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人気ホラーゲーム『バイオハザード』シリーズの最新作である、『バイオハザード RE:3』。本作は、短時間で「パニックホラー」としての恐怖を堪能させてくれる、良質ホラーに仕上がっていた。
『バイオハザード RE:3』は、シリーズ第三作『バイオハザード3 LAST ESCAPE(以下、旧3)』のリメイク作品。それだけでなく、『バイオハザード RE:2(以下、RE:2)』の続編でもある。『バイオハザード RE:2』が『バイオハザード2(以下、旧2)』のリメイクなのだから、『旧3』のリメイクである本作が『RE:2』の続編というのは当たり前……と思うかもしれないが、そうではない。本作は『RE:2』と時間軸が被っており、密接に繋がっている。『RE:2』の裏側が描かれているという意味で、直接的な続編なのだ。
さらに、REエンジン使用タイトルの第三弾でもある。REエンジンは、『バイオハザード7 レジデント イービル(以下 バイオハザード7)』から使用されている、写実表現に優れたゲームエンジンだ。本エンジンの使用によって『バイオハザード』は、それまでとは「別格の」恐怖を手に入れたと言っていい。
ところで、筆者は個人ゲームクリエイターとしてホラーゲーム作家を名乗らせていただいている。その立場だからわかるのだが、ゲームに限らずホラー作品の続編というのは非常に難しい。というのも、人間は慣れると怖くなくなってしまうからだ。その一方、人は続編を求めるとき、「前作と同じような味わい」を求める。なので、たいていの場合、ホラー作品がシリーズを重ねると、アクションものやコメディ風味のB級へと変化していく。ちゃんと「怖い」ホラーの続編を作るためには、怖さの「質」を変化させ続けなければならない。
この意味で『バイオハザード』シリーズも、怖さの「質」を変化させ続けるというチャレンジを続けてきた。第一作で「館を歩き回ることそのもの」が怖いというゾンビゲームのコンセプトを提示。第二作では2人の主人公によるザッピングシステムを導入。前編と後編のシナリオで同じ場所を舞台としながら、構成を変化させることで「緊迫感のある」恐怖を実現した。そして第三作で提示したのは、「追跡者ネメシスに追われる」という恐怖。そして第四作以降は、アクションアドベンチャーからTPS(サードパーソン・シューティングゲーム)にスタイルを変え、アクションものとしての比重を増していくことになった。この流れを変えたのが、『バイオハザード7』だった。
(「バイオハザード7」より)
『バイオハザード7』は、恐怖の原点回帰を謳い、第一作以来で再び「館を歩き回ることそのもの」の怖さを3つのポイントから提示した。
1.これまでのゾンビではなくベイカー家という狂気に満ちた一家が恐怖の対象となったこと。
2.シリーズ初の1人称視点を取り入れたこと。
3.REエンジンの写実的グラフィック…などによって実現したこと。
このため「館を歩き回ることで怖がらせる」というシリーズ第一作と同一コンセプトなのだが、恐怖の種類は異なっている。
(「バイオハザード7」より)
そして、『RE:2』はザッピングシステムこそなくなったものの、『旧2』が本来持っていた2人の主人公が同じ場所を探索する要素を継承することで、『バイオハザード7』の恐怖を深めた。こうした流れの上で本作『バイオハザード RE:3』が存在している。これは、シリーズ第一作~第三作が恐怖を提示した流れに近い。
(「バイオハザードRE:2」より)
以上の流れを踏まえると、『RE:3』では追跡者ネメシスに追われるという恐怖がアップデートされることになる……はずだったのだが、それは難しい。『RE:2』をプレイした人ならご存知のはずだが、追跡者に追われる恐怖というのは、『RE:2』の中ですでにたっぷりと描かれているからだ。
(「バイオハザードRE:2」より)
『RE:2』では、タイラントという追跡者が登場する。これ自体は『旧2』の要素だが、『旧2』では、表シナリオでは登場せず、裏シナリオから登場するという形だった。しかし『RE:2』では表シナリオから登場するように変更され、ほぼ全編に渡って追跡者・タイラントが登場。このため、『RE:3』で追われる恐怖をメインにしてしまうと、『RE:2』の焼き直し感が強くなってしまう。筆者は『RE:3』が発表されたとき、「一体どうするんだろう?」と思っていた。
結果として『RE:3』が提示したのは、「パニックホラー」としての恐怖だった。大量のゾンビ。パニックによって崩壊する街。襲い来る追跡者ネメシス。矢継ぎ早に訪れるトラブルを乗り越え、ゾンビパンデミックにより崩壊が進むラクーンシティから脱出するパニックホラー。これが『RE:3』で味わえる恐怖だ。
