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スティーヴン・キングの同名小説をスタンリー・キューブリック監督が映画化した『シャイニング』。その惨劇から生き残ったダニーの40年後を描く映画『ドクター・スリープ』が11月29日(金)に日本公開を迎える。
今年8月、ロサンゼルスで各国のメディアを集めたロングリードインタビュー(先行取材)が実施され、同じくキング原作のNetflix映画『ジェラルドのゲーム』などでもタッグを組んだ、監督・脚本のマイク・フラナガンとプロデューサーのトレバー・メイシーが、キングやキューブリック、そして映画と小説それぞれの『シャイニング』について語った。
――『シャイニング』はホラー映画ジャンルの傑作ですが、続編を作るためのアプローチはどういうものでしたか? もちろん、大きなプレッシャーがあったと思いますが。
マイク・フラナガン監督:圧倒的なプレッシャーがあった。今でもそうだよ。キューブリックの影だけじゃなかったと思う。僕は子どもの頃からスティーヴン・キングに心酔して育った。だから、そちら側からもとても大きなプレッシャーがあった。なぜなら、キューブリックの映画に対するキングの意見が複雑なことはよく知られているからね(笑)。
――(一同笑)
フラナガン監督:キングは、僕がストーリーテラーを志したきっかけの人物なんだ。そして『シャイニング』は、ホラー映画を作りたいと思った理由の一つだ。これら二つのことを踏まえて、失敗してもせめて恥ずかしくないものを作ろうとするのは、ものすごいプレッシャーだった。
――あなたが今そのことに触れたのでお聞きしますが、一つのストーリーに対する二つの意見のバランスをどのように取ったんですか?
フラナガン監督:とても難しかった。それは、若い頃から僕の映画に対する意見を形成し、作り上げてきたキューブリック映画に特有なことは何なのか、と考えることであり、一方で、キングのキャラクターをどのように守るかということだった。キューブリックの『シャイニング』との多くの食い違いは、そこから来ていると思う。
ダニーの子ども時代の出来事は、明らかに大人になった彼を形成しているけど、キングはとても賢明なことに、『ドクター・スリープ』はまったく独自のストーリーにすると決めたんだ。それはダニーと少女アブラのストーリーなんだよ。それが試金石だった。もし僕らがキューブリックの『シャイニング』についてあまりに考えすぎると、そのプレッシャーにとても簡単に圧倒されてしまう。でももし、その代わりに、ダニーとアブラのストーリーのベストバージョンを語ることに集中すれば、『シャイニング』の要素がもっと受け入れられるようになり、もっと納得できるものになる。一般的に呪われたホテルや過去は、このストーリーに情報を与えるものだけど、その心臓音ではないと思うと、もっとずっとアプローチしやすいものになるんだ。
トレバー・メイシー:他の言い方をすると、ただキューブリックの『シャイニング』の続編を作るようにと依頼されていたら、多分、僕らの答えは「ノー」だっただろう。でも、キングは僕らに設計図を与えてくれた。それは、キャラクターに基づいたもので、そういう意味で共感しやすいものだ。もしそういう設計図がなければ、この映画を作らない理由はたくさんあっただろう。
フラナガン監督:そして、彼がこれらのストーリーの間に作り出した違いは、同じコインの両側なんだ。なぜなら、キングの『シャイニング』とキューブリックの『シャイニング』は、中毒についてのストーリーなんだ。キングは、彼の中毒が、彼の家族にどういう影響を与えたのか分析していた時、それを書いたんだ。でも、『ドクター・スリープ』を書く前に、10年間シラフでいたことを考えると、『ドクター・スリープ』は再生について、そして(過去を)振り返ることについての小説なんだ。
――「中毒」というのは、あなたにとってどんな意味がありますか?
フラナガン監督:僕にとって? 僕は、酒飲みのアイルランド人の長い家系の出身なんだ。だから、それは複雑な質問だよ。僕にとって中毒とは、僕らの本質の両面について熟考するようなものだと思う。僕らのある面は、何かをクリエイトしたくて、もう一つの面は、何かを破壊したいんだ。中毒がどういうものかというと、僕らが自分たち自身を破壊するということだ。愛する人たちを破壊するんだ。それはある意味、愛と同じなんだ。
「再生」は、まったく別のことだ。それは、すごく内省を必要とする。自分自身を、倫理的に整理することになる。ある意味、そのためには恐れ知らずでないといけない。それが、これら二つのストーリーの主要な違いなんだ。同じ人がそれら両方のストーリーを書いた。でも、それらをフェンスの反対側から書いたんだ。そして、『ドクター・スリープ』を書くために、キングはかなり内省しないといけなかった。ダニー・トランスが、ジャック・トランスの持っていた怒りや中毒と同じ問題を持っていたのは偶然じゃない。彼は、彼の父親の息子なんだ。だから、そういうことすべてが、彼の存在全体を形成してきた。
メイシー:それが、今作を共感できるものにしていると思う。ほとんどの人々にとって、子ども時代の恐れとトラウマを分けることは不可能だ。でも、そのトラウマが、世界中に文学と映画というかたちで提示されたダニーのストーリーを語るのはとても興味深いよ。その人が大人になった時どういう人になっているのか。また、彼はトラウマをどのように扱っているのか。それは、僕らが描かずにはいられないことだった。そして、ユアン(・マクレガー)は、とても素晴らしい仕事をしたんだ。
――スティーヴン・キングと何か興味深いやりとりはありましたか?
