芸術の才能に溢れ、大人の考えを見透かすような鋭さを持つ聡明な孤児の少女“エスター”。彼女にはとんでもない秘密があった――。2009年に公開されたホラー映画『エスター』は一度観たら忘れられない強烈さで今なお人気を博す。ファンにとって待望の前日譚、『エスター ファースト・キル』が現在公開中だ。両作でエスター役を務めるイザベル・ファーマンがインタビューに応じてくれた。

養子先で凶悪な素顔を見せ、家庭を破壊したエスター。今回の作品では時を遡り、行方不明の“実の娘”になりすましてオルブライトという一家に入り込む彼女を描いている。一作目においてエスターを演じたイザベルが、23歳(撮影時)にして今作でもエスター役を続投することは大きなニュースになった。ストーリーの時系列としては、幼い頃のイザベルが演じた役柄の、更に昔を演じるのである。監督のウィリアム・ブレント・ベルはアナログな映像のトリックを駆使し、23歳のイザベルを少女へと変貌させた。一作目に比べて顔立ちは大人びて見えるが、そこも本作の面白いポイント。エスターという奇異なキャラクターの真実と虚構が交錯しているかのような不思議な効果をもたらしている。

今回のインタビューでは、子役だったイザベルが驚異的な演技を見せた一作目当時のエピソードや、エスターの一見不可解な心理面の解釈、前日譚で目指したものなどについて伺っている。

一作目『エスター』で明らかになった彼女の秘密についての直接的なネタバレもあるので、未見の方はお読みになる前に『エスター』を先に鑑賞されたし。※『エスター ファースト・キル』のネタバレは無し

イザベル・ファーマン インタビュー

――普段ホラー映画を観ることはありますか? どんなタイプのホラー映画がお好きでしょうか。

イザベル・ファーマン(以下、イザベル):ホラー映画はあまり積極的には観ないの。私自身が怖がりだからよ。でもジャンルとして面白いから、できるだけチェックするようにはしている。ホラー映画は知的かつ巧みに作られている場合、観ている人を単に怖がらせるだけでなく、全く違う次元で衝撃を与えたり、特別な体験をさせたりすることができると思う。特に気に入っているホラー映画は、ジュリア・デュクルノー監督の『RAW 少女のめざめ』。ある少女がカニバリズムに目覚めるという物語なんだけど、カンヌ映画祭の出品作という理由だけで内容を知らずに観てしまったの(笑)。ずっとビクビクしてたわ。でもただの怖い映画ではないからすごく気に入った。主人公のことを応援したいんだけど、「応援することは道徳的にどうなの?」と考えさせられたり。興味深かった。

――大人になって『エスター』を観返したとき、歳を重ねたことで感じ方が変わった部分はありましたか?

イザベル:一作目の時は、基本的なコンセプトだけを理解して演じていたから、大人になって気付いたことはたくさんある。当時は気にかけていなかったことも、今になって見ると不気味だと感じたり……。自分で演じていたのにね。(撮影当時)わずか10歳であのような演技ができた自分を褒めてあげたい。今回再びエスターを演じられたのも嬉しい。今後も続くといいわね。

「彼女について理解できた」「理解するって、何を?」

――『エスター』の脚本を読んだ10歳当時、どのような印象を持ったのでしょうか。ヴィランを演じることや過激なセリフについてはいかがでしたか?

イザベル:R指定映画だったから、母が最初に脚本を読んで、罵り言葉など、私に読ませたくない内容はすべて黒で塗りつぶしていったの。私を怖がらせたくなかったからよ。それを私はオーディション前に読み、母のところに行って、「彼女について理解できた」と言ったらしい。 母は「理解するって、何を?」と(笑)。でも私が共感できたのは、エスターが最終的に求めているのは愛情と家族だったという点。決して正しい追求の仕方ではないけど、与えられた選択肢や可能性から、彼女なりにたどり着いた答えがあれだったの。それが最初の印象だった。驚きの展開にも衝撃を受けたのを覚えているわ。今回の脚本についても同じよ。後半の展開が気に入り、絶対にこの作品に関わりたいと思ったの。前作も本作も、これまでに読んだことのないユニークな脚本だった。

――『エスター』での幼いイザベルさんの演技は驚異的で、役柄の複雑なパーソナリティを完全に理解しているように見えます。当時はどのように役作りをしたのですか?