探索がベースとなっている『バイオハザード7』『RE:2』は、ゲームの作り的にもマップの作り的にも、一度訪れた場所を何度も巡るような作りになっている。これに対して本作は、先へ先へと進む構成。もちろん、探索を行う場所も存在しているのだが、『バイオハザード7』『RE:2』ほど複雑な構造にはなっていない。
こうした構成を後押しするように、緊急回避アクションが追加されている。緊急回避アクションは、L1ボタンを動かしながらLスティックを倒すことで繰り出せる(PS4の場合)。ゾンビの攻撃も追跡者ネメシスの攻撃も、この緊急回避アクションを繰り出せば回避が可能だ。「難易度:スタンダード」をプレイした印象だが、銃弾も大量に出てくる。こうした要素によって、ゾンビを攻撃しながら、あるいは避けながら、どんどん先に進んでいくことが可能なため、プレイ感はアクションゲームに近い。
アクションゲームに近くなったことで、正直なところゾンビの怖さは薄まった。しかし、その代わりに恐怖を与えてくれるのが、追跡者ネメシスをはじめとする突発イベントの数々だ。「え? 前の段落で、『追跡者に追われる恐怖は、RE:2の焼き直しになっちゃう』とかって書かなかった?」そう思わせたかもしれない。だが、そうではない。本作のネメシスは『RE:2』のタイラントのように、足音を鳴らしながら徐々に近づいてくるのではなく、突発的に登場する。しかも「えっ!? そんなとこから出てくんの?」という場所から突然来る。本作は「追われる」恐怖ではなく「突発的に登場する」恐怖なのだ。ネメシス以外にも様々なイベントが「突発的に登場する」することで、舞台であるラクーンシティのパニックが伝わってくる。これは、まさしく「パニックホラー」の恐怖だ。
パニックホラーとしてプレイしたとき、『バイオハザード RE:3』は非常に楽しめる作品だと思う。しかし、気になる点がないわけではない。それはボリュームが少ないこと。初プレイで右往左往しながらプレイしたとしても、おそらく6時間前後でクリアできてしまうだろう。個人的には長いパニックホラーは中だるみしてしまうので、これくらいでちょうどいいと思う。ただ、前作『RE:2』が非常にボリューミーだったため、プレイしたユーザー目線で比較されると、ボリューム不足に感じてしまうのは避けられないだろう。そもそも『旧3』は「ライブセレクション」というストーリー分岐要素を持っていたが、今回のリメイクにあたって一本道のストーリーに変更されたという点もボリュームに影響している。
しかし、『バイオハザード RE:3』というゲームがボリューム不足なわけではない。なぜなら『バイオハザード レジスタンス(以下、レジスタンス)』という作品と二本立てになっているからだ。
『レジスタンス』は、サバイバー4名とマスターマインド1名、合計5名のプレイヤーで楽しむオンライン非対称型対戦ゲームだ。サバイバー側は制限時間内に出口に到達すれば勝利。マスターマインド側は制限時間がなくなるまで、サバイバー側の出口到達を防げば勝利する。
『レジスタンス』のプレイ感は、脱出を狙うサバイバー側とそれを追うマスターマインド側で大きく異なる。サバイバー側のゲーム性は、本編のプレイ感に近い。ゾンビをはじめとするクリーチャーを倒しながらカギとなるアイテムやギミックを探し、出口へと向かう。4人でのマルチプレイなので、『バイオハザード5』のCOOPを楽しんでいるかのようなプレイ感だ。
一方、マスターマインド側のプレイ感はリアルタイムストラテジー(RTS)的だ。リソースを消費して、手札からカードを繰り出す。カードによって、ゾンビなどのクリーチャーやトラップを配置していく。配置したクリーチャーは自動的に動いてサバイバーを攻撃してくれるが、マスターマインド側で操作して動かすことも可能だ。
『バイオハザード』は、まず怖さを楽しむ作品だが、タイムアタックや「ザ・マーセナリーズ」「レイドモード」といったやり込み要素も楽しめる作品でもある。『レジスタンス』もまた、プレイを通じて育成・収集を行っていく要素を持っており、たっぷりとやり込める作品なので、『RE:3』のボリューム不足を補って余りあるものになっていると感じられた。
まとめると、『バイオハザード RE:3』は、既存作の延長線上に位置する作品ではなく、「パニックホラー」を描いた良質ホラー作品だ。もちろん、これまでの延長線上にある「ゾンビの怖さ」を求めていた人も多いだろう。しかし、筆者個人としては、慣れてしまうと怖さが失われるホラー作品の特性上、「パニックホラー」に舵を切ったことは正しいと感じた。そして、本作で新たな恐怖へ挑む姿勢を見せてくれたからこそ、次回作もまた新鮮に違うやり方で怖がらせてくれるだろうと期待している。気が早いかもしれないが、次回作が発表されるのを『バイオハザード レジスタンス』を楽しみながら待ちたい。
バイオハザード RE:3 | CAPCOM:
http://www.capcom.co.jp/biohazard/re3/[リンク]
文/田中一広
(執筆者: ガジェット通信ゲーム班)