど、人生そのほうが面白いじゃない?
──最高です。ありがとうございます
Prime Video『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン12 UNLIMITEDは2023年5月26日(金)より一挙配信開始
※配信内容・スケジュールは予告なく変更になる場合がございます。『ドキュメンタル』シリーズ作品ページ:
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B5M59RH2出演: 松本人志(ダウンタウン)
ISSA(DA PUMP)、カンニング竹山、近藤真彦、長州力、藤本敏史(FUJIWARA)、三浦翔平、
若狭勝弁護士(※五十音順)
特別出演:高橋茂雄(サバンナ)、陣内智則
コピーライト:©YD Creation