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『ムーンライト』や『レディ・バード』など作家性の強い作品で今やオスカーの常連となったA24と、『それでも夜が明ける』でエンターテイメントの定義を変えたブラッド・ピットのPLAN Bがタッグを組んだ『ミナリ』が現在公開中です。
『ミナリ』
1980年代、農業で成功することを夢見てアメリカ南部のアーカンソー州に移住してきた韓国人一家を描く『ミナリ』。父親は農業で成功したいと夢見てアーカンソー州の大地に広大な土地を買うが、現実は厳しく、一家には様々な困難と予想もしない事件が降りかかる。
先日発表された、第93回アカデミー賞のノミネート発表ではスティーヴン・ユァンが主演男優賞にノミネートされ、アジア系としては初の快挙を達成。作品賞、監督賞(リー・アイザック・チョン) 、脚本賞(リー・アイザック・チョン) 、助演女優賞(ユン・ヨジョン) 、作曲賞(エミール・モッセリ)と6部門で受賞が期待されています。
今回は5人組ガールズラップグループ「lyrical school」のminanさんに本作をご覧になった感想を伺いました。韓国映画やドラマがお好きで、主演のスティーヴン・ユァンのファンでもあるminanさん。映画について家族についての言葉をじっくりお読みください。
Q:映画をご覧になった率直な感想を教えてください。
これこそが日常であり、生活であり、人生であるということを、どこまでも誠実に描いているこの映画が私はとても好きです。
映る木々や水、土や草の瑞々しさに、いつのまにか、どこか自分を省みていました。
何もかもなくなってしまったかのように感じても、また、雑魚寝から始める。無に思えること、その繰り返しが人生なのかもしれません。山しか描かれていない坊主のカス札も、10枚集めたら1点になるように。
Q:印象に残ったシーン、セリフなどはありますか?その理由も教えてください。
◯トレーラーハウスで、父ジェイコブと母モニカが大喧嘩をした翌朝のシーン。
家族3人がテーブルで朝食を食べる横で、ジェイコブは飲み物を一口飲み、帽子をかぶって微笑みながら「出かけてくる」と言い、姉のアンが「はい」と返事をします。その後母モニカが「ご飯食べて」と弟のデイビットの顔をくしゃっと触る一連の流れに、喧嘩翌日特有の照れ臭さのようなものを感じて、それがこの家族らしさを表していて好きでした。
◯ジェイコブがダウジングの営業を断った後にデビッドと会話するシーン。
移民であるという事実も、ジェイコブたちの生活に強く影響していました。それはどちらか一方ではなく互いの意識の中にあるのもので、直接的な苦悩や悲しみというよりも、日常にあるささやかな歪みとして描かれており、だからこそ、ジェイコブ一家がこの映画の中で確かに生きているのだという主張が、その体温まで感じられるほどにリアリティをもって強く響いてきました。
◯ジェイコブが農場で煙草を吸うシーン。
中盤、ジェイコブがひとり農場でしゃがみながら煙草を吸う場面が強く印象に残っています。草むらの中、なんともいえない表情でひとり煙草を吸うジェイコブを観ていると、まだ暑い時期の夕方特有のむせ返るような匂いすらこちらまで漂ってくるようでした。
Q:特に印象に残ったキャラクター、好きなキャラクターがいれば、その理由も教えてください。
祖母のスンジャです。
孫デビッドが元々想像していたおばあちゃんらしさをひとつも持っていない、まるでやんちゃ坊主のようなおばあちゃん。花札をすれば子供に聞かせたくないような汚い言葉を次々言いながら本気になって遊び、テレビで格闘技の試合を見ながら片膝立てて選手を罵る。でも、だれよりも孫と同じ目線でものを見て、その気持ちを理解し包み込む懐の大きさと優しさがある彼女の魅力に、思いきり引き込まれました。最初は距離が離れていた孫2人との関係性もどんどん近くなり、終盤の某シーンで、おばあちゃんがもたらしたデビッドの決意にはグッときてしまいました。
Q:本作ではそれぞれの視点から「家族」が描かれています。minanさんが本作での家族の描き方に感じたことがあれば教えてください。
普段忘れがちなことですが、信仰や信念というのは、家族であってもそれぞれで持っていたり持っていなかったり、必ずしも一致するものではありません。
目に見えないものを信じない父、お祈りや霊媒にも希望を見出す母、自分の芯を見つけようとする息子、どれをも否定せずに柔軟でいる祖母。家族といえど違う人間だから、お互いを想っていても、ぶつかることがあります。
それでも、互いのバランスが取れそうな地点を見つけながら積み重ねていく日々のなかで、頑なになっていた部分がだんだんとほどけていくこともあるのだと、ダウジングで見つけた水脈に石を置いたジェイコブを見ながら思いました。
しかし、時にぶつかり合い、やりきれない出来事や気持ちを共有し、そのうえで一緒にいることを選ぶ家族もあれば、例えばやがて離れることを選択する家族もあっていいはず。その生活において、多くの家庭に通じるような“普遍性“を感じるシーンが描かれているジェイコブ一家に共感を覚えつつ、それだけが自分の中のスタンダードになってもいけないという戒めの気持ちすら同時に感じさせてくれました。
Q:本作で、スティーブ・ユアンさんは主演だけではなく制作に入られています。minanさんがもしプロデューサーや制作側に入るとしたら、どんな映画を作りたいですか?
