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どうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
中学生のころ、地元のヤクザとのかかわりを持つ先輩たちが筆者たち下級生を呼び出して、「いいものを食わせてもらった話」や「いい車に乗せてもらった話」を自慢げに話していたことがありました。
当時を振り返ると、“いいものを食わせてもらった”といってもファミレスや安い居酒屋なんかで腹一杯になった、“いい車”といっても所詮は中坊、改造した二束三文の古いクラウンだったりするわけです。
それでも中学生ですから、まだ見ぬ果てしない大人の世界を垣間見たような感じになって、悦に入る先輩たちの気持ちがわからないわけではないんですよね。しかし、これがヤクザの若い衆として育てるために手なずけられていたとすれば、非常に恐ろしいことです。
今回は、見どころのある不良中学生の世話をして育て、自分たちヤクザの使いパシリにするためのトレーニングを行ってきたという元広域暴力団構成員のE氏(55歳)に、子供たちをワルに教育し、手足として使える半グレ要員に要請する「ヤクザトレーナー」の仕事についてお聞きしました。
取材場所は某駅前の居酒屋。スエット姿、でっぷりと突き出たビール腹に無精ひげで現れたE氏は、名刺を切りながら挨拶をし、テーブルに届いたレモンサワーに口をつけました。切られた名刺には《政治結社》の文字がありました。
丸野(以下、丸)「ヤクザ育成トレーナーというのはどのようなことを?」
E氏「まぁ、若いやつは勢いがあってええ。後先考えずに動き回るさかいに、ヤクザのオレらにはちょうどいい連中やということやね。目をつけるのは、中学生くらいのときからかな。連中の先輩らも元々面倒を看てやってる子らやから、後輩を連れてきおる。顔なじみになるには一定期間がいるけど、何度か顔を出しにきたら見どころがあるということや。だから、まずはオレの目の前で飯を食わせてやる」
丸「ほほう、どこかへ連れて行ってやるわけですか」
E氏「中学生なんかはガストで充分。連れてきた先輩と3人で飯を食って、支払いの金だけ置いて帰る。オレはそんなところで食わないから、ビールだけ飲んでも2千円もありゃ事足りるよ」
丸「金だけポーンと置いて帰るっていうのが、大人だと思わせるポイントなんですか?」
E氏「まぁ、どうかね。子供の話なんてつまらんし、オレの前に座っても緊張したまま、なにも話さないし。先輩だけが話してる感じやわな」
丸「相手の男の子は、Eさんがヤクザだということに気がついていないんですか?」
E氏「その子らは気がついてないやろ。初めには言わんから……。先輩たちは、事故を起こせば示談屋を紹介してやったり、なにかトラブルがあったらうちの若いもんが解決しに行ったりするわけや。それで借りができて、頭が上がらんようになる」
正直、E氏はやはりその立場相応の異様な空気感を醸し出していました。あまり関わり合いになりたくないというのが本音です。
丸「子供たちを手なずけて、《半グレ予備軍》にするヤクザというのは他にもいるんですか?」
E氏「当然、いる。今じゃヤクザのなり手が少ないからできるだけ、チビらに取り入って不良に育て上げ、仕事の手伝いをさせる手を使うヤクザはいるよ。全国にいるんちゃうかな」
丸「それからは、どのように?」
E氏「とにかくひとつの場所を作ってやる。マンションの一室でもいいし、テナントの一室でもええ。若い連中がいつでも立ち寄れる《たまり場》を作ってやることやな。家の中では家族不和、学校でも落ちこぼれで爪はじき、じゃあどうする? そんな連中が集まって時間を潰したり、遊べる場所を提供してやることや」
丸「なるほど」
E氏「ジュースやお菓子、酒、エロ本やら漫画やら置いてやってたら、そこがあいつらにとっての唯一無二の場所になる。行き場所がない連中をそこに集結、行き場があるやつはそこには溜まらん。寄る辺のないやつを束ねられる」
丸「その頃には、Eさんが暴力団の人間だということは全員知っていたでしょう?」
E氏「そやね、知ってたよ。でも、ネグレクトで面倒を看てくれない両親の代わりに、連中の兄弟を遊園地に連れて行ってやったり、プレゼントでも買ってやれと小遣いを渡してやったりすると、やっぱり相手側にも情が湧く。社会の誰も相手にしてくれん、不良の面倒をしっかりと親身になって看てくれるとなれば、《義理人情》が芽生えるのも時間の問題や」
丸「となると……」
E氏「ちょっと手伝ってくれ、とアゴで使える兵隊にできる。それから、そいつらが17、18歳になったら、借金してる一般の中小企業にイタズラ電話やら社長宅にビール瓶を投げ込んだりやとかムチャさせられる。たまり場に女連れてきて風俗に沈めたり、覚醒剤の運び屋やらせたりと小遣い銭でなんでもやってくれるからな」
丸「でも、全員が全員言うこと聞くものでもないでしょう?」
E氏「そのときには、仲間同士でクンロク(※殴る、蹴るなどリンチの意味)入れさせる。おかしな動きをしているやつの情報も密告させたりするから、みんな疑心暗鬼になってな」
丸「まるで、日本赤軍(※1960~80年代にかけて武力闘争を起こした日本の新左翼系国際極左テロ組織)の手口みたいですね」
E氏「誰かが監視している、誰かが密告するというのが一番足抜けできない箍(たが)になる。連中は、立派な《生粋の半グレ集団》を組織し、ヤクザの手足として、みかじめ料の回収やら取り立て、シマ荒らしへの報復、詐欺・強盗・傷害事件の身代わり、違法営業の飲食店への名義貸しなんかも率先してやってくれる。小さい中学生やった連中が、もう面構えも変わって悪の道を突き進みよる。暴力団にとっては使い勝手のいい若い衆になるわけよ」
丸「でも、さすがに逃げ出す子もいるんじゃないですか?」
E氏「(オレが)いきなり激怒して暴れ出したり、そこらの動物を嬲り殺しにしたりしている(のを知ってる)と、みんな口をつぐむわ、そりゃ。それに殺人のことをほのめかしたりもしてるから、誰も逆らえん。全員、オレに逆らえばどんな仕打ちが待っているか……と考えとるわ」
暴対法施行のあと、暴力団への規制が厳しくなり、シノギの種類も激減したことは周知の事実です。そこで、暴力団は身動きが取れない中で、資金源を確保するために半グレ集団を飼いならしたり、育成したりする流れが強まっています。
頼るところのない半グレ少年たちはこれらの組織に利用されて、ごくわずかの賃金で薬物売買や強盗、詐欺、暴行などの犯罪を行うための道具にされています。
実態をつかめない半グレ集団の成り立ちは、決して横のつながりだけで成立しているわけではなく、暴力団員に世話をしてもらい、なし崩しに「頼ってしまう」という流れがあることも知っていただきたい事実です。
(C)写真AC
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(執筆者: 丸野裕行)