近代の傑作映画たちの制作背景や、その内容を紐解くイギリスのドキュメンタリー『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』が、6/10(金)より公開となります。

本作はスコットランドのドキュメンタリー監督マーク・カズンズによる、2010年〜2021年に公開された傑作映画111作品に焦点を当てたドキュメンタリー。これまでの人生で「きちんと数えた事が無いから具体な数字は分からないけれど恐らく、約1,6000作品以上は観ていると思うな。この10年の間だと、約3,600作品くらいかな。365日毎日欠かさず映画を観ているよ」と並々ならぬ映画への想いを明かす監督自らが本編のナレーションを務める本作。

独自の視点で大ヒットディズニー作品『アナと雪の女王』や、社会現象にもなった『ジョーカー』等メジャー大作からアピチャッポン・ウィーラセタクン監督『光の墓』、アリ・アスター監督作『ミッドサマー』等のインディペンデント作品まで、ジャンルを問わず、近年の映画史を紐解いてきます。マーク・カズンズ監督に直接お話を伺いました!

――本作とても楽しく拝見させていただきました。何度も聞かれている質問だと思うのですが…相当な時間をかけて制作されていますよね?

100時間×何百、ですかね。時間をかなり費やしています。「映画を観る」ということは、この作品作りをしていなくても毎日していることなので、一番の楽しみであって苦ではありません。しかし、膨大な数のクリップを分類して、並べ替えをして、そこにどんな解説をつけるかということに時間がかかりますね。

――例えば「コメディ」から「アクション」へパートが移る時に“つなぎ”に使われている作品のチョイスが面白いなと思いました。

おっしゃるとおり、これがある意味私にとっての脚本なんですね。編集という作業は魔法の様なもので、作品をつなぎ合わせると、その2本の作品同志が会話を始める様な、予期していなかったことが起きてくるんです。

――普段映画をご覧になっている時から、そういった映画同士のつながりについて考えていますか?

普段映画を観ている時は、全く仕事モードはゼロで、子供の様な気持ちで、「どう驚かせてくれるんだろう」とワクワクしています。同時に畏敬の念を抱いています。「ヴァイオリンを奏でる様に」こちらも映画に乗せられて、身を委ねて、楽しみたい。2時間でこの映画が自分に何をもたらすのか、完全に身を任せているんだ。

――毎日映画を観ていると……監督にとってつまらなかった映画もあると思うのですがいかがですか?

木であったり、夕焼けであったり、ニワトリかもしれないけど、その映画に観るべきものは必ずあると思っています。……とはいえ、あまりにも観るに耐えない作品だったら映画館を出ます。外には木も夕焼けもあるわけだから(笑)。映画は「常に自分の先を行っていて欲しい」ので、私にとってつまらない映画というのは、先が見える映画のことです。偉大なるフランスの映画監督であロベール・ブレッソンさんの言葉で、「監督なり作り手がいなければ、他の人は観る機会が無い。あなたがその映像を作らなければ、他の人はそれを観る事は無いだろう(なので作品を作る)※」というものがあるけれど、その通りだと思う。

※原文:「make visible what without you」

――本作はマークさんの映画愛はもちろん、映画監督やスタッフさん、作り手へのリスペクトに溢れていますよね。

35年間この仕事をしてきて、たくさんの映画監督に出会ったけれど、映画を作るということは本当に大変な仕事ですよね。長い時間をかけて作って、そこから「どう評価されるか」を気にしなくてはいけない。そして複数の方が関わって作られているということは認識しないといけない。エンドクレジットで“film by ◯◯”という出方をする映画がありますが、私はそれをしません。「映画を一人で作った」という考えは非常に危ない。映画はたくさんの人の協力があって完成するものだから。

映画はまだ130年しか歴史の無い、若い芸術表現ですよね。今は映画界に色々な国の方、女性、若い方が参戦していて、これはとても良いことですよね。映画が一次元では無くて、重層の次元で作られるということだから。より多様な映画が生まれて欲しいと思っていますし、今後イマジネーションの火山噴火が起こるのではないかと思っていますし、噴火が起これば起これば良いと僕は思います。

▲これまで膨大な量の映画を見てきた中でも「一番好きな映画は?」と質問をされた時は、いつも今村昌平監督の『にっぽん昆虫記』(63)を挙げています」というマーク監督。腕には「田中絹代」さんのサインがタトゥーに!

「ガジェット通信」読者にオススメの映画を聞いてみた!

ここで、マーク・カズンズ監督に「ガジェット通信読者はアメコミ作品、SF、特撮、アニメ…『マッドマックス怒りのデス・ロード』の様なアクション作品が好きです」という情報だけをお伝えして、「観るべき映画」をレコメンドしていただきました! 監督、無茶振りすみませんでした&ありがとうございました!!

◆『ニノチカ』(1939)エルンスト・ルビッチ監督
エンタメ度が超高いという作品ではなく、読者の方がわかりやすく好きな作品ではないと思うのですが、あえて選びました。ソビエト連邦を風刺したコメディです。

◆『シェルブールの雨傘』(1964)ジャック・ドゥミ監督
とにかく美しい! 読者の方はもしかして大嫌いな作品かもしれないけれど、一度チャレンジしていただきたい映画。『マッドマックス怒りのデス・ロード』と真逆の映画の様に見えて、オペラチックな作品という共通点があります。

◆『侠女』(1971)キン・フー監督
荘厳なる、史上最も美しいアクション映画かもしれないですね。西洋のアクション映画はアクションに完全に振り切った作品が多いけれども、東洋の作品はアクションとアクションじゃ無い部分のバランスが素晴らしい。

◆『炎』原題:Sholay (1975) ラメーシュ・シッピー監督
映画配信サービスJAIHO(https://www.jaiho.jp/)にて、8月プレミア独占配信予定。ハリウッドでも活躍するインドの名優アミターブ・バッチャン主演作。西部劇を豊富とさせる警察と盗賊との戦いをアクションたっぷりで描く。当時のインド歴代最高興行成績を記録し、アミターブ・バッチャンをスター俳優へと押し上げた一作。公開から47年が経過する現在も多くのインド人に愛されている作品であり、2019年にはインドのアカデミー賞と呼ばれる「フィルムフェア賞」で「ベスト・フィルム・オブ50イヤー」を受賞している。また、イギリスのテレビ局BBCにて「千年に1度の映画」と評された。

情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 “365日欠かさず映画を観る男”が紡ぐドキュメンタリー『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』ガジェ通読者にオススメの映画も聞いてみた!