東出昌⼤と三浦貴⼤をW主演に迎え、今、国内外で次回作が最も期待されている若⼿監督・松本優作がメガホンをとった映画『Winny』が3月10日より公開になります。

2002年、開発者・⾦⼦勇(東出昌⼤)は、簡単にファイルを共有できる⾰新的なソフト「Winny」を開発、試⽤版を「2ちゃんねる」に公開する。彗星のごとく現れた「Winny」は、本⼈同⼠が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていきます。しかし、その裏で⼤量の映画やゲーム、⾳楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする若者も続出、次第に社会問題へ発展していく……。

本作を手がけた松本優作監督と、主演の東出昌大さんにお話を伺いました。

――松本監督も東出さんも、Winny事件のはじまりの頃には10代で、事件のことをよく知らなかったかと思います。私もそうです。この事件の内容を知った時はどの様に思いましたか?

松本:僕は本作の映画化の企画をいただいた時に事件の内容を知って、これをどうやって映像化しようかなと、どちらかと言うと不安が大きかったです。いわゆるわかりやすいアクションがあったりもしないですし、専門用語も多い、また、金子さんが亡くなっていることもあって難しいだろうなと思いました。

東出:僕もWinnyの事件のことは詳しく知らなくて、裁判で最初有罪になって、のちに無罪になったんですけど、無知だったので怪しい人なのかと思ってしまったんです。でも、本作で金子勇さんという方を知れば知るほど、こんなに純真無垢な方はいないと思い始め、そんなすごい方を僕が演じさせてもらうのだと、とても緊張しました。

――東出さんはまず何十18キロも増量されていますよね。

東出:過去最高体重です(笑)。1日6回、健康的な食事を。白米と卵と納豆とブロッコリーとプロテインとたくさん摂取しました。あと整腸剤。ジャンクフードだと胃が荒れてしまって食事が出来ないので。増量の方が減量よりも大変なので、撮影が終わって「いよいよ体重が落とせるぞ」という時は嬉しかったですね。でも、金子さんになれる時間が終わってしまう時は寂しくて……。

松本:それはすごく感じました。

東出:「連続ドラマでやりましょうよ!」とか言っていましたね。

――映画で描かれていない部分の余韻も素晴らしいのですが、ドラマで全て観たいと思うほど素晴らしかったです。

松本:描ききれなかったというか、描きたい部分がまだまだたくさんあるので、この映画をきっかけにこの事件のことを知ってくれて、調べてくださると嬉しいなと思います。

――監督は描く部分をどの様にジャッジしましたか?

松本:弁護士の壇さんにお会いして、一番最初に言われたのは「この裁判に勝者はいなかったんです」という言葉で。無罪を勝ち取ったからといって、本質的な意味では勝利ではないというか。それを考えた時に、裁判をテーマにした映画がお好きな方は、裁判シーンを重ねながら勝利を勝ち取っていくカタルシスを感じたいと思うのですが、この映画をそうしてしまうと作る意味が無いなと思いました。なので、第一審で有罪になってしまう所まで描こう、という事は最初の段階で決めていました。

後は、膨大な裁判資料があるので、その中からどこをピックアップするかを決めることは時間がかかりました。金子さんの周りの色々な人にお話を聞くことで、皆さんに支えられてこの映画を作ることが出来ました。

――金子さんのためなら動きますという方が多かったのでしょうか?

松本:金子さんのことを好きな人がたくさんいらっしゃって、悪いことを言う方なんて一人もいないですし、心から協力してくださいました。

――東出さんは金子さんの人となりを知るために何かされましたか?

東出:金子さんが暮らしていた町へ行って、映画にも出てくる、通っていた電気屋さんへ行ってきました。実は自宅から電気屋さんまでの道のりって、車で移動しても結構な距離があったんですよ。でも、幼き日の金子少年はマイコンを触るために自転車爆速で電気屋さんに通っていて。「コンピューターがさわれる、プログラミングが組める」という楽しさをそのまま持ち続けて、大人になった方だから、天才だけれど子供の様な所もあり、そこを大切にして演じたいなと思いました。本当に不思議な魅力を持っている方なんですよね。今お会いしたらどんな方なんだろうって。

松本:時々考えるんですよね。今お会いしたらどうなんだろうって。すごく近くに感じていますけど、会ったことが無いんですよね。金子さんがこの映画を観てくれたらどう思うんだろうって、よく思います。

――金子さんのお姉さんは映画をご覧になっているのですか?

