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結婚が成立する大事な3日めの夜、匂宮は母の明石中宮にお説教され、外出禁止を言い渡されます。思わぬ足止めを食ってしまい動揺する宮。とりあえず宇治に手紙を書いて出したものの、どうしたものかと思っていたところに薫がやってきました。
「久々に参内なさったのに、今夜こっそり抜け出してはますます中宮のお怒りを買うでしょうね。僕も宇治へ案内した責任を問われて、お叱りを受けるのではと青くなりましたよ」。
「オレが悪いみたいな言い方だな。オレが一体何をしたっていうんだ。みんないい加減なことばかり言って、だいたい、そこまで非難されるようなことでもないじゃないか。バカバカしい。ああ、こんな窮屈な身分なんてまっぴらだ。ないほうがマシだ!」
薫は宮の本気度を割り出そうと煽ったのですが、なるほど宮は本気の様子。そうこうしているうちにすっかり日は暮れて、夜も更けてきました。
「こうなれば同じことです。僕が宮の代わりに後を引き受けますから、馬で木幡山を越えて下さい!」と、宮を馬で送り出し、自身は宮中に残ることにしました。最低な作戦を立ててふたりをくっつけたのは自分ですから、ここは頑張ってフォローです。
覚悟を決めて中宮の御前へ参上すると「やっぱり宮はでかけたのね。本当に困った人!世間が何と噂することでしょう。陛下のお耳に入ったら、私のしつけがよくないと思われるのに……」。
あの可愛かったちい姫も43歳、今や不良息子の素行に悩むお母様。匂宮を含む5人の宮たちはすでに成人していますが、そんな大きな子供がいるとは思えないほど、ますます若々しく美しい中宮です。
薫は自分の(立場上の)姉を見ながら、彼女の産んだ唯一の皇女、絶世の美女と名高い女一の宮の面影を想像して胸をときめかせます。
「好色な男がけしからぬ事件を起こすのも、こうしてある程度まで接近できても想いを遂げられない、そんな焦れったい時なんだろうな。でも、いざ好きな人を前にして行動できない、こんな男って僕以外にもいるんだろうか……」
中宮の女房たちはどれも美人ばかり。中でも優雅で上品な人は薫の目にも止まります。わざと薫の気を引くような仕草を仕掛けてくる者もあります。それでも、薫はまるで興味が無いふりをしてスルーです。
「女もそれぞれ、個性があっていろいろだな」と観察をしながらも、薫はこんな時でも世の無常を噛み締めていました。
薫から晴れ着も贈ってもらったのに、夜遅くなっても宮は来ない。宇治が不安に包まれた頃、お使いが到着し「今日はいけないかもしれない」。ああ、やっぱりただの遊びの関係だったのかと、大君は胸も潰れそうです。
しかし夜半近くになって、荒々しい風と競い合うように宮が到着。雅に艶なその姿にみな感動し、当の中の君もやっと宮の本気度を受けとめ、夫に少し心を開いたように見えました。
母の中宮や姉の女一の宮など、名だたる美人をよく知る匂宮ですが、その方々と比べても遜色なく、美しくおめかしした女盛りの花嫁には目を奪われます。ようやくお互いの気持ちが重なりだしたカップルに、老女房たちは口々に言います。
「中の君さまは本当にもったいないほどのご器量ですから、普通の男との縁組だったらどんなに残念だったか。まったくおめでたいことですよ」。
「なのに大君さまときたら、どうして薫さまとすんなりいかないのかしら。おかしなくらい、どうにも頑固な方ですわね」。
中の君を褒めつつ、大君をディスる女房たち。自分の歳を顧みず、華やかな色の衣装に身を包んでおしゃれしているのが誰一人として似合っていないのを見て、大君は暗澹たる思いでした。
「この人達は自分を綺麗だと思ってこんな風に身繕いをしているんだわ。髪の毛を気にしたり、お化粧をしたり。それがまったく不似合いだとは思わずに……。
私もこの頃はやつれてしまった。顔立ちだって、あの女房たちよりはまだマシだと思うのも、単なる思い上がりなのだろう。あと数年も経てばますます衰えていくはず。ましてや、あの何もかも優れた薫の君と結婚なんて、絶対無理……」
この時、薫と中の君は24歳位、大君は2つ上なので26歳位。今で言えばまだまだ若者と言えそうですが、当時は40代でシニア入りと考えれば、とうに折り返し地点は過ぎている年齢です。
それにしても、そこまで深く考えなくてもいいのに、そんな風に考えるから痩せていくんだよ!! と、思うのですが……。
大君が感じている時のうつろいの無情さは、薫が何につけても感じている世の無常とシンクロしているかのよう。そういう意味でもお似合いのカップルではあるのですが、彼女はここまで悲観的。ひ弱な体で、痛々しく痩せた自分の手首を見て、ひとり孤独を深めるばかりです。
ピンチを乗り越え、晴れて結婚と相成った匂宮と中の君。ふたりは明けの空を共に眺めます。霧の立ち込める朝の宇治川、柴を摘んで行き交う小さな舟。そして朝日に浮かぶ新妻の可愛らしく、整った顔。
