インタビュー相手がヒトラーの扮装をしていることはこれが初めてである。

特徴的なちょび髭を着け、髪をなでつけ、軍服に身を包んで、朗らかにZoomインタビューに応じてくれたのは、日本在住ドイツ人のセバスチャン・スタイン監督だ。彼の突飛なアイデアから生まれ、自身もヒトラー役で出演した映画『アフリカン・カンフー・ナチス』は、二度見必至のタイトルとあらすじでネットを中心に話題を呼び、6月12日よりまさかの劇場公開がなされる。

同作は、ガーナのカンフー青年とヒトラーたちとの戦いを描く物語。第二次世界大戦後に密かに生き残っていたヒトラーと東條英機が亡命先のガーナを制圧し、地元の人々を“ガーナ・アーリア人”として洗脳、世界征服のための最強武闘会を開催する。地元のカンフー道場を潰され、最愛の女性を奪われた青年が、厳しい修行のもと最強のカンフーを習得して復讐にのぞむ。

セバスチャン・スタイン監督は日本在住16年。日本語もしゃべれないままワーキングホリデーで日本へとやってきて、映像制作の仕事をこなす傍ら、ドイツ人エキストラとしてゴールデンタイムのテレビ番組や有名映画にも出演してきた経歴を持つ。日本に残った理由は「自分でも全然分からない(笑)」と、すっかり堪能になった日本語で教えてくれた。

本作の“アフリカ”と“カンフー”と“ナチス”。逆立ちしても思いつかない組み合わせだが、一体どのようにしてこのアイデアが生まれたのだろうか。

スタイン監督「二日酔いでコンビニまで歩いてるときに、このキーワードがふと頭に浮かんで、歩きながらひとりでずっと笑ってたんですよ(笑)。周りにいた人は「この人バカだなー」と思ってただろうけど(笑)。カンフー映画がもともと好きだったのと、アフリカには興味があったのと、そして僕はドイツ人だからナチスですね。でも二日酔いでこの3つのキーワードを思い浮かべてるとき、まさかいずれ日本の映画館でその映画がかかるなんて思わないじゃないですか? 自分でもびっくりしました。本当に考えられないことですよ。

(映画の完成まで)すべてがステップ・バイ・ステップでしたけど、すべてのステップで「ここで終わりかな」と思っていました。ここで終わりだ、ここでもう無理だ、と思っていた。でもそれが続いていったんです。「ここまで来たからもうちょっと頑張ろう」「もうちょっと頑張ろう」それが続いていって、日本での公開にこぎつけました。まだちょっと夢だと思っているくらいです。もう信じられませんよ!」

ガーナでの撮影は“トラブルだらけのカオス状態”

映像制作の仕事でドキュメンタリー制作の経験はあったが、こういった映画の制作は初めてだったというスタイン監督。思い浮かんだキーワードをもとに台本を書こうとするも、まったくの未経験だったため、インターネットでテンプレートをダウンロードすることから始めた。「やったことがないから、とにかく挑戦してみようと思った」という。

結果的に台本はたった2日という早さで書き上げたものの、そこからが長い道のりとなる。なにしろ監督は、アフリカに赴いて現地の制作スタッフ・キャストたちと映画を作ることを決めていたのだ。アフリカの制作会社に片っ端からアタックし、ガーナでは誰でも知っているという映画監督“ニンジャマン”と映画を作ることになる。しかし、撮影から完成まですべての工程が「トラブルだらけのカオス状態だった」と監督は振り返る。

スタイン監督「毎日トラブル! もうトラブルしか無いです(笑)。まず誰も時間を守らないです。朝7時から撮影を始めよう!と言って、集まったのは俺と東條(東條英機を演じる秋元義人氏)と日本人スタッフふたりとか。「あれぇ! 誰もいないんだ」って感じで、その日は結局3時くらいに撮影が始まったんですよ。

あとは撮影現場を追い出されたり……。(最強武闘会の)トーナメント・シーンのホールがあったでしょう。あのホールのオーナーさんが、ナチスのマークを見てブードゥーをやってると勘違いして、「警察呼びますよ!」と言いだして。急いで撮って、最後の決闘シーンだけ外で撮ることになったり。あとはスタッフや役者さんたちがお互い喧嘩したり、食べ物はいつも無かったし、(劇中で使う)棺桶は最後の最後まで決まらなかったし、ドローンは壊れたし……。あとはバスが燃えたり。バスが燃えてもガーナの人たちはみんな普通の感じで、「あー、燃えてるね」っつって、それで終わりでしたけど(笑)。いやー……本当にトラブルだらけです(ため息)」

[画像:追い出されたホールでの撮影シーン。ちなみに使用しているマークはハーケンクロイツではなく“まんじ”]

[画像:なかなか決まらなかった棺桶(車型)が登場するシーン]

ピントが合ってなくても誰も気にしないんです

スタイン監督「いちばん大変だったのは編集だったかもしれない。編集は全部ニンジャマンがやる予定だったんですけど、1年以上待って、ようやくラフカットみたいなのが来たんだけど、「いやー、これ使えないなー……」と思って。それでフッテージを全部送ってもらったんだけど、一日中ピントが合ってないとかそういうのがいっぱいあったんですよ。そういうところは日本で自分で撮り直して……。

ガーナでも映画はたくさん作られているんですけど、ピントが合ってなくても誰も気にしないんです。向こうはだいたい台本がないんですよ。みんなフリーで会話している。怒るシーンがあったら「じゃああなたはここで怒ってください」と言って、自由に怒ってもらう。役者がモメて撮影現場に来ないなんてことも普通で、そうしたら違う人が代わりをやるんです。今回の映画でもあったんですよ。ゲーリング役の俳優はいきなりカメラマンとモメて、2日か3日来なかったんですよ! だからゲーリングの登場シーンに代わりにアドンコマン(※)が出てたりします」