松本:本当に喜んでくれて、映画を観た後に泣かれていたので、安心しました。お姉さんは金子さんが無罪に7年間、とても苦しい生活をされていたと思います。そこには僕たちには計り知れない苦悩があったはずで。今でも何となく「悪いことをした人」というイメージがある方も、無罪になったことを知らない方もたくさんいるので。この映画を通して少しでも真実を知ってくれたら、名誉の回復という意味でも、少しでも力になれたのかなと思います。

第一審で有罪になった時に150万円を支払えば、プログラミングが続けられたのに、その道を選ばずに戦い続けた。そこに彼のメッセージが詰まっていると感じたので、そこを映画で伝えたいというのは、作り手として強く意識しました。

――最後に金子さんご本人の映像が流れますが、感慨深いものがあるというか、素晴らしい演出だなと思いました。

東出:最後にあの映像が流れるということは確か台本になかったので、完成した作品を観た時にびっくりしたのですが、金子さん本人の声とメッセージを聞けるというのは本当に有意義だなと。

松本:台本には「ニコニコ動画の映像が流れる」とだけ書いていたんですよね。実際にあの映像を入れるかどうかは編集ですごく悩みました。役者さんにとっては嫌だと思うんですね。「答え合わせ」をされている感じというか。でも、撮影・編集をしていくうちに答え合わせをされても大丈夫だなと思ったんです。そして、東出さんが今おっしゃった様に、金子さんが残してくれた言葉はちゃんと出さないといけないと思ったので。

――ああいった映像が残っていることも貴重ですよね。本作は、緊張感のあるシーンと和やかなシーンの緩急も素敵だなと思ったのですが、実際の撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?

東出:とても和気藹々とした現場で、壇先生もつきっきりというくらい現場にいらっしゃって。クランクイン前に、壇先生と三浦(貴大)さんと僕で食事や飲みに何度か行かせてもらって。壇先生もすごく個性的な方で、「明日地球が滅びるとしたら、壇俊光は何を食べると思う?」と三浦さんに質問されていて、「う〜ん、寿司とか?」と三浦さんが答えたら、「違う。壇俊光は最後の最後まであきらめないので、飯を食っている時間はありません」と。質問と変わっているじゃんと(笑)。金子さんともそんなやりとりをしていたんだろうなと感じました。

松本:本当に面白い方ですよね。脚本を書いていく中で、僕が感じた金子さんの印象と、壇さんが感じていた金子さんの印象が違うこともあったので、「こうだと思います!」「いや違うと思う」と話し合うこともあったり、いちスタッフとして参加してくださった様な感じです。

――三浦さんのお芝居も本当に素敵ですよね。東出さんは同世代の俳優さんだと思いますが、三浦さんから刺激を受けた部分はありますか?

東出:関西出身じゃない方は関西弁のセリフって嫌がると思うのですが、そんなことはまるで感じない、ハードルにしならないお芝居ですよね。そして、裁判シーンってセリフも専門用語も多いので難しいと思うのですが、堂々たる壇先生になっていました。模擬裁判をやった時の目線の動かし方、主張の仕方を完コピなさっていて。壇先生も「自分がカッコよくなってる」って喜んでいました(笑)。共演者の皆さんが本当に素晴らしくて、吹越満さんと渡辺いっけいさんのシーンも見ていて迫力がすごかったです。リハーサルからバチバチで。

松本:お2人が醸し出してくれる緊張感のある雰囲気が、実際に舞台を観ている様な迫力でしたし、映画のとても良い作用をしてくれたと思います。映画を作る前に裁判の傍聴に足を運んだのですが、裁判ってその人の人生がかかっているので、ものすごい緊張感なわけですよね。その空気を映画の撮影でも見れた気がしていて。一人の技術者の未来がかかっている裁判、答弁、実際の裁判の様な緊張が見れて、僕自身も驚きました。吹越さんは、演じられた秋田先生の書籍を読んだり、たくさん研究してくださっていて。研究しないとあの演技は出来ないですよね。

東出:吹越さん本当にすごかったですよね。小さな所作を色々演技に取り入れてみたとしても、映画としてつながらないと意味がないから、吹越さんはすべてを綿密に計算している感じがして。

松本:いきなり立って、みんなが立ったら、自分は座る、みたいな、吹越さんが考える秋田さん像をどんどん取り入れさせていただきました。引き出しが素晴らしかったです。実際に秋田先生も映画を観て、すごく喜んでくださったので、似ている部分もあったと思います。そして渡辺いっけいさんも見ていてしびれましたね。一つ一つの目線の動き方というか。