今までは自分の姉の女一宮こそが絶世の美女と思っていたが、もしかするとこの人はそれ以上ではないか。本当に、間近でいつまでも見ていたいような美しさです。
でも母上があの様子では今後はなかなか外出できないだろう……。そう思うと今から胸がふさがります。宮は中の君に事情を話し、たとえ来られなくても愛情を疑ってくれるな、いずれ京に迎えるつもりだから、と心をこめて説明します。が、中の君は「もう今から逢えないお話なんて、やっぱり噂の浮気心のせいかしら」と、早くも心配です。
突然の事態に、最初はわけも分からずショックだった中の君も、この3日の間に心境が変化していました。
「思いもよらないことだったけど、かえって薫の君と結ばれるより良かったのかも。あの方はどこか親しみづらいところがあって、気を使うところがあるけど、その点この宮さまは……」。
宮の明るさ、気さくさに次第に打ち解け、また今朝の光の中で見た優雅で美しい姿に改めて感じ入る中の君。「こんな立派な方と結婚だなんてまだ信じられないけど、今後長くお出でがなかったらどんなに心細いだろう」。でも、事が成ってから薫をこんな風に思う自分は浅ましい、とも思います。
宮は名残惜しげに、振り返り、振り返りしながら帰って行きました。帰京するとやはり身動きがとれず、宇治には手紙ばかりが届く日々。それを見て胸を痛めるのは当の中の君よりも、姉の大君です。
「いい加減なお気持ちではなさそうだけど、今からこうでは先が思いやられる。妹がかわいそうだわ」。とは言え、本当に辛いのは妹の方なんだからと、気丈に振る舞いながらも「やっぱり私は結婚はしないでいよう。こんな物思いの種を増やしたくない」と決意を固めます。
薫は薫で、ふたりをくっつけた責任を感じて、宮の動向をチェックしながら隙を見て宇治行きを勧めます。でも宮は今のところ、中の君に夢中で心変わりなどはない様子。「直接逢いにはいけないけど、気持ちの面では心配なさそうだ」と、ちょっとホッとするところも。
宇治の山に晩秋が迫った頃、宮の我慢も限界に達し、薫とふたりで再び宇治行きを決行します。毎日、宮のお出でがないのを待ち続けていた宇治はこの報せに喜び、早速お出迎えの準備です。最近こちらに高貴な宮様が通ってこられると聞いて、それにあやかろうと老女房の娘やら姪やらが数人、中の君の側仕えになっていました。ゲンキンな人たち、ここでも登場。
大君も宮の来訪を喜びましたが、薫も共に来たのが気になります。また面倒なことになるのでは、と思いつつも、自分や妹と一夜を過ごしても嫌がることをしなかった誠実さに、今は感謝の気持ちも抱いていました。それが彼のいいところでもあり、ダメなところでもあるのですが……。
宮は中の君の夫君としてのびのび振る舞いますが、薫は実のところまだゲスト扱い。先を越されたのはいたたまれません。さすがに気の毒だと、大君も物ごしに応対です。
「もうこんな所で立ち止まっていられない」と訴えられる薫に、大君は「新しい心配事に気を取られていまして。もうちょっと落ち着きましたら」。
宮と結ばれてすぐに辛い立場になった妹を目の当たりにしている大君は、ますます結婚を嫌なものと思うようになっていました。
「薫の君はご立派な方だわ。でも、やはりこれ以上の接触は持たずにいよう。たとえ好きだと思っていても、結婚すればお互いに幻滅してしまうこともあるはず。そんな風にがっかりせず、いつまでも良い関係でいるには、このままのほうがいいわ」。
いつもよりは素直に、でも固く襖を閉ざしたままで応対する大君。これほどガードの固い人なら、他の男を簡単に寄せ付けたりはしないだろうという希望的観測もあり、薫も無理をする気はありません。
でもやはり残念で「あなたのご意思を尊重しますが、こうして物ごしのおしゃべりだけでは不満ですよ。どうかもっと近くに。お顔を見せて下さい」と言うと、大君は珍しく明るい笑い声を立てました。
「この頃の私はずいぶんやせ衰えてしまいましたの。やつれた顔で、あなたにお目にかかってがっかりされはしないかと、そんな事が気になっていますのよ。おかしいでしょう?」。
自分の美しくない姿を見せたくないのは、相手のことが好きだから。大君の薫に対する気持ちはここまできています。女心ですねえ。でもだからこそ、彼と本当に結ばれてしまい、がっかりすることは避けたい。お互いにリスペクトしあえる良い関係でいることこそが、大君にとってもっとも重要なことでした。
薫は薫で、ただしっかりしているだけでなく、こんな魅力的なところを不意に見せる彼女をますます諦めきれません。
「こんな風で、僕の恋はいったいどうなるんだろう」。まさか薫が大君と別々に過ごしているとも知らず、匂宮が「あいつはすっかりこの家の主人気取りだね、いい気なもんだ」と言うのを、中の君は不思議そうに聞いていました。
簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
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