(※)撮影現場に突然現れた、現地のお酒“アドンコ”の宣伝マン。そのまま映画本編に出演が決まった。

トラブルまみれのガーナでの映画撮影。それらの経験を踏まえての“ガーナの魅力”はなんだろうか。

スタイン監督やっぱり“自由さ”! 本当に自由! 僕はドイツ人で日本に住んでいてとても自由ですけど、僕らと比べたらもっと自由です。映画を作る前に長いミーティングを何回もやって、みたいなのは全然無い。映画を作るとなったら「よしやろう!」「失敗しながらでいいからとりあえずやろう!」そういうスタンスがとても好きだった。あまり悩みもなくて、一回決まったら「やりましょう!」、ただそれだけなんです」

ガーナ人がなぜ大阪弁字幕?

気になるのは、本編でガーナ人がしゃべるセリフの字幕がすべて大阪弁になっていることである。これは、監督の思い出から生まれたユニークなアイデアだった。

スタイン監督「私がドイツに住んでたころの話ですけど、私の一番好きな映画、70年代の香港のあんまり有名じゃないカンフー映画があって。ドイツなので全部の映画がダビングされてるんですね。で、この映画だけ、ドイツのババリア弁になってたんです。「中国人がババリア弁のドイツ語しゃべってる~!」って超喜んで観てて(笑)。日本の字幕でもその面白さを表現したかった。ガーナに一緒に来てくれた方が大阪人だったから、「大阪弁にしよう!」って。本物の大阪の人なので、パパっと作ってくれました」

“ネタ系”ナチス映画に苦情は来るのか

ナチスやホロコーストを題材に、悲劇を繰り返さないための教訓的な意味合いを持った映画は頻繁に作られている。それと同時に、ナチスに珍妙な設定を付加し、ネタ的に扱ったB級のホラーやSF映画も定期的に作られ、一定数のファンを獲得している。『アイアン・スカイ』や『カン・フューリー』や『処刑山 デッド・スノウ』などだ。

スタイン監督「そういう映画の存在を知ってはいるし、気になってるんですけど、まだ観てはいないんです! ヘンなヒトラーが出てくるのは多分一緒だけど、やっぱりジャンルが違うかな。今回の映画はあくまで“アフリカ映画”。実は、アフリカで映画を作ることがメインだったんです。アフリカ映画はたくさんあるんだけど、あまり海外で観られていないから、どうやって興味を持ってもらおうかなと考えて、じゃあヒトラーを使えば分かりやすくインパクトがあるかなって(笑)。黒人とヒトラーには差がありますよね。それが面白いかなって」

ネタ系ナチス映画に対し、「誰かに怒られるのでは?」「ドイツの人に怒られるのでは?」といった反応があるのも定番になっている。しかし、そういった“タブー視”がよくないのだと監督は言う。

スタイン監督「タブー視しちゃダメなんです。タブー視して見えなくすると、逆に興味をそそるから。でもバカにしてたら憧れる人もいなくなる。バカにして、ネタにしたほうがいいと思いますね。

こういう映画はたぶん、20年前だったらドイツでの上映は難しかっただろうけど、みんな昔からヒトラーを馬鹿にしてるから、慣れてきたところはあると思う。やっぱり、ミックスは大事だと思いますね。カンフーとアフリカを組み合わせてるから、奇妙すぎて「バカ(映画)だからいいんじゃない?」という反応になったと思います。この映画はドイツでも上映されましたけど、文句はひとつもない。実は僕も「文句が来るかな」と思ったんですけど、今まではゼロですよ。逆にドイツハーフの黒人とかからメールがきて、「すげえなー!おれもパート2に出たい」とか(笑)。そんな反応が多いんですよ」

この映画を作るという話をしたときに、母親に「あんた正気?」と聞かれたというスタイン監督。完成した映画に対するご両親の反応を聞いてみた。

スタイン監督お父さんは大笑いして「パート2に出たい」って(笑)。お母さんには「やめてくれー」って言われました(笑)。昨日も「インタビューがあるからヒトラーの格好しなきゃいけない」って言ったら「やめてくれー!」って言ってましたね(笑)」

スタイン監督の臆せず未知の環境へ飛び込むスタンスと、一度決めたら「やりましょう!」と突き進むガーナの人々のスタンスが融合して生まれた本作。現地の人々が演じたユニークなキャラクターが多数登場するが、監督の一番のお気に入りのキャラクターを聞いてみると、「自分で作ったキャラクターは自分の赤ちゃんみたいなものだから選べない」として、突然撮影現場に乱入してきた“アドンコマン”を挙げてくれた。そんなアドンコマンの魅力にも是非ご注目を。

『アフリカン・カンフー・ナチス』
6月12日(土)シアター・イメージフォーラム他にて公開
https://transformer.co.jp/m/akfn/[リンク]

監督:セバスチャン・スタイン / ニンジャマン
脚本:セバスチャン・スタイン
製作:プロデューサーマン
出演:エリーシャ・オキエレ / マルスエル・ホッペ / 秋元義人 / ンケチ・チネドゥ / セバスチャン・スタイン
2020 年 / ガーナ、ドイツ、日本合作 / 英語、ドイツ語、日本語、トウィ語 / 84 分 / ビスタ / カラー
原題:African Kung-Fu Nazis 日本語字幕:Kurofin Blackchang / 配給:トランスフォーマー

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情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 ネタ系ナチス映画に苦情は来るのか? 『アフリカン・カンフー・ナチス』セバスチャン・スタイン監督インタビュー