イザベル:役作りには、ジャウマ・コレット=セラ監督に勧められた『イヴの総て』と『何がジェーンに起こったか?』と『サンセット大通り』を観たわ。それは上品な装いを好むエスターを理解するためでもあり、さらに人を操る心理を理解するためでもあった。『エスター ファースト・キル』に備えるために、10歳の時に書いていたメモを見返し、さらに勧められた映画をもう一度観て、当時参考にした人物像が実際に描かれているのは(前作ではなく)本作だということに気付いたの。それは新鮮な発見だったわね。10歳の時に演じたエスターを再演する必要はなく、今回新たに設定された時間と空間の中で、彼女はどう振舞うかを掘り下げるだけだった。それが分かった瞬間、肩の荷が下りたわ。色々と試しつつ、彼女を改めて発見すればよかったの。結果的にそれは成功したと思う。

エスターの“歪んだ心”の原因

――エスターはその暴力性も恐ろしいですが、子供として振る舞いながら家族の父親にはひとりの女性として見られたがるいびつな心理に一番の恐ろしさを感じます。こういったエスターの心理面をどのように解釈して演じているのですか?

イザベル:彼女は苦労の多い人生を歩んできたの。前作の脚本の第1稿では、彼女の過去について詳しく書かれていたんだけど、使った部分もあるし、使わなかった部分もある。でもその描写から、エスターという人物を理解するようにした。彼女の歪んだ心は、愛された記憶がないこと、素の自分を受け入れてもらった経験がないことが原因だと思う。彼女に執着する人からは何かしらの愛情を得られるということは理解しているけどね。

下垂体性機能不全の病気を患っていることで、周囲から特別な見方をされたくないと思いつつも、大人の女性として見られたいという願望を抱いている。人々にどう受け入れられたいか、常に自分の中で葛藤があるんだと思う。さらに周囲は本来の自分を理解していないと思っている。それは彼女自身が自分を分かってないからよ。ベストな自分を目指すためには、まずは自分のことを理解しないと。彼女が直面する問題の多くは、“周囲にこう見られている”という思い込みや、自分の中で作り上げている妄想から来ている。役者としては魅力的なキャラクターね。「欠陥だらけのキャラクターだけど好きになっていいのよ」と観客に気づいてもらうのも面白い。

観客がエスターの“秘密”を知っている前日譚

――今回の作品は、前作のような衝撃がありながら単なる焼き直しにもなっていない、ファンの期待に応える見事な前日譚になっていました。

イザベル:前作と違うユニークな作品になるのは分かっていた。どの作品も、毎日新しい発見があるんだけど、今回は撮りながら、ホラーの中にもユーモアの要素があると気付いたの。なぜなら観客は、“エスターが大人である”という秘密をすでに知っているからよ。ウィリアム・ブレント・ベル監督は、そこに的を絞り、作品のテーマとして描くという勇気ある決断をした。前作と本作を見比べても、全く違う作品だと感じるはず。主人公は同じだけど、別作品なの。私も実は脚本を読んだあと、「前作の模倣にならないか?」と心配をしていたから、完成版を観た時はうれしかった。ブレントも同じものを作るつもりはなく、新しくオリジナルの作品を目指しつつ、前作にオマージュを捧げてファンの想いを大切にしたいと言っていたわ。

――今作においてイザベルさんの気に入っている要素やシーンを教えてください。

イザベル:気に入っているシーンはたくさんあるけど、エスターが父親の肖像画を描いていて、ジュリア・スタイルズ演じる母親が、エスターが父親に恋をしていることに気づくシーンは特に好きね。ジュリアが「今から夫とヤってくる」と最後に言うの。あれは天才的だと思う。エスターと母親はお互いに“違う顔を持っている”と気づいているけど、それをバラすことはできないの。緻密に築いてきた虚像が崩れてしまうからよ。2人は互いに疑いの目を向けつつも、信頼している部分もある。そのバランスを保つのはなかなか難しかったけど、そういうシーンが演じていて最も楽しかったわ。

――今回の作品では一作目に至るまでのエスターの行動が明らかになりましたが、エスターの更なる過去についてはまだ謎が多いです。

イザベル:さっきも触れたように、前作の第1稿で彼女の過去について触れている部分があって、少し説明しすぎだから大部分がカットされたの。でも今回再びエスターを演じるにあたり、見返して参考にしたわ。もし今後、続編を撮ることになっても、彼女のバックストーリーは常に変わっていくと思う。彼女がどこから来て、過去に何が起きたかということに、未だにみんなの関心が集まっているのはとても興味深い。いつか真実が分かるかもね。もちろん私も知らないから楽しみにしている。

『エスター ファースト・キル』
TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中

配給:ハピネットファントム・スタジオ

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情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 【インタビュー】『エスター ファースト・キル』イザベル・ファーマンが語る子役時代の心境と“エスター”の歪んだ心理[ホラー通信]