フラナガン監督:キングは、自身の本の映画化にどうアプローチするかということに関して、とても興味深い人なんだ。彼は、製作過程のどの段階においても、とても大きな承認権を行使することが出来る。でも、彼は後ろの方にいることを選んだ。彼は、「僕はどちらにしても勝つことになる」と言っていたよ。もし映画がひどければ、人々は「原作の方が良かった」と言う。そして、もし映画が素晴らしければ、彼らは「もちろんそうだ。この素晴らしい本に基づいているからって言うんだ」ってね。
――私にはこういう理論があるんです。間違っているかもしれませんが。彼がキューブリック映画を好きじゃなかったのは、キューブリックの映画の方が、彼の本より良かったからじゃないかと。
フラナガン監督:ワーオ。彼が何と言ったかは知ってるけど……。
メイシー:僕も知っているよ。
フラナガン監督:彼は過去に、あの映画を「エンジンを積んでいないキャデラック」と言ったんだ。キューブリックの共感や人間性は、キングよりもあからさまではないカタチで現れている。キングは、心のうちを率直に話す傾向がある。『シャイニング』の興味深いことは、スティーヴン・キングが、彼の家族や彼のアルコール中毒について、彼自身の心の中で深く考えていることだと思う。キューブリックは、正気や狂気、核家族の崩壊を考えている。キングが言ったように、「この氷の世界の中で」ね。一方、キングのストーリーは、最後までには「この火の世界の中で」となるんだ。彼らは二人とも、同じストーリーを違う見方で見ているんだ。
僕らにとっては、キューブリックが作り上げた映画的世界を完全に受け入れ、祝福することなしに、『ドクター・スリープ』にアプローチすることは出来ないと思った。キングとのやりとりのトリックは、「はい。僕たちは、あなたがやったことに敬意を払います」と言うことだった。そして、呪われたホテルで彼がトランス一家をどう扱ったかという、今では映画の正典になっていることを変更しない、ということだった。過去に遡って、それを変えたりしないということだよ。僕らがやろうとしていることは、キングがダニーのために用意したジャーニーが守られるようにすることだった。彼は、ジャックのストーリーは映画の『シャイニング』で守られていないと感じたんだ。だから、それを調整するのは大きなチャレンジだった。彼がダニーのために作った新しいストーリーの中で、スティーヴンにとって重要だったのに、キューブリックが使わなかった多くの要素をそこでちゃんと描くようにすることだった。あのストーリー、あの映画のためには、キューブリックはそれらのことをやる必要はなかった。僕らの映画では、必要だった。
――呪われたホテルをどのように再現したのか教えてくれますか?
フラナガン監督:僕らはキューブリックの設計図で始めたんだ。ワーナーは、今でも彼のプロダクション・デザインのすべてを持っているんだ。でも、設計図に基づいてホテルを再現することは出来なかった。キューブリックはその設計図に従わなかったからだよ。準備中、僕らはあの映画を何百回と見た。そして、建設中にはフレームと設計図を比べるために、いつでも映像を見られるようにしていた。僕にとって最も深遠な瞬間は、初めて完成したセットに足を踏み入れた時だった。僕らは、出来る限り、すべてのちょっとしたディテールにいたるまで忠実に作ろうと必死で頑張った。たとえ、それがほぼ不可能であってもね。それはまるで、自分自身の記憶の中に足を踏み入れるみたいなんだ。呪われたホテルの空間は、僕らの想像の中に存在するんだ。僕ら多くの人々にとっては、子ども時代以来そうなんだ。
メイシー:僕らが格闘したもう一つの疑問は、呪われたホテルの玄関はどこかということだったよ。
フラナガン監督:それは答えるのがもっとも難しい質問だ。どこにロビーのドアがあるのか、みなさんに見つけてもらいたいな。なぜなら不可能だからだよ。
メイシー:もしわかったら、僕にメールして(笑)。
(聞き手:細谷佳史)
『ドクター・スリープ』
11月29日(金)全国ロードショー
公式サイト:doctor-sleep.jp
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