東出:実際はとても優しい方なのですが、現場では怖くて話し掛けられないほどの迫力なんですよね。

――皆川猿時さん演じる桂先生をはじめ、弁護団の雰囲気がとても好きです。

松本:壇さんと桂さんが実際に話している所って、本当に映画の中の2人のまんまというか、漫才っぽいんですよね。裁判中も、ずっと重苦しい雰囲気だったわけではなくて、楽しい雰囲気の時もあった様なので。その柔らかい空気は皆川さんのお芝居によって作れたと思います。

――改めてになってしまいますが、お2人が本作で一番苦労した点、大変だったことを教えてください。

東出:最後法廷で話すシーンで、僕の寄りからはじまる場面だったのですが、良い芝居したいという気負いがあったんです。監督はOKをくださったけれど、「今の気負い空回りしていたかな」という不安があって。その後同じ場面で別のアングルから撮影した時に、僕の中でそちらの芝居の方が手応えがあって。普段はそういったことを全く言わないのですが、その時は監督に「もう一回さっきのシーンを撮らせてください」とお願いをして。でも、それは良くないんですよね。良い芝居したいとずっと準備してきているのに、それが出来ない。映画は監督のものなので、監督がOKといったらOKなのですが、ずっと粘ってしまう、もがいてしまう自分がいました。

松本:そのシーンは後で見返して、最初のカットを使ったんですよね。東出さんの中では色々感じる事も多かったと思いますが、僕は自信を持って良い芝居だと言えるシーンになっています。

撮影全体と通していうと、これまでに無いほどの緊張感を感じていましたし、そうしないといけないなという責任を感じていました。これだけたくさんの方が真摯に向き合ってくれたので、それを適当な映画にしてしまったら、今後映画を作ってはいけないなと思うほどでした。観客の皆さんがどう感じてくださるか分からないですが、自分の中で納得する、自信のある映画が作れたと思っています。

――本当に素晴らしい映画をありがとうございます。映画の中で、金子さんは飛行機や宇宙がお好きで、壇先生は戦闘機がお好きで。2人が好きなものを語り合うシーンもとても好きでした。お2人がそうやって夢中になるものはありますか?

東出:動物、生き物です。人間以外の。これ言うと恐いですね(笑)。

松本:僕は映画しかないんですよね。

東出:すごい!子供の頃からですか?

松本:物心ついた時からだと思います。松本優作の優作という名前も、親が松田優作さんが好きでつけてくれて。子供の頃は他にもたくさん好きなことがありましたが。今は映画だけ。それを職業にしているのが良いのか悪いのか分かりませんが、人生をかけても良いと思えるほど好きなことが見つかったのは幸せだなと思いますね。映画って深いので、宇宙の様に一生のうちに理解することは出来ないんじゃないかと。だから、金子さんと同じ部分を感じられた部分はそこなんです。映画を一生かけて追求していきたいです。

――今日は本当に素敵なお話をありがとうございました!

撮影:オサダコウジ

『Winny』大ヒット上映中
監督・脚本:松本優作
出演:東出昌大 三浦貴大
皆川猿時 和田正人 木竜麻生 池田大
金子大地 阿部進之介 渋川清彦 田村泰二郎
渡辺いっけい / 吉田羊 吹越満
吉岡秀隆
企 画: 古橋智史 and pictures 
プロデューサー:伊藤主税 藤井宏二 金山
撮影・脚本:岸建太朗 照明:玉川直人 
録音:伊藤裕規 ラインプロデューサー:中島裕作 
助監督:杉岡知哉
衣裳:川本誠子 梶原夏帆 ヘアメイク:板垣実和 装飾:有村謙志 
制作担当:今井尚道 原田博志 キャスティング:伊藤尚哉
編集:田巻源太 音響効果:岡瀬晶彦 音楽プロデューサー:田井モトヨシ 
音楽:Teje×田井千里
制作プロダクション:Libertas 制作協力:and pictures 
配給:KDDI ナカチカ 宣伝:ナカチカ FINOR
製作:映画「Winny」製作委員会(KDDI Libertas オールドブリッジスタジオ TIME ナカチカ ライツキューブ)
原 案: 朝日新聞 2020年3月8日記事 記者:渡辺淳基
2023 │ 127min │ color │ CinemaScope │ 5.1ch 
(C)2023映画「Winny」製作委員会

情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 『Winny』松本優作監督&東出昌大インタビュー「この映画をきっかけに事件のことを知って、調べてくれると嬉しいなと思います」