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韓国歴代興収10位、日本でも親子愛に号泣する観客が続出したヒット作『7番房の奇跡』(13)のイ・ファンギョン監督待望の最新作、『偽りの隣人 ある諜報員の告白』が公開中です。2020年12月の韓国公開時に初登場1位を獲得した大ヒット作で、韓国現代史における軍事独裁政権と民主化運動の対立をモチーフに、「なぜ韓国では民主化が遅れ、多数の犠牲者が出たのか」という疑問と静かな怒りを投影したヒューマン・サスペンスです。1970年生まれのイ・ファンギョン監督が、多感な少年時代に経験した1985年が物語の舞台。本作に込めた想い、そして韓国映画界の今を聞きました。
■公式サイト:https://itsuwari-rinjin.com/ [リンク]
■ストーリー
1985年、国家による弾圧が激しさを増す中、次期大統領選に出馬するため帰国した野党政治家イ・ウィシク(オ・ダルス)は空港に到着するなり国家安全政策部により逮捕され、自宅軟禁を余儀なくされた。諜報機関はウィシクを監視するため、当時左遷されていたものの愛国心だけは人一倍強いユ・デグォン(チョン・ウ)を監視チームのリーダーに抜擢。デグォンは隣家に住み込み、24時間体制の監視任務に就くことになった。機密情報を入手するため盗聴器を仕掛けたデグォンだったが、家族を愛し、国民の平和と平等を真に願うウィシクの声を聞き続けるうちに、上層部に疑問を持ち始める。そんな矢先ウィシクとその家族に命の危険が迫っていた……。
●この映画は監督の少年時代である1985年が物語の舞台になっていますね。当時から疑問に思っていたのでしょうか?
その当時はまだ幼かったので歴史的な事件のことをよく理解していなかったのですが、後々事件のことについて考えてみたところ、本当に怖い話だと思うようになりました。しかも当時の事件を思い出すと、実は怖いという気持ちを超えて、もはや話にならないような、あり得ないようなコメディーなのではないか、とも思うようになりました。
つまり、心は痛みますが、笑うしかないような状態なのだということに気づいたので、これは映画として作れば、楽しいモチーフになるのではないかと思い、この映画を撮ることになりました。
●その笑うしかないような出来事を、見事なヒューマン・サスペンスとして作られましたが、映画を撮ったことで改めての発見はありしたか?
階級や政治の物語を映画の中で扱いましたが、権力があるかないか、お金があるかないかはさておいて、人と人が誠意を持って向かいあい、お互いに情を感じれば、通じ合えるのだというこを知りました。また、いい人はいい人を見抜くということも、です。なのでこの映画を撮ったことで、人への信頼が確固たるものになりました。
●その人間の真理みたいなものを主演のチョン・ウさんやオ・ダルスさんが、演技として表現されていたと思いますが、どう演出をしたのですか?
このふたりは数十年前からよく知っている気心の知れた俳優たちであり、それ以前に人と人としてのお互いに信頼関係がありました。なので今回、シナリオを書く時もあて書きであり、ふたりのことを頭に思い浮かべながら書きました。本当に人柄もよくて、性格もいい方たちなので、演出をする時にもふたりが持っている人柄や性格をそのまま作品に投影して演技をしてくださいとお願いをしました。純粋で優しい感情を持っているふたりなので、そういうディレクションが功を奏しました。
●素顔も素晴らしい人たちなのですね!
あのふたりは街の近所の弟、近所のおじさん、もはや一般の人という印象で、たとえて言うなら、古い食堂に行ってご飯を一緒に食べるとか、市場に行ってそこで買ったものをその場で食べるとか、そういう間柄というか本当に気の置けない感じの人たちですね。そういうふたりと一緒に作品を作れることはとっても幸せなことです。
●ジャンルで言うとヒューマン・スサスペンスだと思いますが、最後まで引き込まれるパワフルな作風が素晴らしいですよね。いい作品を作るコツは何でしょうか?
ありがとうございます。わたしには物事を違う角度で観るクセがあり、これは重いテーマですと言われても、それをコメディー視点で受け入れるとか、そういうことを普段からしているんですよね。仮にたいしたことがないと思えるようなストーリーでも、サスペンスになりえるのだと、思ってしまうんです。
重いものでもコメディーになりえるモノの見方が、わたしの中にあるような気がしています。子どもの頃からそういうクセがあったので、わたしの作品にはそういう視点が入っていると思います。
●せっかくなのでそちらのお話もうかがいたいです。コロナ禍の映画界への影響はいかがでしょうか。以前のようには動員数も戻らず、厳しい状況でしょうか?
韓国でこの映画が公開された時もコロナの状況が続いていたので、本来であれば観客が大勢で一緒に観て、泣いて笑って、怖いシーンでは叫びながらという、そういう体験が可能な環境が整っていればよかったのですが、なかなかそういう状況には恵まれなかったです。本来であればそういう状況で楽しんでほしいと願っていたのですが、韓国でも席を空けて鑑賞しなければいけない。座席も最小限に抑えられていたので、観に来た観客も楽しい感情を表にすることが難しい状況でした。なので本質的な部分で映画が楽しめる状況にないということは、韓国もやはり同じですね。
これから日本で公開されると思いますが、少しでもコロナの状況が解消され、楽しめるようないい状況の中で、みなさんに観ていただけたらいいなと思っています。韓国では映画市場は厳しいものがありますね。
●やはり市場は厳しいのですね。韓国映画界は日本のそれに比べ、潤っているようなこと見聞きしたような気がするのですが、やはりそうではない?
必ずしもそうではないですね(笑)。アーティストの人生というものは、いつも潤沢なものではないですね。今韓国の映画市場を見ても、どの監督たちも苦労していて、辛い状況の方々も少なくないです。わたしの場合は『7番房の奇跡』(13)が成功しましたが、その後でさえも出資を募ることが大変で、映画を一本撮るとなると、初めてスタートするような気分です。本当に映画を作ることは楽なことではありませんし、韓国の映画市場も今はあまりよいとは言えません。
●コロナ禍おいておいて、業界全体の課題はありますか?
韓国では映画を観る環境が多様化してきたことでしょうね。昔は映画館で映画を観るものでしたが、今はネットフリックスを始めとした動画配信サービスがどんどん韓国に入ってきているので、そういう人たちとどういう風にコラボしたらいいのか、それもひとつの課題になりますね。映画を観られる環境が増えた分、これからの方向性をどういう風に持って行けばいいのか、そこも悩みではあります。新しいパラダイムが生まれたわけですので、映画やドラマもどんどん変わっていくと思うのですが、その変化にどう対応して行くかもひとつのい大きな悩みだろうと思います。
●今日は素敵なお話をありがとうございました!今後も楽しみにしています!
これからも大人が夢を見られるような、楽しめてサスペンスがあり、ヒューマンドラマがあり、コメディーでありサスペンスである、そういう作品を作っていきたいです。
公開中
2020年/韓国/韓国語/130分/シネスコ/5.1ch/原題:이웃사촌 /英題:BEST FRIEND /日本語字幕:安河内真純/提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム
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(執筆者: ときたたかし)