私が好きな映画の読後感(読み物ではないですが)が、後味が良いだけで終わらない映画なので、そういうものを撮れたらと思っています。地に足のついた、というのでしょうか。現実はハッピーエンドにならないことの方が多いですよね。だから、もし、人生や日常を切り取って描く映画を作るんだったら、そこだけはなるべく忠実に作れたらなと。それこそ「ミナリ」は、本当に誠実な映画だと感じました。ただ、これは映画を作ったこともない私が好き勝手に言っているだけです!(笑)
Q:minanさんはスティーブ・ユアンさんがお好きだと思うのですが、『ウォーキング・デッド』のお好きな話(シーズン、回など)、その他おすすめのユアン作品があれば教えてください。
これは話し出したら止まらなくなる!(笑)
まずTWDの好きなシーン。
持ち前の身軽さと賢さで窮地を脱出しつつも、まだリックやダリルほど頼り甲斐があるとは言えなかったグレンが、マギーと出会い、仲間と出会い、誰よりも逞しく強くなっていくのがたまらないです。
ピザ配達員の本領発揮した登場シーンも、ウォーカーまみれの回転扉で絶体絶命のシーンも、賛否両論を生んだあのラストシーンも(「君を見つけるよ」は、自分の曲のサビの歌詞に応用しました)、グレンにまつわる場面は名場面が多いのですが、強いて選ぶとしたら、シーズン2・第4話。
出会ってまだ月日が浅いマギーとグレンが、薬局に物資を調達しに行くシーン。あることを告白をしたグレンに、マギーが……というシーンなのですが、今思えば、こんな始まり方をした2人が、固すぎるほどの絆で結ばれる夫婦になったんだなあとしみじみしてしまいます。それにしても、まだこの頃は平和でしたね、ウォーキング・デッド。
その他スティーブン・ユアンさん出演の好きな作品は、「バーニング 劇場版」です。村上春樹の「納屋を焼く」を原作に、イ・チャンドン監督が製作した映画です。
スティーブン・ユアンさんは、主人公から見て、金持ちでポルシェを乗り回し何を考えているかよく分からないミステリアスな男、ベンを演じています。飄々とした演技で物語に奥行きを持たせていて、凄みがあります。私がそれまでに観ていたスティーブン・ユアンさんの作品が、好青年の役どころが多かったので、非常に新鮮に映りました。ただ、どんなスティーブンも好きです(笑)
Q:自宅で映画やドラマをご覧になる時のこだわりはありますか?
部屋にプロジェクターを置いているので、それで壁に映して大画面で観ています。あったかい紅茶がお供です。あればドリトスも!スマホは機内モード。
できるだけ観る前に情報は入れたくないので、あらすじや、◯◯賞受賞など、可能な限り目に入れないようにしています。
【minanさんプロフィール】
誕生日:12月5日
出身地:群馬県
メンバーカラー:紫
好きな食べ物:さつまいも、タイ料理
4月7日にlyrical schoolのニューアルバム『Wonderland』をリリース。グループの活動のみならず、個人としてトークライブなどにも多数出演し、地元のラジオ局FM GUNMAで週1パーソナリティーも務める。
https://twitter.com/Minan1205 [リンク]
https://www.instagram.com/_manybooks_/ [リンク]
『ミナリ』現在公開中!
■原題:MINARI
■全米公開日:2021年2月12日
■2020年/アメリカ
■脚本&監督:リー・アイザック・チョン
■出演:スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、アラン・キム、ネイル・ケイト・チョー、ユン・ヨジョン、ウィル・パットンほか
■配給:ギャガ
■上映時間:116分
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