本年度の大阪アジアン映画祭にて「来るべき才能賞」を受賞した話題作『世界は僕らに気づかない』が2023年1月13日(金)より新宿シネマカリテ、Bunkamura ル・シネマほかにて公開中です。

本作は、トランスジェンダーである自らの経験を元に制作した『僕らの未来』が国内外で注目を集め、昨年1月公開の『フタリノセカイ』で商業デビューを果たした飯塚花笑監督が、レプロエンタテインメント主催の映画製作プロジェクト「感動シネマアワード」にて製作したオリジナル長編第五作。群馬県太田市で、フィリピンパブに勤めるフィリピン人の母親レイナ(ガウ)とフィリピンダブルの高校生・純悟(堀家一希)のアイデンティティや愛をめぐる問題を描いています。

今回は、堀家一希さん、ガウさんのお2人に作品の魅力について、撮影の思い出について、お話を伺いました。

――本作、大変素晴らしかったです。ありがとうございます。お2人が演じる母と息子の空気感が本当に絶妙でしたが、第一印象から、撮影を経てどの様な変化があったのか教えていただけますか?

堀家:ガウさんは絶対僕のこと、生意気と思っていらっしゃったかと…(笑)。

ガウ:そうなんですよ(笑)。というのも、(堀家さんは)最初から役に入り込んでいたので。私はどの現場に行っても最初は雑談、楽しいおしゃべりからはじめるのですが、堀家さんは純悟になりきっていたので、プライベートの会話は一言、二言だけ。最初は、私としては、「えー!冷たいんじゃないの?」って思ったんですよ。コミュニケーションとれなかったら、親子役になれないんじゃないの?と。でも、今は、撮影前や撮影中の期間に仲良くならなくて良かったと思っています。純悟とレイナはお互い複雑な想いを抱えているから、仲良くなっていたら、変な遠慮が生まれていたと思う。

――今は本当に仲良しで、あたたかい空気が流れているので意外でした。

堀家:撮影の時とは全然違いますよね。わざと距離を置いていました。お母さん(レイナ)が周りとワイワイ楽しそうに話している姿を、純悟はどう見ているのだろう?と自分の中でも体験してみたかったし、仲良くしてしまうと全てそれが“解けて”しまいそうだったので。ガウさんはとにかくパワフルで、知識が豊富で、最初にお話した時からとても惹き込まれる方だなと思いました。

――まず最初に脚本を読んだ時、企画を聞いた時はどの様に感じられましたか?

堀家:最初にいただいた脚本は、完成した映画と少し違っていて、優助というキャラクターの話がもっと多かったんです。でも、脚本が変わっていっても、飯塚監督が描く人物像には変わらないあたたかさがあって。こんな素晴らしい脚本を、僕が演じることで台無しにしてしまわないかというプレッシャーをすごく感じました。この映画に関わることが出来る楽しみもあり、緊張もあるという感情でした。

ガウ:脚本を読んだ時に、純悟の複雑な心境が伝わってきて。フィリピンと日本人のミックスであり、トランスジェンダーである。最初は、観客の皆さんがどこに焦点を置いて観るのだろう?と気になったんですね。でも、映画を観た時に、私が心配していたことは「余計なお世話だったな」と思いました。観た方がそれぞれ、ディベート出来る部分を見つけてくれるんだろうなって。答えはないんだよね。純悟が幸せになるのかどうか。観てくれる方にだって色々な悩みがあって、そんな時に「僕、私だけじゃないんだ」と感じてもらえる作品だと感じました。

――本当にその通りだと思います。作品に入る前、何か本を読んだりだとか、学ばれたことはありましたか?

堀家:飯塚さんに「フィリピンパブ嬢の社会学」という本を貸してもらったり、フィリピンダブルの方の本、LGBTQ当事者のお話を聞いたりしました。

ガウ:あと、飯塚さんとフィリピンパブも行ったんだよね?

堀家:群馬の高崎のお店に行かせていただきました。実際にお話を聞いたり、本を読んだりしたことで、台本にあったフィリピンのお母さん像というものが明確に見えてくる感覚はありました。

ガウ:私は本は読まないで、現場で学ぶタイプです(笑)。もともと、フィリピンの知り合いも周りに多いし、お店を持っている方も多いんですね。今回私が演じたレイナという役は、明るくて、パワフルで、一人息子を頑張って育てている。私が、レイナに近いなと感じている、新宿のバーのママさんの仕草や話し方を観察していました。そのママも変なお客さんの対応をしなくちゃいけない時があって、泣いていたこともあったから、そういう部分もレイナに重なって。何回か飲みに行きましたね。

――本作は色々な愛を描いた作品だと思います。大きな質問になるかもしれませんが、「愛」って何なのか、作品を通して考えられたりはしましたか?

堀家:愛って本当に色々な形があって、シーンごとに考えました。純悟から母親への愛って、「向き合って欲しい愛」だったり。だから怒鳴ってしまったり、自分のことを知って欲しいとついぶつかってしまう。

ガウ:愛の形も色々だし、伝え方も色々で、口に出せば良いってわけではないんだなって。私は父がスコットランド人、母がフィリピン人というルーツを持っているので、「愛しているよ」と口に出すことも多いですし、ハグやキスもよくするんですね。でも、レイナの様にそういうルーツを持っていて、日本にきて、みんなにハグやキスをしたら驚かれてしまう。特に思春期の男の子になんて。放っておくことが愛なのか、構うことが愛なのか、って分からない。それって答えの無いことなんだなと思いましたから、一回自分の中で感情を落とし込むこと。冷静になることが大切なのかなと思いました。

堀家:“今は”放っておいてほしい、今はそうじゃないって、受け取る側の気持ちもありますものね。愛って難しいんですけど、相手にどうして欲しいか考えることも必要だなって。

ガウ:お互いに愛があるからこそ起こってしまう反発ってじれったいけれど、そういうことってよくあるし、深い作品だなって心から思います。

――本作を経験して、学んだこと、今後に活かしたいことを教えてください。

堀家:どの作品でも、役柄によって、アプローチやアクションは変わってくるものですが、本作では自分の内面を出すお芝居をしたことが良い経験になりましたし、感情を爆発させるシーンも出来るんだ、と自信にもつながりました。今後は、その感情的な部分をすぐに出せる様にする努力が必要だなと感じました。

ガウ:怒っているシーンが本当に多かったから、撮影が終わった後、みんなが「あれ、堀家さん、笑ってる!」って驚いていました(笑)。そのくらい、純悟だったから。私は、本作で久しぶりの演技だったこともあって、色々と悩むことが多かったです。でも、監督や皆さんのおかげで、レイナに入り込むことが出来たんですね。だからたくさんの方に観ていただきたいですし、本作で描かれている様な、悩みを抱えている日本在住のフィリピンの方の気持ちを応援出来たら良いなと思っています。

――今日は本当に素敵なお話をありがとうございました。

撮影:オサダコウジ

https://sekaboku.lespros.co.jp

(C)「世界は僕らに気づかない」製作委員会

情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 『世界は僕らに気づかない』堀家一希&ガウ インタビュー「愛って本当に色々な形があって、シーンごとに考えました」